スコッチウイスキーとは|法令に無い産地名と英国法の三条件
スコッチウイスキーは、スコットランドで糖化から蒸留までを行い、七百リットル以下のオーク樽でスコットランドの倉庫に三年以上置き、アルコール分の下限が四十パーセントであること。この三つを満たしたものだけが名乗れます。決めているのは英国の法令で、日本の法令ではありません。
その「日本の法令ではありません」を、この記事は文字どおり確かめました。e-Gov法令検索の全法令横断検索に「スコッチ」と入れると、一件も返ってきません。旧かなの「スコツチ」も、漢字の「蘇格蘭」も同じく零件です。英国の法令が名指しで守っている五つの地名――アイラ、ハイランド、ローランド、スペイサイド、キャンベルタウン――も、日本の法令には単独で一つも立っていません。「シングルモルト」も「ブレンデッド」も「蒸留所」も「蒸溜所」も零件でした。
では「スコットランド」という国名は。こちらは四つの文にありました。二つは漁の海域を大西洋に数え入れる規定、一つは南極に残る石の小屋の記録、もう一つは在外投票の窓口の担当範囲です。酒の話は一文字もありません。この記事は前半でその四つと五つの地名を条文ごとに開き、後半でラベルの読み方と最初の一本の選び方に戻します。
スコッチウイスキーとは|先に答えと、確かめたこと

スコッチウイスキーは、スコットランドで造られたウイスキーです。ただし「スコットランドで造った」だけでは足りません。糖化も発酵も蒸留も現地の蒸留所で行い、樽詰めしたあともスコットランドの倉庫から三年間は動かせない。この三年という期間が、ほかの産地との最も分かりやすい線引きになっています。
先に答え|三つの条件
条件は三つに畳めます。第一に、スコットランドの蒸留所で、水と大麦麦芽(ほかの穀物は全粒のものだけ加えてよい)から造り、糖化も発酵も同じ蒸留所で行い、アルコール分九十四・八パーセント未満で蒸留を終えること。第二に、容量七百リットルを超えないオーク樽で、スコットランド国内の酒税保税倉庫または認められた場所に三年以上置くこと。第三に、アルコール分の下限が四十パーセントであること。加えてよいのは水とプレーンカラメル色素だけです。
この三条件を書いているのは、英国のスコッチウイスキー規則二〇〇九です。同じ規則の第十条が「アイラ」など五つの地名をラベル表示の資格として守っており、その条文の構造はアイラモルトの「アイラ」は英国法が守る五つの地名の一つで条ごとに追っています。本稿はそちらとは逆側、つまり日本の法令の側に何が書かれているかを見ます。
この記事が確かめたこと
調べ方は単純です。総務省が運営するe-Gov法令検索には、現行の法令の条文をまとめて串刺しにする全法令横断検索があります。ここに語を入れて、返ってくる法令の本数と文の数を数えました。該当が一つも無い語は、検索そのものがエラーとして返ってきます。以下で「零件」と書いているのはこの状態です。
注意点も先に書いておきます。この検索が見ているのは法律・政令・省令など現行の法令の条文だけで、国税庁の告示や業界の公正競争規約、日本農林規格、それに条約の附属書は含まれません。ですから零件は「誰も決めていない」ではなく、「法令の条文には無い」という意味です。もう一つ、この検索は部分一致なので、返ってきた法令の全文を開いて、その語が単独で立っているかを一本ずつ数え直しています。この記事でいちばん効いたのは、その数え直しでした。
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「スコッチ」という四文字は、日本の法令に一度も出てこない

まず「スコッチ」そのものを引きました。全法令横断検索は該当が無いとき検索自体をエラーで返します。返ってきたのはそのエラーでした。念のため書き方を変えて何度か叩きましたが、結果は変わりません。
零件だった語の一覧
| 引いた語 | 結果 | 備考 |
|---|---|---|
