日本酒とは|清酒の定義と、原料の米を追う三つの法律

日本酒とは|清酒の定義と、原料の米を追う三つの法律

日本酒は、米と米こうじと水を発酵させて、こしたお酒です。酒税法はそれを「清酒」という品目名で呼び、アルコール分二十二度未満という上限を付けています。ただ、日本酒を決めているのは酒税法だけではありません。原料になる米は、酒になる前は食糧法の「主要食糧」であり、米トレーサビリティ法の「指定米穀等」であり、品種によっては種苗法の育成者権が及ぶ登録品種です。この記事は、その三つの制度が「米が酒に変わる瞬間」にどう振る舞うかを条文と政令で追いました。先に結論を書くと、三つのうち二つは酒になった時点で外れ(一方には大臣の指定という余地だけが残ります)、一つは残ります。

日本酒とは|米・米こうじ・水を発酵させて「こしたもの」

日本酒とは|米・米こうじ・水を発酵させて「こしたもの」
実った稲と精米前の米

「日本酒とは何か」に一行で答えるなら、米と米こうじと水を発酵させて、こしたお酒、になります。これは感覚的な説明ではなく、酒税法が品目「清酒」の定義として書いている文をほぼそのまま写したものです。ただしこの定義は、米がどこで穫れたかを問いません。

先に答え|酒になると外れる制度と、残る制度

米は、田んぼから酒蔵に運ばれるまでの間に三つの制度に載っています。食糧法では「主要食糧」、米トレーサビリティ法では「指定米穀等」、品種登録を受けた酒米なら種苗法の登録品種です。ところが、その米が清酒に変わると三つの扱いが分かれます。

制度 玄米・白米の段階 清酒になった段階 根拠
食糧法(主要食糧) 該当する 大臣の指定が無い限り該当しない 施行令第一条第二項の一〜五号に清酒が無い
米トレーサビリティ法(指定米穀等) 該当する 該当し続ける 施行令第一条第八号・第二条
種苗法(育成者権の及ぶ加工品) 収穫物には条件付きで及ぶ 及ばない 施行令第二条第三号は稲について「米飯」だけ

三つのうち二つは酒になった時点で外れ(食糧法は指定が無い限り)、残るのは米トレーサビリティ法の一つだけです。しかもその一つは、監督する大臣まで途中で入れ替わります。以下、順に条文で確かめます。

酒税法第三条第七号が並べる三つの形

酒税法は第三条で品目ごとの定義を並べています。第七号が清酒で、書き出しは次に掲げる酒類でアルコール分が二十二度未満のものをいう。そのうえでイ・ロ・ハの三つの形を挙げます。

イ 米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの

ロ 米、米こうじ、水及び清酒かすその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの(その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む。)の重量の百分の五十を超えないものに限る。)

ハ 清酒に清酒かすを加えて、こしたもの

酒税法(昭和二十八年法律第六号)第三条第七号

イが純米酒にあたる形、ロが醸造アルコールなどを加える形、ハが清酒かすを使う形です。ロの括弧書きが置いた百分の五十を超えないものは、米以外の原料をどれだけ入れても清酒でいられるかの上限にあたります。この五割の線と、特定名称酒で使われる一割の線は別のもので、後者は告示の側にあります。

「こす」が抜けると、清酒ではなくなる

イ・ロ・ハのどれにも共通するのが「こしたもの」という語です。発酵させただけでは足りず、もろみを液体と固形分に分ける工程を経ていることが清酒の要件になっています。にごり酒が清酒でいられるのは目の粗い布で「こして」いるからで、こす工程を持たないどぶろくは品目としては清酒ではありません。詳しくはどぶろくとは|にごり酒・マッコリ・甘酒との違いと度数・買える場所で整理しています。

