サゼラックとは|角砂糖を名指しする政令と砂糖の価格調整制度
サゼラックはライウイスキーに角砂糖とペイショーズ・ビターズを合わせ、アブサンの香りを移したグラスに注ぐ古典的なカクテルです。この記事では作り方を押さえたうえで、材料表を日本の制度の言葉に置き換えてみます。すると、酒税法が一行で片づけてしまう酒よりも、角砂糖のほうがはるかに厚い手続に囲まれていることが分かります。角砂糖には砂糖とでん粉だけを扱う法律があり、種類を名指しする政令があり、値段が基準を下回れば、輸入のたびに一度、国の機構へ売り渡されるからです。
サゼラックという一杯の骨格

サゼラックはアメリカのニューオーリンズで飲まれてきた一杯です。使う材料は五つしかありません。ライウイスキー、角砂糖、ペイショーズ・ビターズ、アブサン、そしてレモンピールです。氷は入れません。割り材も加えません。だからこそ、材料のひとつひとつが最後まで味に残ります。
材料と手順
グラスを二つ使います。片方を氷で冷やしておき、もう片方で角砂糖を崩し、ビターズを数滴落として湿らせ、ライウイスキーを注いで氷とともにステアします。冷えたグラスから氷を捨て、アブサンを少量まわして内側に香りを移し、余りは捨てます。そこへステアした液体を注ぎ、レモンピールの皮油を振りかけます。
角砂糖が溶けにくいときは、砂糖を水で煮溶かしたシュガーシロップに替える作り方もあります。味の上ではわずかな違いですが、あとで見るとおり、制度の上では条文の節が動きうる選択です。
五つの材料の役割
ライウイスキーは骨格を作ります。角砂糖は角を取り、口当たりを丸くします。ペイショーズ・ビターズは薬草の苦みで輪郭を引き締め、アブサンは香りだけを置いていきます。レモンピールは最後に上から皮油をまとわせるための道具で、皮そのものは入れても入れなくてもかまいません。五つのうち、量として多いのはウイスキーだけで、あとはどれも少量です。
少量だからこそ、置き換えが効きます。アブサンが手元になければアニス系のリキュールで代わりを務められますし、角砂糖はシロップに替えられます。ベースをバーボンに替える作り方も広く行われています。バーボンにすると甘みが増え、スパイスの刺激は弱まります。オールドファッションドと組み立てが似ているのは、どちらも酒と砂糖と苦みという古い型を持っているからです。
道具はステア用の一式で足りる
シェイカーは使いません。ミキシンググラスとバースプーン、ストレーナー、角砂糖を崩すためのマドラーかペストルがあれば組み立てられます。アブサンをグラスの内側に薄くのばすときは、少量を入れてグラスを回し、残りを流すだけです。器具の数が少ないぶん、材料の質がそのまま出ます。カクテル全般の分類の話はカクテルとはで扱っています。
材料表を制度の言葉に置き換える

五つの材料を、日本の法令が使う語に置き換えてみます。ライウイスキーは酒税法の「ウイスキー」、アブサンは酒類で、ビターズも度数の高い酒類として売られるのが通例、レモンピールは果実の皮です。そして角砂糖は、砂糖です。
酒の側は酒税法が一行で片づける
酒税法第三条第十五号イは、ウイスキーを発芽させた穀類及び水を原料として糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が九十五度未満のものに限る。)
と定義します。原料は「発芽させた穀類」とだけ書かれ、大麦かライ麦かは問われません。ライ麦の比率で名前が決まるのはアメリカの規則のほうで、その話はライウイスキーとはに譲ります。
面白いのは、酒税法の本則三万二千九百四十六字を通しで見ると、「砂糖」という語が四回しか出てこず、その四回がすべて焼酎の号に集まっていることです。ウイスキーの定義には砂糖が出てきません。ウイスキーの原料の側から酒税法を読むかぎり、砂糖は視界に入らない材料なのです。
甘味の側には専用の法律がある
ところが角砂糖の側には、砂糖とでん粉だけを扱う法律が独立して置かれています。砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律(昭和四十年法律第百九号)です。本則は五章五十条ぶん、二万八千五百二十六字。第二章がまるごと砂糖に、第三章がまるごとでん粉に充てられています。酒税法がウイスキーに割いた分量よりも、この法律が砂糖に割いた分量のほうが多い、という関係になります。