| スコッチ | 零件 | 現代表記 |
| スコツチ | 零件 | 拗音を大書きした旧表記 |
| 蘇格蘭 | 零件 | 漢字による国名表記 |
| ウヰスキー | 零件 | 旧かな表記 |
| シングルモルト | 零件 | 規則第三条第二項の区分名 |
| ブレンデッド | 零件 | 同上 |
| 蒸留所 | 零件 | 「留所」は八十七文あるが停留所・係留所・抑留所・けい留所 |
| 蒸溜所 | 零件 | 「溜所」も零件 |
「蒸留所」の零件は、少し意外に見えるかもしれません。念のため「留所」だけで引くと三十八本の法令に八十七の文が返ります。ただし中身は道路運送法施行規則や旅客自動車運送事業運輸規則の停留所が八十一、と畜場法施行令などの係留所が三、抑留所が二、火薬類取締法施行規則のけい留所が一で、酒を蒸留する場所を指した文は一つもありませんでした。旧字の「溜」を使った「溜所」も零件です。
「零件」を確かめるときにやったこと
零件という結果は、検索の側の都合で簡単に作れてしまいます。そこで三つの手順を踏みました。第一に、同じ作りの語をいくつか叩いて、機構的に落ちていないことを確かめること。「ウイスキー」は十四本の法令に六十八の文が返りますし、「麦芽」も十四本に二十一の文が返ります。つまり酒の語だから返らないわけではありません。
第二に、表記のゆれを全部当てること。日本の法令の条文は拗音を大書きすることがあるので、現代表記と旧表記の両方を叩きます。漢字表記の国名も試します。第三に、返ってきた語については全文を取り寄せて、部分一致で拾われていないかを数え直すこと。この三つ目が、次の章でいちばん効きました。
なお酒税法がウイスキーをどう定義しているか、そこに樽も熟成も年数も出てこないという話はウイスキーとは|酒税法の定義と度数、樽が出てこない理由が条ごとに追っています。本稿は定義そのものではなく、産地の名前のほうを追います。
英国が名指しで守る五つの地名は、日本の法令に一つも無い

スコッチウイスキー規則二〇〇九の第十条は、ラベルに書いてよい地名を五つだけ名指ししています。アイラとキャンベルタウンが protected locality、ハイランドとローランドとスペイサイドが protected region です。区分の違いと条文の書き方はアイラモルトの「アイラ」は英国法が守る五つの地名の一つが扱っているので、ここでは日本側だけを見ます。
五つを一つずつ日本の法令に当てる
| 地名 | e-Gov全法令横断検索 | 実際に指していたもの |
|---|---|---|
| Islay(アイラ) | 九本の法令に十四文 | すべて「アイラン」の一部 |
| Highland(ハイランド) | 零件 | ― |
| Lowland(ローランド) | 零件 | ― |
| Speyside(スペイサイド) | 零件 | ― |
| Campbeltown(キャンベルタウン) | 零件 | ― |
五つのうち四つは零件でした。残る一つ、「アイラ」だけが十四の文を返します。ところがその十四が曲者でした。
「アイラ」の十四文は、すべて「アイラン」の一部だった
検索語を一文字だけ伸ばして「アイラン」で引き直すと、返ってくるのはまったく同じ九本の法令の、まったく同じ十四の文です。件数が一つも減らないということは、「アイラ」で引っかかった十四文のうち、その三文字だけで立っているものは一つも無いという意味になります。
内訳はこうです。港則法施行規則に二文。一つは別表第一の神戸区第二区を区切る線で、六甲アイランド南西端から第七防波堤西端まで引いた線
からポートアイランド第二期地区南東端まで引いた線
へ続く一文。もう一つは別表第四の名古屋港の信号の規定で、飛島ふ頭南東端からポートアイランド北東端まで引いた線
とあります。財務省組織規則に二文で、こちらは神戸税関六甲アイランド出張所と神戸税関ポートアイランド出張所という役所の名前。都市再生緊急整備地域及び特定都市再生緊急整備地域を定める政令に一文。こちらは別表がひと続きで返るので、神戸ポートアイランド西地域
