ウイスキーとは|酒税法の定義と度数、樽が出てこない理由
ウイスキーは、発芽させた穀類と水から造った発酵液を蒸留したお酒です。日本の酒税法は第三条第十五号でそう定義しています。ところがこの定義には、樽も、熟成も、年数も、一文字も出てきません。度数の条件もひとつだけで、蒸留のときに出てくる液のアルコール分が九十五度未満であること。それだけです。ではウイスキーらしさを支える言葉を、国はどこに書いているのか。e-Gov法令検索で全法令を横断すると、「ウイスキー」という語は十四本の法令に六十八か所ありました。うち二十四か所は沖縄の復帰にともなう特例で、その多くは二十四年前に窓が閉じた減税枠の条文です。「樽」の字を引けば百十二本が返ってきますが、その大半は小樽という港町の名前でした。「蒸溜」は三本だけで、石油と弗酸と亜鉛のための言葉です。「オーク」を国が酒のために書いたのはワインの側だけ、「ピート」が酒の言葉として立った条文は一つもありません。この記事は定義と度数を先に固めたうえで、その内訳を一つずつ開きます。
ウイスキーとは|酒税法の定義に樽は出てこない

先に答え|三つだけ
一つ目。日本の法律でのウイスキーは、発芽させた穀類と水から造った発酵液を蒸留したものです。酒税法第三条第十五号がそう書いています。原料に大麦を使えとも、単式蒸留機を使えとも書かれていません。
二つ目。同じ号が度数について課している条件は一つだけで、蒸留のときに出てくる液のアルコール分が九十五度未満であることです。製品としての度数の下限は、この号にはありません。酒類全体に一度以上という線を第二条が引いているだけです。四十度前後という世間の相場は、法律ではなく各国の規格と各社の商品設計から来ています。
三つ目。樽という字も、熟成という語も、年数も、この号には一度も出てきません。琥珀色も、樽由来の香りも、日本の定義の外側にあります。国が数字を置いているのは、そのあとの税率のほうです。
第三条第十五号を、そのまま読む
まず条文を置きます。ウイスキーの定義は、イ・ロ・ハの三つに分かれています。
十五 ウイスキー 次に掲げる酒類(イ又はロに掲げるものについては、第九号ロからニまでに掲げるものに該当するものを除く。)をいう。
イ 発芽させた穀類及び水を原料として糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が九十五度未満のものに限る。)
ロ 発芽させた穀類及び水によつて穀類を糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が九十五度未満のものに限る。)
酒税法(昭和二十八年法律第六号)第三条第十五号(e-Gov法令検索)
イとロの違いは、糖化させる相手です。イは発芽させた穀類そのものを糖化させる。ロは発芽させた穀類の力で穀類を糖化させて
と書きます。世間でいうモルトとグレーンの分かれ目に近い線ですが、重なりきりません。ずれについては最後の章で触れます。
ハは、イとロにアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの
です。ただし歯止めがあって、イまたはロのアルコール分の総量が、足したあとの総量の百分の十以上でなければウイスキーとは呼べません。裏返せば、中身の一割さえ本体であれば名乗れる、という書き方です。
この記事が扱う範囲と、扱わない範囲
原料、種類、産地ごとの個性、保存やグラスの選び方は、別の記事が持っています。ここでは重ねません。ウイスキーの原料、ウイスキーの種類と選び方、スコッチウイスキー、ウイスキーの保存方法、ウイスキーグラスをご覧ください。
かわりにこの記事が開くのは、法令の側です。e-Gov法令検索の全法令横断検索で「ウイスキー」を引くと、返ってくるのは十四本の法令、六十八か所。この数を分解していくと、国がこの語をどんな場面で必要としたのかが見えてきます。あわせて、ウイスキーを語るときに欠かせない「樽」「蒸溜」「オーク」「ピート」の四語も同じやり方で引きました。四語とも、法令のなかでは別のものに取られていました。
度数|三十七度を境に、税率が変わる

第二十三条の四つの種類