比べる相手を変えると、この差はもっとはっきりします。酒税法は酒類全体を課税の対象として扱う法律で、ウイスキーはその中の一品目にすぎません。一方この法律は、砂糖とでん粉という二つの品目のためだけに作られています。しかも中身は課税ではなく、値段を動かす仕組みです。輸入される砂糖から機構を通して差額を集め、集めた分を国内の生産者に配る。カクテルに一個落とすあの角砂糖は、その仕組みの入口に立っている物なのです。
| 材料 | 主に扱う法令 | その法令での位置 |
|---|---|---|
| ライウイスキー | 酒税法 | 第三条第十五号(定義規定の一号) |
| アブサン・ビターズ | 酒税法 | 酒類として課税の対象 |
| 角砂糖 | 砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律 | 第二章(第三条から第二十五条の二まで) |
| シュガーシロップに替えた場合 | 同法 | 原料しだいで第一節(砂糖水)か第二節(異性化糖) |
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角砂糖は政令が名指しする「指定糖」のひとつ

この法律の中心にあるのが「指定糖」という語です。指定糖に当たる砂糖を輸入しようとする者には、あとで見る重い手続が課されます。では何が指定糖なのか。法律の本文は粗糖の名を挙げるだけで、あとは政令に投げています。
政令が並べる六種類
砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律施行令第三条第一項は、こう書きます。
砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律施行令 第三条第一項法第五条第一項の政令で定める種類の砂糖は、粗糖、高糖度原料糖(略)、精製糖、氷砂糖、角砂糖及び特殊糖(分蜜をした砂糖であつて、粗糖、高糖度原料糖、精製糖、氷砂糖及び角砂糖以外のものをいう。第三十一条の表において同じ。)とする。
粗糖、高糖度原料糖、精製糖、氷砂糖、角砂糖、特殊糖。六つのうち、五つ目に角砂糖が来ます。しかも最後の「特殊糖」は、前の五つを引き算した残りとして定義されています。つまり角砂糖は、残りものの側に落とされず、自分の名前を与えられた砂糖です。なお指定糖には、同条第二項がいう砂糖と他の糖との混合糖も加わります。
ここに、砂糖の世界の粒度が表れています。角砂糖と氷砂糖は、どちらも精製糖を固めたり結晶させたりして作られる、いわば同じ白い砂糖の別の形です。それでも政令は両方を並べて書き、あとで見るとおり別々の係数まで与えます。カクテルに一個落とす角砂糖と、梅酒に一キロ入れる氷砂糖は、法令の目から見ても別の物なのです。氷砂糖の側の話はおすすめ梅酒30銘柄で触れています。
法律の本文には角砂糖という語が無い
もうひとつ確かめておきたいことがあります。角砂糖という語は、法律の本則二万八千五百二十六字のどこにも出てきません。氷砂糖も出てきません。この二語が現れるのは施行令と施行規則だけです。法律は「政令で定める種類の砂糖」とだけ言い、具体名は下位法令が引き受ける。制度の骨格と、店頭に並ぶ物の名前とが、条文の階層で分かれている形です。
逆に言えば、角砂糖という語を探すつもりで法律だけを読んでも見つかりません。政令まで降りて初めて、サゼラックに落とす一個が制度の視野に入ります。
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輸入された砂糖は、一度売って買い戻す

指定糖に当たると何が起きるのか。ここがこの制度のいちばん変わったところです。法第五条第一項は、輸入申告をする者に対して、その砂糖を独立行政法人農畜産業振興機構に売り渡さなければならない
と定めます。買うのではなく、売るのです。