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酒になる前の米は「主要食糧」という名前で呼ばれている

酒になる前の米は「主要食糧」という名前で呼ばれている
収穫された米粒

日本酒の原料は米です。その米は、酒蔵に入るまでのあいだ「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」の対象になっています。略して食糧法と呼ばれるこの法律は、戦後の食糧管理法を平成六年に置き換えたもので、米を食べ物としてではなく需給と価格の対象として数えます。

食糧法が数える米と、政令が並べる六つの加工品

食糧法第三条第一項は、この法律の対象を次のように書いています。

この法律において「主要食糧」とは、米穀、麦(小麦、大麦及びはだか麦をいう。以下同じ。)その他政令で定める食糧(これらを加工し、又は調製したものであって政令で定めるものを含む。)をいう。

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(平成六年法律第百十三号)第三条第一項

括弧の中が加工品を引き受ける部分で、中身は政令に委ねられています。その政令、食糧法施行令第一条第二項が挙げるのは次の六つです。

号 政令が挙げるもの
一 米穀粉、小麦粉、大麦粉及びはだか麦粉
二 米穀、小麦、大麦又ははだか麦のひき割りしたもの及びミール
三 小麦でん粉
四 餅、だんごその他これらに類する米穀の調製食料品(乳幼児用・食餌療法用・米穀三十%以下は除く)
五 粒状の米穀であらかじめ加熱による調理その他の調製をしたもの(米穀三十%以下は除く)
六 その他米穀・麦等を加工し、又は調製したものであって農林水産大臣が指定するもの

一号から五号まで、並んでいるのは食べ物としての米の姿ばかりで、清酒はどこにもありません。第六号は農林水産大臣の指定に委ねられた受け皿です。指定が無いかぎり、米だったものは酒になった瞬間にこの法律の視界から外れます。

米の出荷と販売は届出制で、無届は五十万円以下の罰金

視界の中にいるあいだ、米には手続が付いてまわります。第四十七条第一項は米穀の出荷又は販売の事業(その事業の規模が農林水産省令で定める規模未満であるものを除く。第五十九条において同じ。)を行おうとする者に、あらかじめ商号・住所・代表者名などを農林水産大臣へ届け出るよう求めています。届出をせずに、あるいは虚偽の届出をして事業を行った者は、第五十九条により五十万円以下の罰金です。

ここで押さえておきたいのは、義務が掛かるのが「出荷又は販売」の側だという点です。酒蔵は米を買う側なので、米を仕入れて酒にするだけならこの届出の名宛人にはなりません。

では「主要食糧かどうか」自体は何を左右するのか。効いてくるのは第五十二条です。同条は農林水産大臣に、業として主要食糧の出荷、販売、輸入、加工若しくは製造を行う者へ報告を求め、その工場や倉庫に立ち入る権限を与えています。清酒がここから外れるということは、清酒そのものはこの報告と立入りの対象物にならない、ということです。ただし酒蔵が仕込む玄米は主要食糧のままですから、酒蔵が名宛人になる余地まで消えるわけではありません。

条文にいまも残る「割当て又は配給」

食糧法には、平時にはまず動かない条文が三段階で置かれています。第三十七条が緊急事態の告示、第三十八条が出荷・販売事業者への命令、第三十九条が生産者への命令。それでも足りないときに出てくるのが第四十条です。

前二条に規定する措置をもってしては、第三十七条第一項に規定する事態を克服することが著しく困難であると認められる場合においては、政令で、米穀の割当て若しくは配給又は米穀の使用、譲渡若しくは譲受の制限若しくは禁止に関し必要な事項を定めることができる。

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 第四十条第一項

配給。この二文字が現行法に残っています。第二項がその事態を克服するため必要な限度を超えるものであってはならないと歯止めを付け、第六十一条は、その政令に五年以下の拘禁刑もしくは五百万円以下の罰金を置けると定めています。酒に使う米の使用や譲渡を制限する余地も、文言のうえでは残されているわけです。