酒税の税率は、まず四つの種類ごとに決まります。第二十三条第一項は、発泡性酒類が一キロリットルにつき十五万五千円(令和八年九月三十日までは附則第三十六条第四項で十八万千円)、醸造酒類が十万円、蒸留酒類と混成酒類がそれぞれ二十万円と定めます。蒸留酒類と混成酒類には加算があって、アルコール分が二十一度以上のものにあつては、二十万円にアルコール分が二十度を超える一度ごとに一万円を加えた金額
となります。
ウイスキーは蒸留酒類です。四十度の製品なら、二十万円に二十度分の加算二十万円が乗って、一キロリットルあたり四十万円。七百ミリリットルに直すと二百八十円になります。
三十七度未満という別枠
ところが同じ条には第三項があります。
蒸留酒類のうちウイスキー、ブランデー及びスピリッツであつてアルコール分が三十七度未満のものに係る酒税の税率は、第一項の規定にかかわらず、一キロリットルにつき三十七万円とする。
酒税法(昭和二十八年法律第六号)第二十三条第三項(e-Gov法令検索)
第一項の計算式でいくと、ちょうど三十七度のときの税額は二十万円に十七度分を足した三十七万円です。第三項はその三十七万円を、三十七度未満のすべてに横引きします。三十度なら第一項の計算では三十万円のはずが、三十七万円になる。二十五度なら二十五万円のはずが、やはり三十七万円です。度数を下げても税は一円も軽くならないという段差が、三十七度の手前に平らに敷かれているわけです。同じ二十五度でも焼酎なら第一項の二十五万円ですから、低い度数の帯ではウイスキーの側が十二万円ぶん重く負う。日本の棚に低アルコールのウイスキーが並びにくい理由の一つが、この第三項です。品目ごとの差は酎ハイが缶の側から追っています。
水を混ぜると「製造」になる線
もう一つ、度数には手続の線も引かれています。酒税法第四十三条第五項は、酒類の製造場以外の場所で酒類と水との混和をしたとき(政令で定める場合を除く。)は、新たに酒類を製造したものとみなす
と定めます。その除外を書いた施行令第五十条第七項第一号が、蒸留酒類と水との混和をしてアルコール分が二十度以上(ウイスキー、ブランデー又はスピリッツと水との混和をした場合にあつては、アルコール分が三十七度以上)の酒類としたとき
です。つまり三十七度以上を保つ加水なら製造にはならない。ここでも境目は三十七度です。
度数そのものの読み方、強い酒の並びはアルコール度数が高いお酒に、体内での分解の目安はアルコールの分解時間にまとめています。ダブルやトワイスアップといった注ぎ方ごとの実際の度数はウイスキーのダブルとトワイスアップが持っています。種類・産地・飲み方そのものは、この記事の最後の章にまとめています。
関連商品ラインナップ

スコッチ、アイリッシュ、バーボン、カナディアン、ジャパニーズを横断して、いま在庫のあるウイスキーを並べています。定番のブレンデッドから、蒸溜所単位で選ぶシングルモルトまで、価格帯の幅を見ながら選べます。品揃えの全体はウイスキーの一覧からご覧いただけます。当日十四時までのご注文で当日発送しています。
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【比較表】代表三十銘柄を種類・度数・相場で見る

五つの産地から、名前を聞く機会の多い三十本を並べました。麦芽だけのシングルモルトか、グレーンを合わせたブレンデッドか、トウモロコシを多く使うバーボンかで、価格の並び方は違います。価格順に並べ替えて銘柄名の年数を見ていくと、産地よりも熟成年数のほうが値段に効いていることが見えてきます。
表のなかには、このあとの章で出てくる余市の名前もあります。北海道の余市町にあるニッカの蒸溜所の名を冠した一本です。表には山崎や白州も並びます。土地の名がそのまま銘柄になる型です。
個別の飲み比べや価格の見方は、ハイボールに合うウイスキーやバーボンとスコッチの違い、シングルモルトの魅力もあわせてご覧ください。
「ウイスキー」と書かれた条文は、全法令に六十八ある

十四本の法令、六十八の文
e-Gov法令検索には、条文の本文を横断して語を探す機能があります。ここに「ウイスキー」と入れると、返ってくるのは十四本の法令と、その中の六十八の文。法令の本数と文の数は別の数字なので、分けて書きます。内訳はこうです。