と、福岡の香椎アイランド線
という都市計画道路が同じ一塊に入っています。ここまでの五文は、埋立地と道路の名前です。
在外選挙人名簿及び在外投票人名簿に関する事務についての領事官の管轄区域を定める省令に三文。フィリピンのディナガット・アイランズ州です。二つは附則の経過措置で、在フィリピン日本国大使から在ダバオ日本国総領事へ担当を移したときの州名の列。残る一つは現に効いている別表そのもので、領事官の担当区域を並べた表がひと続きの一塊として返ります。その中に在ダバオ日本国総領事の行があります。
ためしに「アイランズ」だけで引くと、返ってくるのはこの省令一本の三文だけです。日本の法令が複数形の島々をこの綴りで書いた例は、フィリピンのその一州しかありませんでした。
残る四文が、いちばん人を食っています。研修員手当の号の適用に関する規則に二文、対内直接投資等に関する命令に一文、不正競争防止法にひもづく外国の記章などを定める省令に一文。いずれも国名を五十音順に並べた表で、末尾が「ア」で終わる国名の直後に「イラン」が来ているだけでした。順に、サウジアラビアとイラン、リトアニアとイラン、イタリアとイラン、インドネシアとイランです。表の升目としては別々に置かれていて、検索が文としてつなげたときにだけ「アイラ」の三文字が生まれます。
実体のある名前は、アメリカ原産の鶏だった
九本のうち二本、養鶏振興法と同施行規則の分をまだ書いていませんでした。こちらは埋立地でも国名の継ぎ目でもなく、実体のある名前です。
この法律において「標準鶏」とは、次に掲げる鶏の品種であることを示す外形上の特徴で農林水産省令で定めるものを備える鶏をいう。一 単冠白色レグホーン種 二 横はんプリマスロック種 三 単冠ロードアイランドレッド種 四 ニューハンプシャー種 五 名古屋種 六 三河種 七 その他農林水産省令で定める品種
養鶏振興法(昭和三十五年法律第四十九号)第二条第一項より。三号の単冠ロードアイランドレッド種が、日本の法令で「アイラ」の三文字を含む数少ない実体の一つです。しかも同法施行規則の別表では表記が旧かなに寄って単冠ロードアイランドレツド種
となり、くちばしは赤角色
、羽装は濃暗赤色
、すね及びゆびは赤褐色をおびる濃黄色
と欄ごとに定められています。
ただし「アイラの三文字を含む実体はこの鶏だけ」とは書けません。同じ在外選挙人名簿の省令の別表には、在ボストン日本国総領事の受け持ちとしてロードアイランド州
が、カナダの行にはプリンスエドワードアイランド州
が並んでいます。この二行も、じつは十四文の内側にいます。在外選挙人名簿の省令から返る三文のうち一つが別表まるごとのひと続きで、その一塊が二つの州名を抱えているからです。
つまり十四という数は、条文に「アイラ」が現れる回数ではなく、検索が文として拾った回数でした。全文を取り寄せて数え直すと、港則法施行規則に四、財務省組織規則に四、在外選挙人名簿の省令に六、都市再生の政令に三、養鶏振興法と同施行規則に三。合わせて二十です。それでも結論は動きません。増えたぶんもすべて「アイラン」の一部で、都市再生の政令で増えた分は先ほどの香椎アイランド線でした。アイラ島の泥炭を焚いた煙の話をしたいときに、日本の法令から返ってくるのは埋立地と州名とアメリカ原産の鶏でした。ボストンの地名を国がどこに書いているかはボストンクーラーとはが同じ別表を扱っています。
「スコットランド」が出てくる、四つの文

地名は零件でも、国名なら出てきます。「スコットランド」で引くと四本の法令に四つの文。少ない代わりに、四つとも読みごたえがありました。
| 法令 | 置かれている場所 | 何を決めている文か |
|---|---|---|
| 漁業の許可及び取締り等に関する省令 | 第一条第二項第三号 | どの海を大西洋に数えるか |