清酒は、酒になっても「指定米穀等」であり続ける

清酒は、酒になっても「指定米穀等」であり続ける
精米された白米と稲穂

食糧法が手を離しても、もう一つの法律は日本酒を離しません。「米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律」、いわゆる米トレーサビリティ法です。平成二十年前後に相次いだ事故米の不正転売を受けて平成二十一年に作られました。

政令が並べる十の飲食料品と、その八番目

第二条第一項は対象を米穀及び米穀を原材料とする飲食料品…であって政令で定めるものと定め、具体的な品目を政令に投げました。受けた施行令第一条が並べるのは次の十品目です。

号 政令が挙げる飲食料品
一 米穀粉、ひき割り、ミールその他農林水産大臣が定める方法で加工したもの
二 米菓生地
三 もち
四 だんご
五 粒状であらかじめ加熱調理その他の調製をした米穀(これを含む料理を含む)
六 米菓
七 米こうじ
八 清酒
九 単式蒸留しょうちゅう
十 みりん

八番目に清酒が座っています。さらに法第二条第三項を受けた施行令第二条が、産地の識別が重要な「指定米穀等」の範囲を米穀(飼料用のものその他の食用に供しないものを除く。)及び前条各号に掲げるものと定めました。前条各号すべて、ですから清酒は丸ごと指定米穀等です。第七号に米こうじが単独で挙がっているのも見逃せません。米が酒になる途中の、こうじの段階でも産地は追われています。

指定米穀等になると何が起きるか。第四条第一項は事業者どうしの譲渡について、その包装、容器又は送り状への表示その他の方法により、当該指定米穀等の産地を、当該他の米穀事業者に伝達しなければならないと定めます。第三条は取引の記録、第六条はその保存。違反は第十二条で五十万円以下の罰金です。

ビール・ウイスキー・甲類焼酎は入っていない

この一覧が面白いのは、そこに載っていないものの側です。酒類のうち名前が挙がっているのは清酒・単式蒸留しょうちゅう・みりんの三つだけ。連続式蒸留焼酎、いわゆる甲類は米を原料に含むことがありますが、政令が名指ししたのは「単式蒸留しょうちゅう」、つまり乙類のほうだけです。ビールも同じで、酒税法施行令第六条第一項第一号は法第三条第十二号ロの原料に麦、米、とうもろこしなどを挙げ、米を使うこと自体は認めています。それでも各号に名前が無いので入りません。合成清酒も、清酒とは別の品目として各号に現れません。

酒類 指定米穀等か 理由
清酒(日本酒) 該当する 施行令第一条第八号
単式蒸留しょうちゅう(乙類) 該当する 施行令第一条第九号
みりん 該当する 施行令第一条第十号
連続式蒸留焼酎(甲類) 該当しない 各号のどこにも挙がっていない
合成清酒 該当しない 清酒とは別の品目で、各号に無い
ビール・ウイスキー 該当しない 各号に名前が無い

同じ酒売り場に並んでいても、産地を追われている瓶とそうでない瓶があります。焼酎と日本酒の品目上の違いは焼酎と日本酒の違い|品目・度数の上限・酒税の決まり方で比べるにまとめています。

監督するのは農林水産大臣ではなく財務大臣

米トレーサビリティ法の主務大臣は、第十一条第一項が各号に分けて定めています。勧告と命令、および産地伝達まわりの報告徴収・立入検査は第一号で内閣総理大臣及び農林水産大臣、それ以外の報告徴収・立入検査は第二号で農林水産大臣。ところが同項には、一行だけただし書が入っています。

ただし、酒類の販売、輸入、加工、製造又は提供の事業に係る事項については、財務大臣とする。

米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律(平成二十一年法律第二十六号)第十一条第一項ただし書

そして施行令第四条が法に規定する財務大臣の権限(法第十一条第五項に規定するものを除く。)は、国税庁長官に委任する。と続け、第六条でその権限がさらに国税局長や税務署長へ下ります。括弧で外された第五項は、財務大臣が内閣総理大臣又は農林水産大臣に第十条第一項の報告徴収と立入検査を要請する権限で、これだけは大臣の手元に残ります。