酒税の体系が三十文(酒税法二十、同施行令七、同施行規則三)。沖縄関係が二十四文(沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律二、同じ復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する政令十四、同じ名前の省令八)。残りが十四文で、租税特別措置法四、同施行令三、同施行規則一、関税定率法一、商標法施行規則一、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律施行規則一、小売物価統計調査規則二、昭和四十五年国富調査のための家計資産調査規則一です。
三十対二十四対十四。酒税の体系に次いで多いのが、沖縄の一群です。酒の定義を書いた条文よりも、沖縄の観光施設に向けた減税枠の手続を書いた条文のほうが、字面としては近い量を占めています。
「ウィスキー」も「ウヰスキー」も、0件
表記のゆれも確かめました。小書きの「ィ」を使う「ウィスキー」で全法令を引くと0件、旧仮名の「ウヰスキー」も0件です。国の条文は「ウイスキー」一本で書かれています。
ところが同じ酒の名前でも、法令のなかで字が割れているものがあります。関税定率法の第二二〇八・六〇号はウオッカ
と、大きな「オ」で書きます。いっぽう商標法施行規則の第三十三類の四「洋酒」の欄はウイスキー ウォッカ ジン ブランデー ラム リキュール
と、小書きの「ォ」です。同じ酒が、税の法令と商標の法令で違う字を与えられています。商標法の施行令と施行規則の書き分けについてはフレンチコネクションが詳しく追っています。
「ウイスキー等」は、中身ではなく束の見出し
租税特別措置法には(入国者が輸入するウイスキー等に係る酒税の税率の特例)
という見出しの条があります。第八十七条の三です。名前だけ見るとウイスキーの条に見えますが、中身は違いました。この条が「ウイスキー等」と呼んでいるのは、関税定率法の別表の番号で指定された酒の束です。
第一号は第二二〇三・〇〇号などでビール。第二号にウイスキーが入り、第三号はラムとジンとウオッカ、第四号はリキュールです。税率は一キロリットルにつき、順に二十万円、八十万円、五十万円、四十万円。
ビールもジンもリキュールも入っている束を、条はまとめて「ウイスキー等」と呼んでいます。ここでの「ウイスキー」は中身を指す語ではなく、束を呼ぶための代表名です。持ち込みの免税枠の話は免税店のほうでも触れています。
ちなみに関税定率法そのものでは、第二二〇八・三〇号ウイスキー
の関税率は無税です。第二二〇八・二〇号から第二二〇八・七〇号まで、品目名のついた蒸留酒の欄はすべて無税です。輸入ウイスキーの値段に効いているのは関税ではなく、さきに見た酒税と消費税のほうです。
沖縄の「減税ウイスキー類」|二十四年前に閉じた枠

第八十条第三項を、そのまま読む
沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律は、昭和四十六年の法律です。その第八十条第三項に、ウイスキーの名前が出てきます。
沖縄県の区域内にある酒場、料理店その他これらに類する施設のうち、主として外国為替及び外国貿易法第六条第一項第六号に規定する非居住者又は当該区域に入域するその他の旅客に酒類を提供する施設として政令で定めるところにより沖縄県知事の指定を受けた施設の経営者が、当該施設において客の飲用に供する目的でウイスキー類(酒税法第三条第九号に規定する酒類をいい、政令で定めるところにより、財務大臣の定める数量の範囲内において沖縄県知事が行う割当てを受けた数量の範囲内のものに限る。)をこの法律の施行の日から起算して三十年以内に保税地域から引き取る場合には、政令で定めるところにより、当該引取りに係る酒税を軽減する。
沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律(昭和四十六年法律第百二十九号)第八十条第三項(e-Gov法令検索)