売渡し、買入れ、そして売戻し
手順は三つに分かれます。まず輸入者が売渡申込書を機構に出します。第五条第二項は前項の規定による指定糖の売渡しは、当該指定糖に係る輸入申告の前に、売渡申込書を機構に提出してしなければならない。
と、申込みが輸入申告より前であることまで指定しています。次に機構が第七条の価格で買い入れます。そして第八条第一項が機構は、第五条第一項の規定による指定糖の売渡しをした者に対し、その指定糖を売り戻さなければならない。
と定め、同じ相手に売り戻します。
物は動きません。動くのは値段です。第九条第一項が定める売戻しの価格は、買入れの価格より高く設定されています。その差額が、農林水産省のいう調整金です。同省は制度の目的を諸外国との生産条件の格差から生ずる不利を補正するため、安価な輸入品から徴収した調整金を主たる財源として、国産品の生産者及び製造事業者に対し、国産品の生産・製造コストと販売額との差額相当の交付金を交付する価格調整制度を実施しています。
と説明しています。
売り渡さなくてよい場合もある
第五条第一項にはただし書があり、関税定率法第十四条によって関税が免除されるものなどは外れます。政令第五条はその「その他政令で定める場合」を三つの号に整理していて、無条件免税や特定用途免税、外交官用の免税、課税原料品等による製品を輸出した場合の免税、日米地位協定にともなう免税が並びます。旅行者が土産に持ち帰る角砂糖のような荷物は、法律のただし書がいう関税定率法第十四条の免税に当たり、売渡しの義務から外れます。
もうひとつ、条文は担保の話も置いています。第八条第三項は、輸入者による買戻しを確実にするために保証金や証券などの担保を提供させることができるとしています。売って買い戻すという往復が、確実に閉じるように作られているわけです。
担保の話と並んで、政令はもうひとつ細かい条件を置いています。施行令第四条は売渡しの申込みに付ける条件を号ごとに並べていて、関税の払戻しがされたとき、免税が確定したとき、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定などの証明書を付けて輸入した砂糖が製品の試験や開発に使われたとき、粗糖や高糖度原料糖が輸出向けの指定糖や食品、あるいは省令の定める食品以外の製品に使われたときに、それぞれ契約が解除されると定めます。国内で消費されない砂糖と、食用に回らない砂糖には負担を負わせない、という整理です。
令和七砂糖年度の数字を並べる

制度の骨格が分かったところで、いま動いている数字を見ます。法第二条第九項はこの法律において「砂糖年度」及び「でん粉年度」とは、毎年十月一日から翌年九月三十日までの期間をいう。
と定めます。暦年でも会計年度でもない、十月始まりの一年です。この記事を書いている二〇二六年八月は、令和七砂糖年度の終わりにあたります。
砂糖調整基準価格と指定糖調整率
農林水産省が令和七年九月十二日に公表した指標によれば、令和七砂糖年度の砂糖調整基準価格は一トンあたり十五万三千二百円です。これは前年度と同じ額でした。同省の注記はこの語を砂糖調整基準価格とは、輸入粗糖と国内産糖との価格調整の基準となる金額です。
と説明しています。輸入された砂糖の値段がこの線を下回っているとき、第五条の売渡しの義務が働きます。
もうひとつの数字が指定糖調整率で、令和七砂糖年度は三九・三二パーセントです。同省はこれを指定糖調整率とは、粗糖の輸入者から徴収する調整金の負担水準を定める率です。内外の粗糖のコスト格差に当該率を乗じて、調整金単価を算定します。
と注記しています。国内と国外の値段の差をそのまま全部取るのではなく、その約四割を取る、という設計です。
枠を超えると二次調整金が乗る
さらに二次調整金という段があります。令和七砂糖年度の砂糖に係る二次調整金は一トンあたり二万五千六百十三円で、同省はこれを2次調整金とは、1次調整金による輸入枠を超える数量について課される調整金です。
と説明します。法律の側では第二十四条がこの上乗せの仕組みを置いていて、通常年の売戻し数量を超えた分について、農林水産大臣が定める額を加えることになっています。