気をつけたいのは、この線が「物」ではなく「事業」に引かれていることです。ただし書が挙げるのは酒類の販売・輸入・加工・製造・提供の事業に係る事項なので、同じ玄米でも、集荷業者の帳簿は地方農政局長の側が、酒蔵の帳簿は国税局長の側が見ることになります。監督者の入れ替わりは酒類だけの扱いです。

一合の提供と、一本の販売で義務が違う

もう一つ、消費者から見える場面に効く条文があります。第八条第一項は指定米穀等を一般消費者へ販売・提供するときに産地を伝えるよう求めています。ただし本文には、食品表示基準・JAS法・酒類業組合法第八十六条の六第一項の表示基準に従って産地を表示しなければならない場合はそちらに譲る、というカーブアウトが入っています。そのうえで第三項が例外を置きます。

前二項の規定は、主務省令で定める規模その他の要件に該当する米穀事業者が指定米穀等(料理、酒類その他の主務省令で定めるものに限る。)について一般消費者への提供をする場合については、適用しない。

同法 第八条第三項

受けた「米穀等の産地情報の伝達に関する命令」第五条は、第一項で要件を指定米穀等の提供の事業を行っていることとし、第二項で対象を施行令第一条第五号に掲げるもの以外の指定米穀等、と定めました。第五号は粒状の加熱調製米、つまり米飯類です。それ以外、という書き方なので清酒はこちらに入ります。読み替えると、飲食店が客に出すものについては次のようになります。

場面 一般消費者への産地伝達
定食屋が出すごはん(米飯類) 適用除外に入らない
同じ店が出す日本酒一合 適用除外に入る
酒販店が売る四合瓶 販売なので除外に入らない(表示基準があればそちら)

同じテーブルで、茶碗のごはんには産地を伝える義務があり、徳利の日本酒には無い。米が酒に変わると、義務の形も変わります。

登録品種の酒米で造っても、育成者権は日本酒に及ばない

登録品種の酒米で造っても、育成者権は日本酒に及ばない
酒米とおちょこ

三つめは種苗法です。新しく育てた品種を登録すると育成者権が発生し、その品種を業として利用する権利を独占できます。酒米にも、比較的新しい県産品種など品種登録を受けたものがあります(この記事の表で上位に並ぶ山田錦・五百万石・雄町は、制度ができる前の品種です)。では、登録品種の酒米で造った日本酒に育成者権は及ぶのか。

稲の加工品として政令が挙げるのは「米飯」の一語

種苗法の「利用」は三段階です。種苗そのもの、種苗から穫れた収穫物、そして収穫物から作った加工品。第二条第四項が加工品をこう定義します。

この法律において「加工品」とは、種苗を用いることにより得られる収穫物から直接に生産される加工品であって政令で定めるものをいう。

種苗法(平成十年法律第八十三号)第二条第四項

ここでも中身は政令に委ねられました。受けた種苗法施行令第二条は、農林水産植物の種類ごとに加工品を並べています。全部で七つです。

号 植物の種類 政令が定める加工品
一 小豆 豆を水煮したもの(砂糖を加えたものを含む。)及びあん
二 いぐさ ござ
三 稲 米飯
四 いんげん豆 豆を水煮したもの(砂糖を加えたものを含む。)及びあん
五 かんしょ 干し芋及び焼き芋
六 茶 葉又は茎を製茶したもの
七 落花生 煎ったものその他の加熱による調理をしたもの

稲の行に書かれているのは米飯の二文字だけです。茶には「葉又は茎を製茶したもの」という広めの書き方が、かんしょには二つの具体名が与えられているのに、稲には米飯しかありません。清酒も米菓もみりんも、この一覧にはありません。したがって、登録品種の酒米で造った日本酒は種苗法上の「加工品」にあたらず、育成者権はそこまで届かないことになります。