読み解くと、主に非居住者や入域旅客に酒を出す店を沖縄県知事が指定し、その店が客に飲ませる目的で輸入するウイスキー類の酒税を軽くする。数量は財務大臣が総枠を決め、その中で知事が店ごとに割り当てる。そういう仕組みです。
同じ第八十条の第一項第一号は、沖縄で造られた酒のほうを軽くする条文で、こちらは黒糖焼酎の記事が扱っています。製造の側を軽くする第一項と、輸入して客に出す側を軽くする第三項。同じ条のなかに、向きの違う二つの措置が同居しています。
割当証明書という紙
手続は政令と省令に落ちています。政令の第八十一条は、この枠の対象になる酒類を減税ウイスキー類
と名づけました。総枠は、指定を受けた施設の数や入域旅客の数などを勘案して財務大臣が決め、割当期間の開始する日の二月前までに告示する。店ごとの数量は、当該施設の設備の状況、当該施設の利用人員その他の事情を勘案して
知事が定め、割り当てたときは割当証明書を交付します。
省令の第二十三条は、割当てを申請する店が書く事項を並べます。三号は当該割当てを受けようとする減税ウイスキー類の品目別の数量及びその算定の根拠
、四号は前の一年間に売った酒類の種類別の数量です。引き取るときは申告書に明細書と割当証明書を添え(政令第八十二条)、税関長は容器に表示印を押させることができる(政令第八十四条)。店の設備を見て、客数を見て、紙を出して、瓶に印を押す。ここまで書き込まれた酒の条文は、そう多くありません。
窓は平成十四年五月十四日に閉じている
ただし、この枠には終わりが書いてあります。法の本文がこの法律の施行の日から起算して三十年以内に
と限っているからです。復帰の日は昭和四十七年五月十五日ですから、三十年後は平成十四年五月十四日にあたります。
政令の側にも同じ日付が残っています。軽減の割合を並べた第八十三条第二項は、五つの期間を区切っていて、その最後がこうです。
五 平成元年四月一日から平成十四年五月十四日まで 百分の七十五
沖縄の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する政令(昭和四十七年政令第百五十一号)第八十三条第二項第五号(e-Gov法令検索)
六番目の期間はありません。「ウイスキー」という語がもっとも密集している条文群は、二十四年前に役目を終えた枠のものです。それでも条文は削られずに残っていて、e-Gov法令検索の結果には今日も出てきます。
なお、沖縄関係の二十四文がすべてこの減税枠というわけではありません。一つは同じ法律の第八十五条で、沖縄から出域する旅客が個人の用途に買う指定物品の側の条文です。もう一つはその政令で、指定物品の一号にウイスキー及びブランデー
を挙げています。こちらも三十年で区切られている点は同じです。
「第三条第九号」という食い違い
この条文には、もう一つ気になる点があります。第八十条第三項は「ウイスキー類」を酒税法第三条第九号に規定する酒類
と定義していますが、現行の酒税法第三条第九号は「連続式蒸留焼酎」です。ウイスキーは第十五号です。
省令の側は「減税ウイスキー類の品目別
の数量」と書いていて、いくつかの品目を束ねた区分を想定した書きぶりです。現在の第九号は連続式蒸留焼酎という一つの品目そのものですから、品目別に分ける余地がありません。裏づけは酒税法の附則にあります。そこにはウイスキー類(新酒税法第三条第九号に規定するウイスキー類をいい
という一句が残っていて、かつて第九号がウイスキー類だったことがわかります。その後の改正で種類と品目の区分が組み替えられ、番号がずれたまま参照だけが残りました。窓がすでに閉じているため実務上の影響はありませんが、条文の番号を引く参照は、引かれた側が変わると静かに宙に浮くという例になっています。
「樽」の字を法令で引くと、小樽が出てくる

百十二本の法令、百六十七の文
ウイスキーを語るとき、樽の話は外せません。では国は「樽」という字をどこに書いているのか。全法令横断で一文字の「樽」を引くと、百十二本の法令、百六十七の文。法令の本数でいえば「ウイスキー」のちょうど八倍です。