基準価格が前年度と同じ額で据え置かれた一方、異性化糖の基準価格は二十万二千五百九十七円から二十一万七千五百四十四円へ、でん粉の基準価格も十八万二千二百四十円から十八万七千八百三十円へ上がっています。基準価格は国内で作るのにかかる費用を土台に決まりますが、国際価格の動向も算式に入るので、上がった理由を費用だけで読み切ることはできません。三つの品目で動き方が違うのは、それぞれの原料と工場の事情が別だからです。
| 指標 | 令和七年度 | 令和六年度 |
|---|---|---|
| 砂糖調整基準価格 | 153,200円/製品トン | 153,200円/製品トン |
| 指定糖調整率 | 39.32% | 39.32% |
| 砂糖に係る二次調整金 | 25,613円/製品トン | 25,613円/製品トン |
| 異性化糖調整基準価格 | 217,544円/製品トン | 202,597円/製品トン |
| 加糖調製品糖調整基準価格 | 291,658円/製品トン | 289,000円/製品トン |
| でん粉調整基準価格 | 187,830円/製品トン | 182,240円/製品トン |
| 指定でん粉等調整率 | 4.819% | 4.550% |
この表で目を引くのは、いちばん下の二行です。砂糖の調整率が三九・三二パーセントであるのに対し、でん粉の調整率は四・八一九パーセント。八倍以上の開きがあります。同じ一本の法律が扱う二つの品目でありながら、輸入する側に求める負担の重さがまるで違うのです。
角砂糖と氷砂糖で係数が違う

制度は指定糖の数量を、いったん粗糖に換算してから数えます。角砂糖一トンを粗糖何トン分として扱うのか。その換算の係数を、施行令第三十一条の表が置いています。
二つの表に並ぶ数字
施行令第三十一条は、売渡申込数量や売戻しの数量を次の表の上欄に掲げる指定糖の種類(略)に応じ製造歩留りその他の調整率として同表の下欄に掲げる係数で除してするものとする。
と定めます。除する、つまり割る。係数が小さいほど、換算後の数量は大きくなります。
| 指定糖の種類 | 施行令第三十一条 | 施行規則第二条 |
|---|---|---|
| 高糖度原料糖 | 0.985 | 1.000 |
| 精製糖 | 0.955 | 0.955 |
| 氷砂糖 | 0.700 | 0.700 |
| 角砂糖 | 0.955 | 0.955(特殊糖と同じ行) |
| 特殊糖 | 0.955 | 0.955(角砂糖と同じ行) |
角砂糖は〇・九五五、氷砂糖は〇・七〇〇です。同じ一トンでも、角砂糖は粗糖およそ一・〇五トン分、氷砂糖はおよそ一・四三トン分として数えられることになります。氷砂糖だけがはっきり離れているのは、大きな結晶を育てるまでに落ちる歩留りの差が反映されているからでしょう。
二つの表は同じではない
注意したいのは、この係数の表が二か所にあり、二つが完全には一致しないことです。施行規則第二条の表では高糖度原料糖が一・〇〇〇で、施行令の〇・九八五とずれます。角砂糖と特殊糖も、施行令では別々の行、施行規則では一行にまとめられています。同じ数字を使う場面と使わない場面があるということで、条文を引くときは、どちらの表の話をしているのかを毎回書き分ける必要があります。
数量の換算という一見無味乾燥な表に、角砂糖が独立した行を持っている。カクテル一杯に落とす角砂糖の背後に、これだけの目盛りが用意されているわけです。
係数はどこで効くのか
この係数が働くのは、量を数える場面と、価格を計算する場面の二つです。施行令第三十一条の表は、第二十四条が定める二次調整金を課すかどうかを決めるために、期間ごとの申込数量と売戻しの数量を粗糖に直すときに使われます。施行規則第二条の表は、粗糖以外の指定糖について機構の買入れの価格を出すときに、平均輸入価格へ加減する額を計算するために使われます。角砂糖を輸入する者にとっては、数量の側でも価格の側でも、同じ〇・九五五という数字を通ることになります。