加工品まで届くのは、前の二段階で機会がなかったときだけ

仮に清酒が政令に載っていたとしても、権利がすぐ働くわけではありません。第二条第五項第三号は、加工品についての「利用」に条件を付けています。

その品種の加工品を生産し、譲渡若しくは貸渡しの申出をし、譲渡し、貸し渡し、輸出し、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為(育成者権者又は専用利用権者が前二号に掲げる行為について権利を行使する適当な機会がなかった場合に限る。)

種苗法 第二条第五項第三号

括弧の中が補充性の条件です。種苗の段階で止められたはず、収穫物の段階で止められたはず、という場合には加工品まで追いかけられません。酒蔵が流通した玄米を買って仕込むかぎり、前二段階で権利行使の機会はあったと見るのが普通です。

2026年7月24日から、存続期間は三十五年になった

その育成者権の長さが、この夏に変わりました。第十九条第二項の現行文はこうです。

育成者権の存続期間は、品種登録の日から三十五年(第四条第二項に規定する品種にあっては、四十年)とする。

種苗法 第十九条第二項(令和八年法律第七十二号による改正後)

改正法である「種苗法の一部を改正する法律」(令和八年法律第七十二号)は令和八年七月二十四日に公布されました。本体の施行日は令和八年十二月一日ですが、附則第一条ただし書が第十九条第二項の改正規定などを公布の日から施行すると定めたため、存続期間の延長が先に動いています。さらに附則第三条は、その一部施行日に現にその存続期間が満了していない育成者権に適用するとしており、すでに登録されている酒米の品種も延長の対象に入ります。括弧内の四十年は第四条第二項に定める品種、つまり省令が定める永年性植物に向けた数字なので、稲は三十五年のほうです。

酒米の数字|酒造好適米だけでは要る量に足りない

酒米の数字|酒造好適米だけでは要る量に足りない
酒米の粒

制度の話から数字の話に移ります。日本酒に使われる米は年にどれくらいで、そのうち酒造好適米はどれくらいなのか。国税庁と農林水産省が別々に数えているので、二つを並べると見えてくるものがあります。

山田錦・五百万石・美山錦・雄町

農林水産省が公表している酒造好適米の検査結果によると、銘柄別の生産量は次のとおりです。単位は玄米トンです。

銘柄 令和6年産(確定) 令和7年産(推計)
山田錦 33,842 32,678
五百万石 17,650 14,380
美山錦 4,640 4,242
雄町 2,965 3,085
出羽燦々 1,497 1,070
総検査数量 94,672 87,323

山田錦が突出しています。令和6年産の確定値では、そのうち兵庫県産が18,274トンで、全国の山田錦の半分を超えます。兵庫県によると、山田錦は大正12年に兵庫県立農事試験場(現在の県立農林水産技術総合センター)で、「山田穂」と「短稈渡船」を交配し、昭和11年に「山田錦」と命名され本県の奨励品種となりました。一九三六年、品種登録の制度が日本にできる前の話です。

玄米185,756トンと検査数量94,672トンの差

一方、国税庁が酒蔵に聞き取っている原料米の使用量はこうなっています。

令和6酒造年度における清酒用原料米は、玄米としては 185,756 t(対前年度比 3.4%減)、白米としては 115,654 t(同 3.5%減)が使用されています。

国税庁「清酒の製造状況等について 令和6酒造年度分」

玄米で185,756トン。これに対して、同じころの酒造好適米の総検査数量は94,672トンでした。数え方も期間の切り方も違うので引き算をそのまま意味づけることはできませんが、桁として、酒造好適米だけでは日本酒の原料をまかなえていないことは読み取れます。足りない分を埋めているのは、飯米として作られた一般米です。「日本酒は酒米で造る」という言い方は、半分しか当たっていません。