| 特定大臣許可漁業等の取締りに関する省令 | 第一条第七項 | 同上 |
| 南極地域の環境の保護に関する法律施行規則 | 別表第四の四十二 | 南極で守るべき史跡 |
| 在外選挙人名簿及び在外投票人名簿に関する事務についての領事官の管轄区域を定める省令 | 別表 | 在外投票の窓口の担当範囲 |
二つは、海の数え方だった
一つめと二つめは、ほとんど同じ文です。漁業の許可及び取締り等に関する省令の第一条第二項は、この省令を適用するときにどの海域をどの大洋に含めるかを三号に分けて決めています。その第三号がこうです。
アゾフ海、黒海、マルマラ海、地中海、ビスケー湾、イギリス海峡、ブリストル湾、アイリッシュ海及びセント・ジョージ海峡、スコットランド西部諸海、北海、スカゲラク海峡、カテガット海峡、バルト海、ノルウェー海、グリーンランド海、ラブラドル海、デービス海峡、バフィン湾、ハドソン海峡、ハドソン湾、セント・ローレンス湾、ファンディ湾、メキシコ湾、カリブ海、ラ・プラタ川河口部並びにギニア湾の海域
漁業の許可及び取締り等に関する省令第一条第二項第三号より。この列挙が右側の大西洋の海域
に含まれる、という形の規定です。特定大臣許可漁業等の取締りに関する省令のほうは第一条第七項に、同じ列挙を並べたうえでは、大西洋の海域に含まれるものとする。
と続けています。
つまり日本の法令にとってスコットランドとは、まずその西側にある海のことです。日本の遠洋漁船がどの許可でどこまで行けるかを決めるために、大西洋の輪郭を引く必要があった。その輪郭線の途中に地名として現れます。
国そのものの名前なら、もっとたくさん出てきます。「グレートブリテン」で引くと二十八本の法令に四十七の文。地方税法施行令、防衛省設置法、自衛隊法、関税法施行令、租税条約等の実施に伴う特例法の施行令と省令、地方公共団体の調達手続の特例政令などです。租税条約の相手国として、防衛協力の相手国として、関税や地方公共団体の調達の相手国として、英国は繰り返し書かれています。ただし四十七の文を通して、酒もウイスキーもアルコールも飲料も一度も出てきません。国の名は数多く書かれ、酒の産地としては一度も書かれない。これが日本の法令から見た英国です。
一つは、南極に残る石の小屋だった
三つめは、地球の反対側にありました。南極地域の環境の保護に関する法律は、第三条第十三号で「史跡及び歴史的記念物」を環境省令に委ねています。受けた施行規則の別表第四が、番号を振って一つずつ挙げていく長い表です。その四十二番が、これです。
サウス・オークニー諸島のローリー島のスコシア湾内の地域にある千九百三年にW.S.ブルース率いるスコットランド探検隊により建てられた石の小屋、千九百五年に建てられたアルゼンチンの気象及び磁気観測所並びに千九百三年から十二個の墓のある墓地
南極地域の環境の保護に関する法律施行規則別表第四の四十二より。位置は南緯六十度四十六分、西経四十四度四十分と添えられています。表には三十八番にスウェーデン隊の小屋、四十一番にC.A.ラルセンの石塚と、同じ時代の探検の跡が前後に並びます。日本の法令が「スコットランド」の名を、海の輪郭でも行政の区割りでもなく、人の営みの跡として書いた唯一の文です。なお同じ法律の第十四条のほうは酵母の持込みを扱っていて、その読み方は生ビールとはで追いました。
一つは、投票の窓口の担当範囲だった
四つめは在外投票です。公職選挙法第三十条の四を受けたこの省令は、本則が条名のない一文だけで、中身はすべて別表に入っています。領事官ごとに担当区域を並べた表で、英国の行が二段になっています。
在英国日本国大使 英国(在エディンバラ日本国総領事の管轄区域を除く。)及びその属領(植民地、保護領及び保護国を含み、他の領事官の管轄区域を除く。)/在エディンバラ日本国総領事 英国(スコットランド全域、クリーブランド県、カンブリア県、ダーラム県、ノーザンバーランド県及びタインアンドウェアー県の区域に限る。)