ちなみに施行規則第一条の二第二項には、この制度の思わぬ広がりが見えます。粗糖や高糖度原料糖が食品以外の製品に使われたときに契約が解除される、その製品として省令が挙げるのはイタコン酸、ポリオキシアルキレンサッカロース、デキストラン、有機界面活性剤のうちしよ糖脂肪酸エステル及び硝酸塩を主とする爆薬
です。砂糖は食べるためだけの物ではない、ということが条文の側からも見えてきます。
砂糖をシロップに替えると、条文の節が動く

サゼラックの作り方には、角砂糖の代わりにシュガーシロップを使う流儀があります。角砂糖を崩す手間が省け、溶け残りも出ません。ところが制度の側から見ると、この置き換えは、何で甘みを付けるかによって第二章の中で節が動く選択になります。
砂糖を溶かしたのか、でん粉から作ったのか
砂糖を水で煮溶かしただけのシロップなら、原料は砂糖のままです。施行規則第二条は砂糖水を特殊糖のひとつとして名指ししているので、輸入される砂糖水は第二章第一節が捕まえます。しかし市販のガムシロップや清涼飲料に広く使われている甘味は、多くがでん粉から作られています。法第二条第四項はそれを異性化糖と呼び、でん粉を酵素又は酸により加水分解して得られた主としてぶどう糖からなる糖液を酵素又はアルカリにより異性化した果糖又はぶどう糖を主成分とする糖をいう。
と定義します。
異性化糖には第二章第二節が用意されています。令和七砂糖年度の異性化糖調整基準価格は一トンあたり二十一万七千五百四十四円、異性化糖調整率は二〇・六一パーセントです。砂糖の三九・三二パーセントより低い一方、基準価格そのものは砂糖より高く置かれています。二つの甘味の値段が離れすぎないように、別々のつまみで調整している格好です。
移出の制限と、この法律でいちばん重い罰金
第二節には、輸入だけを見ていては出てこない条文があります。第十七条です。
砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律 第十七条異性化糖製造者は、第十一条第一項の規定による売渡しをすべき異性化糖を、機構に売り渡し、かつ、機構から買い戻した後でなければ、移出してはならない。
国内で作った異性化糖でも、機構に売って買い戻すまでは工場から出せない、という規定です。そしてこの条に違反したときの罰則が、第四十一条の三百万円以下の罰金
。この法律の罰則四か条のうち、罰金の額がいちばん大きいのはここです。輸入された砂糖ではなく、国内で作られた異性化糖の移出に、最も重い罰金が置かれています。
もっとも、これは飲食店や家庭の話ではありません。名宛人は「異性化糖製造者」であって、シロップを買って使う側ではありません。バーでガムシロップの瓶を開けることが第十七条に触れるわけではない、という切り分けは押さえておきたいところです。
加糖調製品という第三の節
第二章にはもうひとつ、第三節として輸入加糖調製品の節があります。砂糖そのものではなく、砂糖を混ぜた調製品として輸入されるものを捕まえるための節です。施行令第一条は対象を関税暫定措置法の号で十四通り名指ししていて、ココア調製品やコーヒー調製品、調製した野菜などが並びます。令和七砂糖年度の加糖調製品糖調整基準価格は一トンあたり二十九万一千六百五十八円、調整率は三三・四〇パーセントでした。砂糖として入れても、砂糖入りの製品として入れても、捕まえる網が用意されているという構えです。
でん粉の章が守っているのは、いもだった

ここで、もういちどライウイスキーの側に戻ります。ウイスキーは穀類のでん粉を糖に変えて造る酒です。ならば、この法律の第三章「でん粉の価格調整に関する措置」は、ウイスキーの原料にも掛かるのでしょうか。
第三章の主語は「いも」
結論から言えば掛かりません。第三章が守っているのは、いもだからです。法第二条第六項はこの法律において「でん粉原料用いも」とは、でん粉の製造の用に供するばれいしよ及びかんしよをいう。
と定め、第七項が国内産いもでん粉をその加工品として定義します。第二十六条第二項のでん粉調整基準価格も、条文を読むとでん粉原料用いもの生産の振興及び国内産いもでん粉の製造事業の健全な発展に及ぼす悪影響を緩和するため
と目的が書かれています。守る対象は、ばれいしょとかんしょの畑です。