なお酒造年度は七月から翌年六月までで、農林水産省の産年ともそろいません。

平均精米歩合61.2%が意味すること

同じ資料には精米歩合の全国平均も載っています。平均精米歩合は 61.2%(前年度 61.4%)。玄米185,756トンが白米115,654トンになるという関係は、この平均とおおむね合い、差の七万トンほどは糠として削られた分です。

精米歩合という数字が何を割った値なのかは、酒税法ではなく国税庁の告示が定めています。定義の細部は精米歩合とは「白米のその玄米に対する重量の割合」|数字の決まり方を告示から読むで扱いました。原料米の等級と純米酒の関係については純米酒とは|3等以上の玄米という条件と醸造用玄米の特上・特等もあわせてどうぞ。

市場の規模も添えておきます。国税庁の酒レポートは清酒の課税数量は、昭和 48 年度のピーク時(177万 KL)から、令和5年度には3割以下の 39 万 KL まで減少しています。と書いています。同じ国税庁の統計表では令和5年度の清酒の課税数量が387,164キロリットル、清酒の製造免許場数が1,525場(他の酒類を主とする製造場で清酒の免許も持つ分が外書きで158場)でした。

こうじ菌と酵母|法律が名前を書かない二つの生き物

こうじ菌と酵母|法律が名前を書かない二つの生き物
酒蔵の仕込みタンク

日本酒を成り立たせているのは米だけではありません。米のでんぷんを糖に変えるこうじ菌と、その糖をアルコールに変える酵母。この二つが同じタンクの中で同時に働くのが並行複発酵で、日本酒の度数がビールやワインより高くなる理由でもあります。ところが、米にはあれだけ制度が用意されているのに、菌と酵母には驚くほど何もありません。

条文が書くのは「米こうじ」までで、菌の名前は無い

酒税法第三条第七号イは米、米こうじ及び水と書きます。米こうじは必須の原料です。しかし、そのこうじを作る菌が何という菌なのかは、酒税法にも、その施行令にも書かれていません。「こうじ」という状態が要求されているだけで、菌種は指定されていないのです。米トレーサビリティ法施行令が第七号で「米こうじ」を指定米穀等に含めたのも、あくまで米の加工品としての扱いであって、菌に着目したものではありません。

国菌を決めたのは国ではなく学会

にもかかわらず、この菌には「国菌」という呼び名があります。日本農芸化学会の機関誌に載った一島英治氏の解説は、日本を代表する生物を並べたうえで、「国鳥」はキジを1947年に日本鳥類学会が、「国蝶」はオオムラサキを1957年に日本昆虫学会が選んだものとし、コウジカビについては2006年日本醸造学会認定と記しています。学名はAspergillus oryzaeです。

つまり国菌は、法律で定められた地位ではありません。国鳥のキジも法律に根拠を置いた指定ではなく、学会が選んだという事実が支えているだけで、こうじ菌も同じ枠にいます。日本酒の必須原料である米こうじは、法律が名前を書かない菌によって作られていることになります。

酵母は、制度のどこにも出てこない

酵母に至っては、国菌のような呼び名すらありません。酒税法の清酒の定義に酵母という語は現れず、原料としても数えられていません。蔵付きの酵母か、日本醸造協会が頒布するきょうかい酵母か、県が開発した独自酵母か。選択は造り手に委ねられ、ラベルに酵母名を書く義務もありません。

三者の扱いはこう分かれます。

三者 掛かっている制度 決めているのは誰か
米 食糧法・米トレーサビリティ法・種苗法 国(法律と政令)
こうじ菌 法律に菌種の指定は無い 学会(2006年の国菌認定)
酵母 制度上の位置づけが無い 造り手

三つのうち一つだけが徹底的に管理され、残りの二つはほとんど自由。この非対称が、同じ「米・米こうじ・水」から蔵ごとにまったく違う味が出てくる理由の一端でもあります。