在外選挙人名簿及び在外投票人名簿に関する事務についての領事官の管轄区域を定める省令別表より。ここで初めて、国が「スコットランド全域」という線を引きます。ただし引いた理由は酒ではなく、在外選挙人名簿の登録をどちらの窓口で受け付けるかを決めるためです。しかもこの線はスコットランドの外へはみ出しています。イングランド北部の五つの県が同じ担当に入っているからです。ウイスキーの産地としてのスコットランドとは、境界そのものが違います。
「モルト」も「泥炭」も、酒の言葉としては立っていない

産地名の次は、原料と製法の言葉です。こちらも同じように引きました。
「モルト」は十九世紀の条約の署名者だった
「モルト」で引くと二本の法令に二つの文。どちらも明治期に公布された条約です。一つはメートル条約で、末尾の全権委員の名前がずらりと並ぶ行。もう一つは海底電信線保護万国連合条約ノ説明書で、丁抹全権委員モルト
とあります。丁抹はデンマークのことです。返ってきた二文は、いずれも人の名前でした。
では日本の法令に麦芽の話が無いかというと、そうではありません。漢字の「麦芽」で引けば十四本の法令に二十一の文が返り、そのうち六文は酒税法です。国は麦芽を書いています。書いていないのは、カタカナの「モルト」という呼び方のほうです。原料としての麦芽の扱いはウイスキーの原料とはで整理しています。
泥炭は、土と地面の法令にある
スモーキーな香りのもとになるピートは、漢字で泥炭と書きます。こちらは十本の法令に十三の文がありました。十本の内訳は、土と地面の側が七本、通商の側が三本です。土と地面の側は北海道国有未開地処分法をはじめとする七本で、そこでの泥炭は耕しにくい土地であり、地質図に描く凡例であり、災害復旧の対象となる農地の土性です。通商の側は関税定率法、輸出貿易管理令、経済連携協定に基づく関税割当制度に関する政令で、輸入や輸出の品目としての泥炭です。
カタカナの「ピート」が法令でどう扱われているか、五文のうち四文が別の語の一部だったという内訳はウイスキーとはがすでに数え切っています。香りとしてのピートの強弱で銘柄を選びたい場合はピートの強いウイスキーのランキングが実物に即しています。
国がウイスキーの値段を毎月数えている、ただ一つの場所

産地の名前が無いからといって、国がウイスキーに関心を持っていないわけではありません。「ウイスキー」で引けば十四本の法令に六十八の文が返ります。その大半は酒税の体系で、残りは関税定率法、商標法施行規則の商品区分、昭和四十五年国富調査のための家計資産調査規則、そして小売物価統計調査規則の四本です。この最後の一本だけが、税とはまったく別の目的で毎月ウイスキーの値段を数えています。数量のほうなら酒税法第三十条の二が、酒類製造者に毎月の申告を求めています。毎月数えられていないのは、値段のほうでした。
小売物価統計調査規則の別表 一の項
小売物価統計調査規則(昭和五十七年総理府令第六号)は、統計法にもとづく基幹統計を作るための規則です。第二条が目的をこう書いています。
小売物価統計調査は、国民の消費生活上重要な支出の対象となる商品の小売価格及びサービスの料金を調査し、消費者物価指数その他物価に関する基礎資料を得ることを目的とする。
小売物価統計調査規則第二条より。調べる品目は別表に並びます。一の項の該当箇所を順番どおりに写すと、清酒 焼酎 ウイスキー ワイン ビール 発泡酒 チューハイ ビール風アルコール飲料
です。この一の項は第五条第一項第一号の調査員調査品目にあたり、ウイスキーが並ぶ行の調査日は毎月の十二日を含む週の水曜日、木曜日又は金曜日
。同じ一の項でも、鮮魚や野菜の行は月に三回です。都道府県知事が選んだ店へ、統計調査員が足を運びます。
ここに書かれているのは「ウイスキー」の四文字だけです。スコッチもバーボンもジャパニーズも、区別されていません。同じ別表がワインの品目名をどう乗り換えたかはハウスワインとはが、ノンアルコールビールがこの並びのどこに置かれているかはノンアルコールビールとはが扱っています。本稿が見るのは、ウイスキーの行に起きた別の出来事です。