とうもろこしは用途で入り、用途で外れる
では輸入されるとうもろこしはどうなるのか。施行令第一条の二がこう書きます。
砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律施行令 第一条の二法第二条第八項の政令で定める農産物は、コーンスターチの製造に使用するものとして関税暫定措置法第八条の五第二項において準用する関税定率法(明治四十三年法律第五十四号)第九条の二第一項の割当てを受けて輸入されるとうもろこしとする。
切り口は品目ではなく用途と割当てです。コーンスターチを作るために、割当てを受けて入ってくるとうもろこしだけが対象になります。同じとうもろこしでも、バーボンを蒸留するために輸入されるものは、この条の外側です。飼料として入るものも同じです。粒の姿は変わらないのに、行き先の申告によって制度の内と外が分かれます。
ライ麦はどこにも出てこない
サゼラックの伝統的なベースであるライウイスキーの主原料、ライ麦はどうでしょうか。この法律にも施行令にも、ライ麦は現れません。酒税法の本則を通しで見ても、ライ麦という語は一度も出てきません。穀物の側で国が価格を支える仕組みは、いま見たとうもろこしのほか、米と麦を扱う食糧法の側にも置かれていて、そちらの麦は大麦とはだか麦と小麦です。麦焼酎とはで扱ったとおり、ライ麦はその定義にも入っていません。
結果として、サゼラックの材料表のうち、日本の価格調整制度がまっすぐ捕まえるのは甘味の側だけ、ということになります。
集めた調整金は、島ごとの単価になって出ていく

調整金は機構の手元に貯まるためのものではありません。第二章第四節と第三章第二節が、その出口を定めています。甘味資源作物交付金、国内産糖交付金、でん粉原料用いも交付金、国内産いもでん粉交付金の四本です。
同じ砂糖でも、作られた場所で単価が変わる
国内産糖交付金の単価は、原料によって、さらに製造される地域によって変わります。令和七砂糖年度の単価を農林水産省の公表資料から拾うと、てん菜を原料とする国内産糖は一トンあたり一万八千五百五十九円。さとうきびを原料とする甘しゃ糖は、鹿児島県と沖縄県の製造される地域ごとに十五通りの単価が並びます。
| 製造される地域 | 令和七年度 | 令和六年度 |
|---|---|---|
| てん菜を原料とするもの | 18,559 | 12,689 |
| 北大東島 | 118,226 | 114,807 |
| 伊是名島 | 86,228 | 82,925 |
| 与論島 | 78,395 | 74,950 |
| 奄美大島 | 71,890 | 68,463 |
| 種子島 | 39,394 | 36,051 |
| 沖縄本島内で製造し本島内で販売するもの | 28,781 | 24,947 |
いちばん高い北大東島と、さとうきびでいちばん低い沖縄本島内での製造販売とでは、四倍を超える開きがあります。小さな島ほど、原料を集める距離も工場を回す条件も不利になる。その不利の大きさが、そのまま単価の差として表に書き込まれているわけです。第二十二条第二項は、この単価を原料の買入れ価格と製造費用の合計から、粗糖の売戻しの価格を基礎に砂糖の市価を参酌して算出した額を引いた額を基準に、大臣が定めるとしています。
てん菜の単価が一万二千六百八十九円から一万八千五百五十九円へ、一年で四割以上上がっている点も目を引きます。この単価は毎年決め直されるもので、砂糖の市価が下がれば交付金が増え、上がれば減る向きに働きます。輸入される砂糖の値段と、北海道や南西諸島の畑の手取りとが、この一本の表を通してつながっているわけです。
交付金には条件が付いている
交付を受けるには要件があります。第二十一条は交付の相手を三つの要件で絞っており、省令で定める基準に適合する施設で製造していること、生産者に支払う対価の算定方法をあらかじめ約定していること、経営改善の計画について農林水産大臣の認定を受けていることが並びます。施行規則第二十五条は施設の基準を具体的に書いていて、てん菜糖の工場は一日の原料処理能力二千五百トン以上、甘しゃ糖の工場は三百トン以上とされています。