ラベルから種類を読む|特定名称・精米歩合・日本酒度

ラベルから種類を読む|特定名称・精米歩合・日本酒度
特定名称酒の分類図

店頭でラベルを見るときの読み方を整理します。ラベルに並ぶ用語は、それぞれ別の文書に根拠を持っています。

特定名称は告示が決めていて、酒税法には無い

純米酒、吟醸酒、大吟醸酒、本醸造酒。こうした呼び名を特定名称と言いますが、これらは酒税法の条文には出てきません。定めているのは国税庁の告示「清酒の製法品質表示基準」のほうです。酒税法が決めているのは品目名としての「清酒」までで、その下の呼び分けは告示が引き受けています。

ラベルの言葉 根拠となる文書
品目「清酒」 酒税法第三条第七号
地理的表示「日本酒」 国税庁が指定した地理的表示
純米・吟醸・大吟醸・本醸造 国税庁告示「清酒の製法品質表示基準」
原料米の産地 米トレーサビリティ法第八条ほか

純米と吟醸の組み合わせ方は【純米吟醸と純米大吟醸の違いとは】香り・味わい・飲み方・読み方を解説と特別純米酒と純米吟醸酒の違いとは?味わいや香り選び方、おすすめ銘柄を解説で具体的に比べています。

精米歩合と日本酒度は、書く義務のある事項ではない

精米歩合は特定名称を名乗るときに表示が求められますが、日本酒度は必ず書かなければならない事項には入っていません。書いてある銘柄と書いていない銘柄があるのはそのためです。読み方は日本酒度とは|国税庁の公表値と甘辛度で読むにまとめました。

度数は原酒かどうかで変わります。一般的な清酒は十五度前後、加水しない原酒は十八度を超えるものもあり、低アルコールタイプは十度を切ります。上限は二十二度未満なので、その手前までは清酒でいられます。比較は日本酒のアルコール度数を比較!ビール、ワイン、焼酎との違いとは?をどうぞ。

日本酒の飲み方|温度帯と料理の合わせ方

日本酒の飲み方|温度帯と料理の合わせ方
徳利からおちょこに注ぐ

日本酒がほかの酒と違うのは、同じ一本を五度でも五十度でも飲めることです。温度で香りの立ち方と甘みの感じ方が変わります。

五度から五十度までの呼び名

温度帯にはそれぞれ古い呼び名が付いています。厳密な規格ではなく慣習ですが、店で頼むときの共通語として使えます。

おおよその温度 呼び名 向いているタイプ
5度前後 雪冷え 大吟醸、発泡、低アルコール
10度前後 花冷え 吟醸、純米吟醸
15度前後 涼冷え 純米、特別純米
20度前後 常温(冷や) 純米、山廃
40度前後 ぬる燗 純米、生酛、山廃
50度前後 熱燗 本醸造、普通酒、生酛

燗の付け方は熱燗の作り方と楽しみ方!温度の違いで変わる日本酒の魅力と料理とのペアリングに手順をまとめています。燗にして伸びるタイプの造りについては生酛とは|山廃・速醸との違いと天然乳酸菌の酒母造り・燗のおいしさもあわせてどうぞ。

合わせる料理の考え方

冷やした吟醸には刺身や白身の焼き物、常温の純米には煮物や焼き鳥、燗にした生酛にはおでんや味噌を使った料理。酒の温度と料理の温度を近づけると外しにくくなります。

飲まない日本酒の査定・買取はリンクサスへ

飲まない日本酒の査定・買取はリンクサスへ
査定に並ぶ日本酒の瓶

贈答で受け取ったまま置いてある一升瓶、飲みきれずに残った限定酒。リンクサス酒販では日本酒の査定と買取を承っています。品揃えは日本酒から焼酎、ウイスキー、ブランデーまで幅広く扱っています。