一九九五年一月一日に、輸入品と国産品の区別が消えた
この規則の附則には、品目名を書き換えた記録がそのまま残ります。平成六年十一月一日施行の改正のただし書に、こう書いてありました。
ただし、別表の一の項の改正規定中……「ウイスキー(輸入品)」を「ウイスキー」に、「ビール(輸入品)」を「ビール」に改める部分、……並びに別表の四の項の改正規定中「ビール(国産品) ウイスキー(国産品)」を削る部分……は、平成七年一月一日から施行する。
小売物価統計調査規則附則より(一部省略)。読み解くとこうなります。かつて国は、ウイスキーを二つの品目に分けて数えていました。一の項に「ウイスキー(輸入品)」、四の項に「ウイスキー(国産品)」。一の項は調査員が毎月店をまわる品目、四の項は総務大臣が選んだ先へ照会する品目ですから、調べ方まで別だったことになります。
それを平成七年、西暦一九九五年の一月一日に一本化しました。国産品の行は削られ、輸入品の行から括弧が外れて、ただの「ウイスキー」になりました。ビールもまったく同じ扱いです。物価を測るうえで、輸入か国産かを分ける意味が薄れたという判断だったのでしょう。
一の項と四の項の違いも見ておきます。一の項は調査員が店をまわる品目で、うるち米から始まる数百の品目が並びます。四の項は第五条第一項第三号にあたり、総務大臣が調査先を選ぶ品目。電気代、鉄道運賃、携帯電話通信料、たばこ、放送受信料といった顔ぶれですが、ドーナツやフライドチキンのような外食も単行本もこちら側です。かつてのウイスキー(国産品)は、そちら側に置かれていました。
結果として、いま国がウイスキーの値段を毎月数えているただ一つの場所に、産地の区別は残っていません。「スコッチ」という名前が日本の法令に一度も出てこないという事実には、こういう前史があります。国は産地を書かなかったのではなく、いちど持っていた輸入品という枠すら、三十年余り前に畳んでいました。
スコッチウイスキー代表三十銘柄を比較

取り扱いのあるスコッチを一覧にしました。並べ替えと絞り込みができます。度数は商品名の末尾に付いています。スコッチを名乗る以上、そこが四十パーセントを下回ることはありません。
価格は各モールの実勢(2026年6月時点)です。シングルモルトの多くはオープン価格のためメーカー定価は掲載していません。楽天/Amazon価格は同一品が見つからない場合は空欄になります。在庫・価格は変動するため、最新情報は各リンク先でご確認ください。最安値を保証する一覧ではありません。
産地を自分で確かめる|ラベルのどこを見るか

ここからは実務です。日本の法令に産地の名前が無いということは、裏を返すと、店頭で見分ける手がかりはすべてボトルの表側にあるということでもあります。
表ラベルで見る三点
第一に、Scotch Whisky の表記があるか。英国の規則は、この語をラベルに使えるのは第三条の条件をすべて満たしたものだけと決めています。第二に、区分名。Single Malt、Single Grain、Blended Malt、Blended Grain、Blended の五つが規則第三条第二項の定義で、どれかが書かれています。単一の蒸留所のポットスチルだけで造った麦芽百パーセントがシングルモルト、複数の蒸留所のシングルモルトを混ぜたものがブレンデッドモルトです(二〇一八年の改正で、完成品同士の混和には限らなくなりました)。グレーンウイスキーとはを先に読むと、この五区分は覚えやすくなります。
第三に、年数表示。数字が書いてあるときは、瓶の中でいちばん若い原酒の熟成年数です。数字が無いものは三年以上とだけ分かります。年数の有無で味の上下が決まるわけではありませんが、値付けには強く効きます。
裏ラベルで見る二点
