麦焼酎とは|原料の大麦を「主食」として扱う法律

麦焼酎の原料は大麦です。ところが酒税法の本則を最後まで読んでも、「大麦」という二文字は一度も出てきません。かわりに大麦の名前を書いているのは、酒の法律ではなく、米と麦を主食として扱う食糧法のほうです。麦焼酎とは何かという話を、味わいの説明からではなく、原料の麦が日本に入ってくる入口から追いかけます。

麦焼酎とは|条文が「穀類」としか書かない蒸留酒

麦焼酎とは|条文が「穀類」としか書かない蒸留酒
焼酎の瓶が並ぶ棚の一例

麦焼酎は、大麦を原料に単式蒸留機で蒸留した本格焼酎です。酒税法の品目でいえば単式蒸留焼酎にあたります。ただし条文は、原料の名前を次のようにしか書きません。

穀類又は芋類、これらのこうじ及び水を原料として発酵させたアルコール含有物を連続式蒸留機以外の蒸留機(以下この号及び第四十三条第七項において「単式蒸留機」という。)により蒸留したもの

酒税法 第三条第十号イ

麦焼酎はこのイに当たります。壱岐のように米こうじを使う造りも、大分のように麦こうじを使う造りも、どちらも穀類又は芋類、これらのこうじ及び水という同じ一行の内側です。麦こうじだけで仕込む造りであれば、こうじと水だけを挙げる同号ロにも収まります。芋焼酎との違いも、条文の上では「芋類」か「穀類」かという語の選択にすぎません。原料ごとの分かれ方そのものは芋焼酎とは|原料・製法と、さつまいもが動ける範囲や黒糖焼酎とは|奄美だけで造られる理由とラム酒との違い・代表銘柄の選び方が扱っているので、ここでは通過点として置きます。

酒税法の本則で「麦」が立つのは三回だけ

酒税法の本則は、附則を除いて三万二千九百四十六字あります。この範囲を機械で数えると、「麦」という字は十一回。ただしそのうち八回は「麦芽」という語の一部で、麦が一語として立っているのは三回しかありません。しかもその三回は、麦焼酎とは無関係です。

麦芽、ホップ、水及び麦その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の百分の五十以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の百分の五を超えないものに限る。)

酒税法 第三条第十二号ロ(ビール)

麦芽又は麦を原料の一部とした酒類(麦芽又は麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留したものを原料の一部としたものを除く。)

酒税法 第三条第十八号イ(発泡酒)

一回目がビールの副原料で、括弧が麦芽比率と副原料の上限を重ねています。二回目と三回目は発泡酒の定義です。その麦芽は、焼酎の側から締め出されています。第九号イが発芽させた穀類又は果実を原料の全部又は一部としたものを連続式蒸留焼酎から除き、第十号の柱書が前号イからニまでに掲げるものに該当するものを除くとしてその除外を単式蒸留焼酎にも及ぼしているためです。この二つの品目の話は発泡酒とビールの違い|麦芽比率と酒税で分かる新ジャンルとの違いと選び方とビールのアルコール度数一覧|0%〜14%と酒税が見る数字にまとめてあります。「大麦」「はだか麦」「小麦」は、酒税法の本則にも施行令にも施行規則にも一度も出てきません。麦焼酎の麦は、酒の法律から名前を呼ばれていない原料です。

では、どの法律が大麦と書いているのか

大麦とはだか麦を名指しする法律は別にあります。主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律、通称の食糧法です。この法律は米と麦を主食として扱い、その需給と価格の安定を目的にしています。米の側からこの法律を読んだ話は日本酒とは|清酒の定義と、原料の米を追う三つの法律にありますが、麦の側は入口の作りがまるで違います。この記事はそちらを追います。

関連商品ラインナップ
焼酎の取り扱い商品の一例

麦焼酎を含む焼酎の取り扱いは焼酎のコレクションにまとめています。定番から蔵元限定まで、下のラインナップから在庫を確かめられます。

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麦焼酎の代表銘柄30選を価格と特徴で比較

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本格焼酎の瓶を並べた一例

全国流通の定番から壱岐の蔵の一本、香りで知られるプレミアム銘柄まで、三十本を価格と特徴で並べました。並べ替えと絞り込みができます。

麦焼酎 代表銘柄30選 比較|壱岐・大分の定番からプレミアムまで価格と特徴
麦焼酎とはどんなお酒かを銘柄で確かめられるよう、いいちこ・二階堂などの全国流通の定番に、壱岐焼酎や大分の本格麦焼酎、兼八・百年の孤独といった香り高いプレミアム銘柄まで30本を、製法・度数・実勢価格で横断比較した。1,400円台から買える手頃な一本から、二次流通で数千円を超える本格麦焼酎まで、米麹か麦麹か・常圧か減圧かといった造りの違いと価格が一目で分かる(2026年6月時点)。表は度数や価格、ブランドで並べ替えられるので、まずは予算で絞り、次に造りの違いで好みのタイプを探す使い方がおすすめだ。
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大麦とはだか麦は、法律が「主食」と呼ぶ三つの麦のうち二つ