査定でよく見るのは、銘柄と容量、製造年月、保管状態の四つです。生酒や吟醸は温度の影響を受けやすいので、冷蔵で保管されていた一本は評価が変わります。箱や化粧箱が残っていれば一緒にお持ちください。

当日14:00までのご注文で当日発送に対応しています。買取のご相談は日本酒買取のページから、商品のご購入は日本酒の商品一覧からどうぞ。

よくある質問

よくある質問
切子グラスと日本酒

日本酒と原料の米に掛かる制度について、よく寄せられる質問をまとめました。

日本酒とは何ですか。

米、米こうじ、水を原料として発酵させ、こしたお酒です。酒税法第三条第七号は品目「清酒」をこう定義し、アルコール分二十二度未満という上限を付けています。こうじが米のでんぷんを糖に変えながら酵母が同時にアルコール発酵を行う並行複発酵が特徴で、酒税法の分類では醸造酒類に入ります。なお「日本酒」は国税庁が指定した地理的表示の名称でもあり、国内産米と国内製造という生産基準が付きます。

日本酒は「主要食糧」に含まれますか。

農林水産大臣の指定が無い限り、含まれません。食糧法第三条第一項は主要食糧に加工品を含める余地を残していますが、受けた食糧法施行令第一条第二項が挙げるのは米穀粉、ひき割りとミール、小麦でん粉、餅とだんご類、粒状の加熱調製米、そして農林水産大臣が指定するもの、の六つです。清酒は挙がっていません。原料の玄米や白米は主要食糧ですが、酒になった時点でこの法律の対象から外れます。

日本酒に原料米の産地を書く義務はありますか。

事業者どうしの取引では、米トレーサビリティ法第四条第一項により産地の伝達義務があります。清酒は施行令第一条第八号で対象品目に指定され、第二条により指定米穀等にあたるためです。一般消費者への販売でも、酒類の表示基準が産地表示を求めている場合を除き、第八条第一項の対象になります。ただし第八条第三項と関係省令により、飲食店が客に提供する場面では清酒は適用除外です。同じ店でも、ごはん(米飯類)は除外に入りません。

日本酒の産地表示を監督するのはどの役所ですか。

財務大臣、実務上は国税庁です。米トレーサビリティ法第十一条第一項は各号で主務大臣を内閣総理大臣及び農林水産大臣(第一号)、農林水産大臣(第二号)と定めていますが、ただし書が酒類の販売・輸入・加工・製造・提供の事業に係る事項を財務大臣としています。さらに施行令第四条で権限が国税庁長官に委任され、第六条で国税局長や税務署長まで下ります。

登録品種の酒米で造った日本酒に、育成者権は及びますか。

及びません。種苗法第二条第四項は加工品の範囲を政令に委ねており、種苗法施行令第二条第三号が稲について定めているのは「米飯」だけです。清酒は挙がっていません。さらに第二条第五項第三号は、加工品への権利行使を、種苗と収穫物の段階で権利を行使する適当な機会がなかった場合に限っています。種もみの無断増殖には育成者権が働きますが、玄米の段階も第二条第五項第二号の同種の条件付きです。

育成者権の存続期間はどれくらいですか。

種苗法第十九条第二項の現行文は、品種登録の日から三十五年(第四条第二項に規定する品種は四十年)です。令和八年法律第七十二号による改正で延長されたもので、同法附則第一条ただし書により第十九条第二項の改正規定は公布の日である令和八年七月二十四日から施行されています。附則第三条により、その一部施行日に存続期間が満了していない育成者権にも適用されます。稲は三十五年のほうです。

日本酒はすべて酒造好適米で造られているのですか。

いいえ。国税庁によれば令和6酒造年度の清酒用原料米は玄米で185,756トン、農林水産省が公表する酒造好適米の総検査数量は令和6年産で94,672トンです。数え方も期間も違うため単純な引き算はできませんが、桁として酒造好適米だけではまかなえていません。不足分は飯米として作られた一般米が補っています。

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