日本で流通する輸入品には、日本語の表示が貼られます。ここで確かめられるのは、原産国名と輸入者です。原産国が英国であることは分かりますが、スコットランドのどこかまでは書かれません。産地を知りたければ、表ラベルの地名表示か蒸留所名を頼ることになります。地名表示の資格を英国法がどう配っているかはアイラモルトの記事のとおりです。
色についても一つ。英国の規則が加えてよいとしているのはプレーンカラメル色素だけですが、裏を返せば、ロットごとに色を揃える調整が入りうるということでもあります。色が濃いから長く寝かせたとは限りません。着色していないことを売りにする銘柄は、表ラベルにその旨を書きます。
もう一つ、輸入者の表示は世代で書式が変わります。同じ銘柄でも、輸入者名や住所の書き方が違えば流通した時期が違う、という見当がつきます。バーボンとの違いを含めた大枠はバーボンとスコッチの違い、産地ごとの味の傾向はスコッチウイスキーの産地と銘柄のガイドにまとめてあります。
産地別の入口|最初の一本の選び方

五つの地名は日本の法令に無くても、味の傾向としては確かに分かれます。最初の一本は、香りの強さで決めるのがいちばん外しません。
煙が苦手かどうかで二つに分ける
煙の香りを試したくないなら、スペイサイドかローランドの区分から選びます。麦芽を乾かすときにピートを焚かない造りが主流で、果実に近い甘い香りが前に出ます。ブレンデッドも同じ側です。多くの銘柄が入門用の価格帯を持っています。
煙を試したいなら、まずアイラです。ただし最初から最も強いものへ行くと戻ってこられなくなるので、穏やかな側から始めるのが無難です。キャンベルタウンは五つのうち最も蒸留所の少ない土地で、塩気と煙が中くらいに乗ります。ハイランドは範囲が広く、アイラを除く島の銘柄は分類の慣習で「アイランズ」と呼ばれますが、規則の上では独立した産地ではなくハイランドの内側です。その一例はハイランドパークとはで扱っています。
度数と価格帯の見当
度数も選びどころです。四十パーセントは英国の規則の下限ですから、それより高い数字は造り手が意図して残したものです。四十三、四十六、そして樽出しの度数のまま瓶詰めしたカスクストレングス。度数が上がるほど香りは濃く出ますが、加水で開かせる余地も大きくなります。最初は四十パーセント台の前半から始めるのが順当です。
年数表示のない標準品、十二年、十八年と上がるにつれて価格は段を上がります。段の幅は銘柄ごとにかなり違うので、同じ十二年どうしを横に並べて比べるのが現実的です。前章の比較表には三十銘柄を入れてあるので、十二年どうし、十八年どうしを見比べられます。ウイスキーの種類を先に押さえておくと、比較の軸がぶれません。
開栓後の扱いと保存

スコッチは瓶の中では熟成しません。樽から出た時点で成分の変化はほぼ止まり、あとは酸化と揮発だけが進みます。ですから保存の目的は「良くすること」ではなく「変えないこと」です。
未開栓なら、直射日光の当たらない場所で立てて置きます。横に寝かせると高い度数の液がコルクを傷めます。温度は室温で構いませんが、上下の振れが大きい場所は避けます。開栓後は瓶の中の空気の量が効くので、残りが半分を切ったら早めに飲み切るか、小瓶へ移すと香りが保てます。開栓後の目安と考え方はウイスキーの開栓後の期限、保管方法の細目はウイスキーの保存方法にあります。
グラスは口のすぼまった形が香りを集めます。形ごとの違いはウイスキーグラスの種類で比べています。
よくある質問

スコッチウイスキーの条件は何ですか。
スコットランドの蒸留所で水と大麦麦芽から糖化・発酵・蒸留を行い、アルコール分九十四・八パーセント未満で蒸留を終えること。容量七百リットルを超えないオーク樽で、スコットランド国内の酒税保税倉庫または認められた場所に三年以上置くこと。アルコール分の下限が四十パーセントであること。加えてよいのは水とプレーンカラメル色素だけです。決めているのは英国のスコッチウイスキー規則二〇〇九の第三条です。