ところが中身を開くと、そのほとんどが小樽でした。北海道の港町の名です。下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律の簡易裁判所の並び、関税法施行令の別表第一の港名、自衛隊法施行令の担当区域。行政の区域を並べる表の、北海道の行に必ずといっていいほど小樽の名前が入ります。木の桶を指す「樽」ではなく、地名の一部としての「樽」です。
保健所を置く市に、名指しされた五市
そのなかで、小樽が単独で名前を呼ばれている条文があります。地域保健法施行令の第一条です。
(保健所を設置する市)
第一条 地域保健法(以下「法」という。)第五条第一項の政令で定める市は、次のとおりとする。
一 地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市
二 地方自治法第二百五十二条の二十二第一項の中核市
三 小樽市、町田市、藤沢市、茅ヶ崎市及び四日市市
地域保健法施行令(昭和二十三年政令第七十七号)第一条(e-Gov法令検索)
指定都市でも中核市でもないのに保健所を置く市として、全国で五つだけが名前で書かれ、小樽市はその筆頭です。人口の規模で切る二つの号のあとに、固有名詞だけの三号が置かれています。
重要港湾、水先区、そして海岸線から六百メートル
港としての小樽も、いくつもの表に載っています。港湾法施行令の別表第一は、北海道の欄で国際拠点港湾を室蘭と苫小牧、重要港湾を函館、小樽、釧路、留萌、稚内、十勝、石狩湾、紋別、網走、根室
と並べます。
水先の側では、水先法施行規則の別表第二が水先人の最低員数を水先区ごとに定めていて、小樽水先区 一
。東京湾水先区が八十七、伊勢三河湾水先区が五十八という数字の並びのなかで、小樽は一人です。
検疫法施行令の別表第三には、港ごとに検疫区域の水域と陸域が書かれています。小樽港の陸域は中欄の水域を地先水面とする地域のうち、海岸線からおおむね六〇〇メートル以内の厚生労働大臣が指定する地域
。隣の石狩湾港は九百メートル、稚内港と留萌港は四百メートルですから、港ごとに違う幅が引かれています。
大気汚染防止法施行令の第十三条は、ばい煙や粉じんの規制の事務を小樽市、室蘭市、苫小牧市、所沢市、市川市、松戸市、市原市、平塚市、藤沢市、四日市市、加古川市及び大牟田市の長
が行うと定めます。ここでも小樽市が最初です。
余市は、同じ表の別の行にいる
ウイスキーの町として名の通った余市は、小樽の隣です。国家公務員の寒冷地手当に関する法律の別表を開くと、小樽市は二級地、そして余市郡のうち赤井川村
は一級地、残りの余市郡は二級地に置かれています。同じ表の、別の行です。
高速自動車国道の路線を指定する政令の北海道横断自動車道黒松内釧路線の経過地にも、同道余市郡余市町
と小樽市が並びます。国の条文で余市と小樽が肩を並べるのは、寒さと道路の話であって、酒の話ではありません。
樽で寝かせる酒を造る町の名前は法令にある。けれども、その樽そのものを指す条文は、ウイスキーの側には一つも見つかりませんでした。木の容器を書いた酒の条文がないわけではなく、焼酎の側にはあります。そちらは焼酎の記事が扱っています。
ただし、国が「ウイスキーらしさ」にまったく触れていないわけでもありません。酒税法施行令第五十六条第三項第三号は、香味、色沢その他の性状がウイスキー又はブランデーに類似するスピリッツ
を製造場から移出しようとするときは税務署長の承認が要る、と定めます。ただし承認が要るのは、そのスピリッツをウイスキー同様に表示・広告している場合に限られます。国が似姿を見るのは定義の側ではなく、売り方の側でした。
「蒸溜」は三本しかない|石油と弗酸と亜鉛のための字

業界は「蒸溜所」、国は「蒸留」
ウイスキーの世界では、造り場を「蒸溜所」と書く習わしがあります。「留」ではなく、さんずいの付いた「溜」です。ところが酒税法は、定義から税率まで一貫して「蒸留」。第三条第五号の「蒸留酒類」も、第十五号の「蒸留したもの」も新字です。
では旧字の「蒸溜」は法令のどこにあるのか。全法令を横断すると、返ってくるのは三本、三つの文だけでした。建築基準法、大気汚染防止法施行令、大気汚染防止法施行規則。酒の法令は一本もありません。そして「蒸溜所」という三文字で引くと、結果は0件です。