でん粉の側にも同じ構えがあり、令和七でん粉年度の国内産いもでん粉交付金の単価は、ばれいしょが一トンあたり二万一千四百三十七円、かんしょが六万三千百三十八円です。かんしょの側がおよそ三倍。ここでも単価は原料ごとに大きく分かれます。
この制度を支える機構と、罰則の並び

ここまで何度も出てきた機構、独立行政法人農畜産業振興機構は、砂糖のためだけの組織ではありません。独立行政法人農畜産業振興機構法第三条は目的を畜産経営の安定、主要な野菜の生産及び出荷の安定並びに砂糖及びでん粉の価格調整に必要な業務を行うとともに、
と定めます。牛乳も野菜も砂糖もでん粉も、同じ法人が抱えています。
砂糖とでん粉は勘定が分かれている
同法第十条第五号は、砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律による業務をイからヘまで六つ挙げます。指定糖の買入れと売戻し、異性化糖等の買入れと売戻し、輸入加糖調製品の買入れと売戻し、甘味資源作物交付金と国内産糖交付金の交付、指定でん粉等の買入れと売戻し、でん粉原料用いも交付金と国内産いもでん粉交付金の交付です。
そのうえで第十二条第一項が、経理を五つの勘定に分けるよう求めています。砂糖に関する業務は第四号の勘定、でん粉に関する業務は第五号の勘定です。砂糖から集めた調整金がでん粉の交付金に回ることはなく、逆もありません。角砂糖の輸入で徴収された分は、砂糖の側の勘定の中で島の製糖工場へ向かいます。
罰則は四か条
罰則は第四十条から第四十三条までの四か条です。第四十条は交付金の不正受給で三年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金
とし、ただし書でただし、刑法(明治四十年法律第四十五号)に正条があるときは、同法による。
と続けます。拘禁刑という語になっているのは、令和七年六月一日施行の刑法改正を受けたものです。第四十一条が異性化糖の移出制限違反で三百万円以下の罰金、第四十二条が届出義務違反と報告検査の拒否で三十万円以下の罰金、第四十三条が両罰規定で、法人でない団体も対象に含めています。
その前段に置かれた第三十九条は報告と立入検査の条で、甘味資源作物とでん粉原料用いもの生産者、製造業者、販売業者、輸入業者が対象です。第三項は第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
と、検査の性格を限っています。
あらためて振り返ると、サゼラックという一杯の材料表は、日本の制度の地図の上ではきれいに二つに割れます。ライウイスキーとアブサンとビターズは酒税法の側で、課税という一本の軸で扱われます。甘味の側だけが、価格を調整するための別の法律の側にいて、値段が基準を下回れば機構との売渡しと売戻しを一往復し、その差額が南西諸島や北海道の畑へ向かいます。グラスの中では最も目立たない材料が、制度の上では最も長い道のりを通っているのです。
度数の目安と、飲まないボトルの行き先

制度の話が続いたので、最後にグラスの側へ戻ります。サゼラックは割り材を使わず、氷も入れません。ステアのあいだに溶けた水の分だけ薄まって、あとは薄まりません。飲みはじめから飲み終わりまで強さがほとんど変わらない、という点で、ハイボールのような飲み方とは飲み進め方が変わります。
度数は材料の合計から見当をつける
使うライウイスキーは四〇度から五〇度あたり、アブサンはさらに高いものが多く、ビターズも度数の高いものが一般的です。ただしアブサンはグラスに香りを移して残りを捨てるので、実際に口に入る量はごくわずかです。ステア中に加わる水を勘定に入れると、仕上がりはおおむね三〇度台に収まります。銘柄と氷の当て方で幅が出るので、単一の数字で言い切れる飲み物ではありません。度数の考え方そのものはカクテルの度数一覧にまとめてあります。
ゆっくり飲むための組み立て