日本の法令に「スコッチ」という語はありますか。
ありません。e-Gov法令検索の全法令横断検索で現行の法令の条文を引くと、「スコッチ」は該当零件です。拗音を大書きした「スコツチ」も、漢字の「蘇格蘭」も零件でした。ただしこの検索の対象は法律・政令・省令などの条文で、告示や業界の規約、条約の附属書は含みません。日英包括的経済連携協定の附属書には Scotch Whisky が英国の地理的表示として載っています。
アイラやスペイサイドは日本の法令に載っていますか。
英国の規則が名指しで守る五つの地名のうち、ハイランド、ローランド、スペイサイド、キャンベルタウンは零件です。「アイラ」は九本の法令に十四の文が返りますが、「アイラン」で引き直しても同じ九本の同じ十四文で、三文字だけで立っているものは一つもありませんでした。中身は神戸と名古屋の埋立地の名、フィリピンのディナガット・アイランズ州、養鶏振興法の単冠ロードアイランドレッド種、そして国名の並びで「…ア」と「イラン」が隣り合った箇所です。なお合衆国のロードアイランド州やカナダのプリンスエドワードアイランド州も同じ省令の別表にあり、これも十四文の内側です。別表はひと続きの一塊として返るためです。
「スコットランド」はどの法令に出てきますか。
四本の法令に四つの文です。漁業の許可及び取締り等に関する省令の第一条第二項第三号と、特定大臣許可漁業等の取締りに関する省令の第一条第七項が、スコットランド西部諸海を大西洋の海域に数える規定。南極地域の環境の保護に関する法律施行規則の別表第四の四十二が、一九〇三年にW.S.ブルース率いるスコットランド探検隊が建てた石の小屋などを史跡として挙げる項。在外選挙人名簿及び在外投票人名簿に関する事務についての領事官の管轄区域を定める省令の別表が、在エディンバラ日本国総領事の担当範囲を定める行です。
在エディンバラ総領事の担当範囲はスコットランドと同じですか。
同じではありません。別表の記載は「英国(スコットランド全域、クリーブランド県、カンブリア県、ダーラム県、ノーザンバーランド県及びタインアンドウェアー県の区域に限る。)」で、イングランド北部の五つの県が含まれます。在外投票の窓口をどう分けるかという線引きなので、ウイスキーの産地の境界とは別物です。
「蒸留所」という語も法令に無いのですか。
ありません。「蒸留所」も「蒸溜所」も零件です。「留所」だけで引くと三十八本の法令に八十七の文が返りますが、内訳は停留所が八十一、と畜場法施行令などの係留所が三、抑留所が二、火薬類取締法施行規則のけい留所が一で、酒を蒸留する場所を指した文はありませんでした。
ピートやモルトはどうですか。
カタカナの「モルト」は二本の法令に二つの文だけで、どちらも明治期の条約に並ぶ全権委員の名前でした。漢字の「麦芽」なら十四本の法令に二十一の文があり、うち六文は酒税法です。ピートを漢字にした「泥炭」は十本の法令に十三の文で、七本が土と地面の側、三本が通商の側でした。香りとしてのピートを書いた条文はありません。
国はウイスキーを何のために数えているのですか。
物価のためです。小売物価統計調査規則の別表の一の項に「ウイスキー」が調査品目として入っており、統計調査員が毎月の十二日を含む週に店をまわります。目的は同規則第二条のとおり、消費者物価指数その他物価に関する基礎資料を得ることです。ここでもスコッチとバーボンは区別されていません。
昔は輸入品と国産品を分けて数えていたと聞きました。
そのとおりです。かつては別表の一の項に「ウイスキー(輸入品)」、四の項に「ウイスキー(国産品)」という二つの品目がありました。平成六年十一月一日施行の改正の附則ただし書により、平成七年(一九九五年)一月一日から一の項は括弧の取れた「ウイスキー」に改められ、四の項の「ウイスキー(国産品)」は削られています。ビールも同じ扱いです。





