建築基準法の別表第二(る)項
一本目は建築基準法です。別表第二の(る)項は、準工業地域内に建築してはならない建築物を並べていて、その第一号の(二十一)にこうあります。
(二十一) アスファルト、コールタール、木タール、石油蒸溜産物又はその残りかすを原料とする製造
建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)別表第二(る)項第一号(二十一)(e-Gov法令検索)
石油の蒸溜です。用途地域と別表第二の全体像はニューヨークの記事が扱っているので、ここでは(る)項の一行だけを見ています。
大気汚染防止法の二か所
二本目は大気汚染防止法施行令の別表第一です。ばい煙発生施設を並べた表の二二の項に、こう書かれています。
二二 弗酸の製造の用に供する凝縮施設、吸収施設及び蒸溜施設(密閉式のものを除く。)
大気汚染防止法施行令(昭和四十三年政令第三百二十九号)別表第一の二二の項(e-Gov法令検索)
規模の要件は環境省令で定めるところにより算定した伝熱面積が一〇平方メートル以上であるか、又はポンプの動力が一キロワット以上であること
。伝熱面積で切るところは、蒸留器の勘定の仕方として造り手にも通じる話です。
三本目は同じ法律の施行規則で、附則別表第三に亜鉛の精錬の用に供する立型蒸溜炉
の行があり、窒素酸化物の量として二三〇立方センチメートルが割り当てられています。
国が旧字の「蒸溜」を使うのは、石油と弗酸と亜鉛のときだけ。ウイスキーの造り場が名乗る「蒸溜所」は、業界の側だけが守っている字です。実際の蒸溜所のようすはウイスキー蒸溜所の見学にまとめています。
「オーク」と「ピート」|二つとも、別のものに取られている

国が「オーク」と書いた酒の条文は、一つだけ
「オーク」を全法令で引くと、十六本の法令、四十九の文が返ります。そのうち酒の法令は一本、文はたった一つでした。
4 法第三条第十三号ホに規定する政令で定める植物は、オーク(チップ状又は小片状のものに限る。)とする。
酒税法施行令(昭和三十七年政令第九十七号)第七条第四項(e-Gov法令検索)
第七条の見出しは(果実酒の原料等)
です。つまりこのオークは、果実酒に浸してよい植物として書かれています。法第三条第十三号ホは、果実酒の定義の最後に置かれたイからニまでに掲げる酒類に政令で定める植物を浸してその成分を浸出させたもの
という一行で、そこにいう植物が政令でオークに限定されている、という構造です。しかもチップ状又は小片状のものに限る
と、形まで限られます。
樽ではなく、チップ。ウイスキーではなく、ワイン。国がオークという語を酒のために使った唯一の場面は、ワインに木片を浸す話でした。ウイスキーの樽材としてのオークは、法令のどこにも書かれていません。果実酒の定義そのものはハウスワインが、政令がオークを名指しした一行はピノノワールが扱っています。
関税定率法では、コナラ属の木材
木としてのオークなら、関税定率法の別表に出てきます。第四四〇三・九一号オーク(コナラ属のもの)のもの
が丸太で無税、第四四〇七・九一号の同じ表記が製材で無税。第四四・一二項の合板の欄では、樹種を列挙するなかにオーク(コナラ属のもの)
が並びます。
ここでのオークは、あくまで木材の分類です。ミズナラで引くと0件、スコッチで引いても0件、バーボンで引いても0件でした。国がオークを測る物差しは、木材の関税と、ワインに浸すチップの二つしかありません。
残りは、フオークリフトとオークランド
では四十九の文の残りは何か。労働安全衛生法施行令と労働安全衛生規則のフオークリフト
が大きな塊です。これらの法令は小書きの「ォ」ではなく大きな「オ」で書くので、三文字の「オーク」がそのまま中に現れます。昭和四十五年国富調査のための家計資産調査規則にはスプーンフオーク
もあります。
もう一つの塊は地名です。在外公館の名称及び位置並びに在外公館に勤務する外務公務員の給与に関する法律とその関係政令に、ニュージーランドのオークランドが繰り返し現れます。南極地域の環境の保護に関する法律施行規則にはサウス・オークニー
諸島の史跡が載っています。在外公館の別表を都市の名前から読む試みはボストンクーラーが、同じ国富調査規則の別表はコアントローのカクテルが扱っています。