強い一杯なので、合間に水を挟むのが現実的です。角砂糖の甘みは口当たりを丸くしますが、アルコールの量そのものは減りません。空腹のまま一気に飲むのは避けてください。合わせるなら塩気のある乾きものや、ナッツ、チーズのように少しずつつまめるものが向きます。強い酒の飲み方はアルコール度数が高いお酒の側でも整理しています。
使い切らないボトルは査定に出すという選択
ライウイスキーもアブサンも、一杯あたりに使う量は多くありません。買ったものの減らない、という状態になりやすい酒でもあります。未開栓のまま置いているボトルがあれば、状態のよいうちに査定へ出すのもひとつの手です。リンクサス酒販では終売のジャパニーズや長期熟成のバーボン、シングルモルトの買取に対応しています。箱や付属品がそろっている個体は評価が安定しやすく、液面の下がりやキャップの傷み、ラベルの汚れが価格に影響します。取り扱いのある銘柄はウイスキーの一覧から確認できます。
よくある質問

サゼラックはどんなカクテルですか。
ライウイスキーに角砂糖とペイショーズ・ビターズを合わせてステアし、アブサンの香りを移した冷たいグラスに注いで、レモンピールの皮油を振りかける一杯です。氷を入れずに供します。アメリカのニューオーリンズで飲まれてきた古典的なカクテルとして紹介されます。
角砂糖は法律で特別扱いされているのですか。
砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律施行令第三条第一項が、指定糖となる砂糖の種類として、粗糖、高糖度原料糖、精製糖、氷砂糖、角砂糖、特殊糖の六つを挙げています。角砂糖はそのうちのひとつとして名指しされています。ただし法律の本則にはこの語は出てきません。具体名を書いているのは施行令と施行規則です。
砂糖を輸入すると必ず機構に売り渡すのですか。
いいえ。法第五条第一項が売渡しを求めるのは、輸入申告の時に適用される平均輸入価格が砂糖調整基準価格に満たない場合です。さらに同項ただし書と施行令第五条が例外を置いていて、関税定率法第十四条などによって関税が免除されるものは外れます。売渡しは物を手放すことではなく、機構が買い入れて同じ相手に売り戻すまでを含む往復の手続です。
角砂糖の代わりにガムシロップを使うと何か変わりますか。
味の上では溶け残りが出ない分だけ作りやすくなります。制度の上では、砂糖を水に溶かしただけのシロップなら砂糖のままですが、でん粉から作られた異性化糖が使われている場合は、同じ法律の第二章第二節が扱う品目に変わります。異性化糖には輸入だけでなく国内製造にも売渡しの手続があり、第十七条は機構に売り渡して買い戻すまで工場から移出できないと定めています。ただしこの条の名宛人は異性化糖製造者で、シロップを使う飲食店や家庭ではありません。
ライウイスキーの原料は価格調整制度の対象になりますか。
なりません。同法第三章が守っているのは、ばれいしょとかんしょを原料とする国内産いもでん粉です。輸入されるとうもろこしが対象になるのは、施行令第一条の二により、コーンスターチの製造に使用するものとして割当てを受けて輸入される場合に限られます。蒸留用に輸入されるとうもろこしはこの条の外側で、ライ麦は同法にも酒税法の本則にも現れません。
調整金として集めたお金はどこへ行くのですか。
同法第二章第四節と第三章第二節の交付金に充てられます。令和七砂糖年度の国内産糖交付金の単価は、てん菜を原料とするものが一トンあたり一万八千五百五十九円、さとうきびを原料とするものは製造される地域ごとに定められ、北大東島の十一万八千二百二十六円から沖縄本島内で製造し本島内で販売するものの二万八千七百八十一円まで幅があります。機構の勘定は砂糖とでん粉で分かれているため、砂糖から集めた分がでん粉の交付金に回ることはありません。
度数はどのくらいになりますか。
割り材を使わず氷も入れないため、仕上がりはおおむね三〇度台になります。使うライウイスキーの度数、ステアの時間、アブサンをどれだけ残すかで幅が出るので、単一の数字で示せるものではありません。氷で薄まらないぶん最後まで強さがほとんど変わりませんので、ゆっくり時間をかけて、合間に水を挟みながら味わってください。






