「ピート」が単独で立つのは、肥料の一件だけ
ピートはもっと徹底しています。全法令を横断すると、五本の法令、五つの文。そのうち四つは、より長い語の一部でした。
関税定率法の第二七〇三・〇〇号は泥炭(ピートリッターを含むものとし、凝結させてあるかないかを問わない。)
で無税。ピートリッターは家畜の敷料に使う泥炭のことで、ここでも「ピート」は単独では立っていません。商標法施行規則の第一類十「肥料」の(二)天然肥料の欄には、海産肥料 グアノ 血粉 骨粉 搾油かす 酒かす しょうゆかす 堆肥 肉粉 ぬか ピート ビールかす ふすま 腐葉土
と並びます。ぬかとビールかすに挟まれて、ピートは肥料として一語で立っています。酒の言葉としてではありません。
残る三つは、家内労働法施行規則のノンリピート装置
、そして輸出貿易管理令の関係省令が二本、いずれも半導体の露光装置のステップアンドリピート
です。「リピート」の中の三文字が引っかかっていただけでした。
麦芽を燻す煙としてのピートは、日本の法令のどこにも書かれていません。泥炭という漢語で引き直すと十三の文が返りますが、そちらは北海道国有未開地処分法や地力増進法施行令、土じよう調査作業規程準則といった土と地面の法令が中心で、関税定率法や輸出貿易管理令など通商の側にも散っています。ピートの香りそのものはピートの強いウイスキーにまとめています。
種類・産地・飲み方は、どこを見ればよいか

モルト、グレーン、ブレンデッド
日本の法令には「シングルモルト」も「ブレンデッド」も出てきません。それでも酒税法第三条第十五号のイとロは、実務上の分かれ目に近い線を引いています。イは発芽させた穀類そのものを糖化させるもので、麦芽だけで仕込むモルトウイスキーが当たります。ロは麦芽の力で他の穀類を糖化させるもので、トウモロコシなどを主体にするグレーンウイスキーが入ります。市場の主役のブレンデッドは、この二つを混ぜたものです。
ただし完全には重なりません。世間の区分は蒸留機の型でも動くからです。全量が麦芽でも連続式蒸溜機で造ればグレーンウイスキーと呼ばれる商品があり、その一本は条文の上ではイに当たります。条文は仕込みで切り、市場は機械で切っている、というずれです。
一つの蒸溜所のモルト原酒だけで仕上げればシングルモルト、複数の蒸溜所のモルトを合わせればブレンデッドモルト。呼び分けは各国の規格と業界の慣行によるもので、日本の法令にその名前はありません。種類ごとの違いはウイスキーの種類に、原料の詳細はウイスキーの原料にまとめています。
五つの産地
スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、日本。この五つが世界五大ウイスキーと呼ばれます。スコッチは個性の幅が広く、アイリッシュはなめらか、アメリカンは新樽由来の甘い香り、カナディアンは軽快、ジャパニーズは繊細なバランスが持ち味とされます。
ただしこの五分類も、日本の法令の外にあります。日本の法令が産地を名乗る条件を定めているわけではありません。産地ごとの読み方はスコッチウイスキー、バーボンとスコッチの違い、テネシーウイスキーをご覧ください。
飲み方は、度数を動かす行為でもある
ストレート、ロック、トワイスアップ、水割り、ハイボール。どれも飲み方の名前ですが、同時に度数を動かす行為でもあります。四十度の一杯を炭酸で四倍に割れば、口に入るのは十度前後。法令が三十七度で線を引いているのは製造と課税の場面であって、グラスの中を縛るものではありません。
注ぎ方ごとの度数はウイスキーのダブルとトワイスアップ、炭酸で割る銘柄選びはハイボールに合うウイスキー、カクテルはウイスキーのカクテル、グラスはウイスキーグラス、開栓後の置き方はウイスキーの保存方法にあります。
飲まないウイスキーの査定・買取はリンクサスへ

贈答で受け取ったまま置いてある一本、家族が集めていた棚ごと。飲む機会がないままのウイスキーは、状態が保たれているうちにご相談ください。液面の下がり方、ラベルの日焼け、箱や冊子の有無で評価は変わります。
この記事で見てきたとおり、日本の法令はウイスキーに年数表示も樽の表示も義務づけていません。だからこそ、箱や冊子に残された造り手側の説明が価値の手がかりになります。捨てずに一緒にお持ちください。ウイスキーの品揃えもあわせてご覧いただけます。
よくある質問

ウイスキーとは、法律ではどう定義されていますか。
酒税法第三条第十五号が定義しています。発芽させた穀類と水を原料として糖化させ、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの、または発芽させた穀類の力で穀類を糖化させて発酵させたものを蒸留したもので、蒸留の際の留出時のアルコール分が九十五度未満のものです。これにアルコールや香味料などを加えたものも、元の酒類のアルコール分の総量が百分の十以上であればウイスキーに含まれます。
定義に「樽で熟成させる」とは書かれていないのですか。
書かれていません。酒税法第三条第十五号には、樽も熟成も年数も出てきません。木製の容器を条文に書いている酒は焼酎の側にあり、ウイスキーの側にはないという状態です。琥珀色や樽由来の香りは、法律ではなく各国の規格と造り手の設計によるものです。
ウイスキーの度数に、法律上の下限はありますか。
酒税法第三条第十五号には製品としての度数の下限がありません。条件は蒸留の際の留出時のアルコール分が九十五度未満という上限だけです。酒類全体については、第二条がアルコール分一度以上という線を引いています。四十度前後が標準とされるのは、輸出入の相手国の規格や各社の商品設計によるもので、日本の法律が要求している数字ではありません。
三十七度という数字を見かけますが、これは何ですか。
酒税法第二十三条第三項の線です。ウイスキー、ブランデー、スピリッツのうちアルコール分が三十七度未満のものは、税率が一キロリットルにつき三十七万円に固定されます。第一項の計算では三十度なら三十万円のはずが、三十七万円になります。度数を下げても税が軽くならない区間が、三十七度の手前にできています。
「ウイスキー」という語は、法令にどのくらい出てきますか。
e-Gov法令検索の全法令横断で引くと、十四本の法令、六十八の文でした。うち三十文が酒税法とその政令・省令、二十四文が沖縄の復帰に伴う特別措置の法・政令・省令です。残る十四文は租税特別措置法の関係、関税定率法、商標法施行規則、統計調査の規則などに散っています。
沖縄の「減税ウイスキー類」とは何ですか。
沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律第八十条第三項の措置です。沖縄県知事の指定を受けた酒場や料理店が、非居住者や入域旅客に出す目的で輸入するウイスキー類について酒税を軽減するもので、財務大臣が総枠を決め、知事が店ごとに割り当てました。適用は復帰の日から三十年以内に限られており、その期間は平成十四年五月十四日に終わっています。
「オーク」は法令に書かれていますか。
書かれていますが、ウイスキーの樽としてではありません。酒税法施行令第七条第四項が、果実酒に浸してよい植物としてオークを挙げています。しかも形が限られていて、チップ状か小片状のものだけです。ほかに関税定率法の木材の欄にコナラ属の木材として出てきます。残りはフオークリフトやオークランドなど、別の語の一部です。
「ピート」という語は法令にありますか。
酒の言葉としてはありません。全法令を横断すると五本の法令、五つの文が返りますが、関税定率法の泥炭の欄はピートリッターという語の一部、残る三つはノンリピートやステップアンドリピートの一部です。単独で立っているのは商標法施行規則の天然肥料の欄の一件だけで、これは肥料としてのピートです。麦芽を燻す煙としてのピートを書いた条文はありません。
ウイスキーとブランデー、焼酎はどう違いますか。
酒税法の定義では原料が違います。ウイスキーは発芽させた穀類、ブランデーは果実または果実酒、単式蒸留焼酎は穀類や芋類などです。三つとも蒸留酒類に分類され、税率の計算式も同じですが、ウイスキーとブランデーとスピリッツだけが三十七度未満の別枠を持っています。






