大麦とはだか麦は、法律が「主食」と呼ぶ三つの麦のうち二つ
大麦の粒を写した一例

食糧法は、第一条の目的規定で対象をこう名指しします。

この法律は、主要な食糧である米穀及び麦が主食としての役割を果たし、かつ、重要な農産物としての地位を占めていることにかんがみ

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 第一条

ここでいう「麦」の中身は、次の条で決まります。

この法律において「主要食糧」とは、米穀、麦(小麦、大麦及びはだか麦をいう。以下同じ。)その他政令で定める食糧(これらを加工し、又は調製したものであって政令で定めるものを含む。)をいう。

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 第三条第一項

括弧の中に三つの名前が並びます。小麦、大麦、はだか麦。麦焼酎の原料になるのは、このうち後ろの二つです。壱岐の生産基準が大麦を指定していることは後の章で見ますが、はだか麦を用いても酒税法の穀類であることは変わらず、食糧法でも同じ括弧の内側です。

用途による線引きは、この括弧に無い

注意したいのは、この括弧が用途を一切問わないことです。パンにする小麦も、飼料に回る大麦も、蒸して仕込む焼酎用の大麦も、条文の上では区別されません。食用に限る、主食用に限るといった限定語はどこにも付いていないからです。

食糧法の本則は一万二千八百一字あり、六十四か条から成ります。この範囲で「大麦」は一回、「はだか麦」も一回、「小麦」も一回しか現れません。三つとも、いま引いた第三条第一項の括弧の中だけです。法律の本体は、それ以降は三つをまとめて「麦」と呼び続けます。

焼酎になると、この法律の対象からは外れる

加工品の扱いは政令に委ねられています。食糧法施行令第一条第二項が、主要食糧に含める加工品として六つを並べています。米穀粉・小麦粉・大麦粉・はだか麦粉、ひき割りしたものとミール、小麦でん粉、餅やだんごの類、あらかじめ加熱調理した粒状の米穀、そしてその他米穀、小麦、大麦、はだか麦、メスリン又はライ小麦を加工し、又は調製したものであって農林水産大臣が指定するものです。

粉、ひき割り、でん粉、餅。並んでいるのは食べる形のものばかりで、蒸留酒はどこにも出てきません。六番目が農林水産大臣の指定に開かれた受け皿になっているので、「絶対に入らない」とまでは言えませんが、少なくとも一号から五号までに麦焼酎の居場所はありません。

つまり大麦は、蔵に入るまでは主要食糧で、焼酎になった瞬間にこの法律の世界から出ていきます。米が清酒になるときと同じ形の切れ目です。だからこの記事が追えるのは、麦そのものが焼酎に変わるまでの道筋です。ただし物に引かれた線が切れても、蔵という「者」に引かれた線は残ります。それは後の章で見ます。

米の章は三十九か条、麦の章は六か条

米の章は三十九か条、麦の章は六か条
実った麦畑を写した一例

同じ法律が二つの主食を扱っているのに、割かれている分量はまるで違います。本則の章立てを条数で並べると次のようになります。

章 条の範囲 条数
第一章 総則 第一条〜第三条 3
第二章 米穀の需給及び価格の安定を図るための措置 第四条〜第四十条 39
第三章 麦その他主要食糧の需給及び価格の安定を図るための措置 第四十一条〜第四十六条 6
第四章 雑則 第四十七条〜第五十四条 8
第五章 罰則 第五十五条〜第六十二条 8

第二章が三十九か条あるのは、第四条から第四十条までの三十七か条に、枝番号の第七条の二と第七条の三が加わるためです。単純な番号の引き算では三十七になりますが、実際に置かれている条は三十九あります。合計は六十四か条。語の数でも同じ傾きが出ていて、本則で「米穀」は百五回、「麦」は五十三回です。後者には小麦・大麦・はだか麦として現れる三回が含まれます。

政府の責務規定から、麦だけ「買入れ」が落ちている

差は分量だけではありません。第二条は政府が何をするかを主食ごとに書き分けていて、その動詞が違います。

政府は、米穀の需給及び価格の安定を図るため、米穀の需給の適確な見通しを策定し、これに基づき、整合性をもって、米穀の需給の均衡を図るための生産調整の円滑な推進、米穀の供給が不足する事態に備えた備蓄の機動的な運営及び消費者が必要とする米穀の適正かつ円滑な流通の確保を図るとともに、米穀の適切な買入れ、輸入及び売渡しを行うものとする。

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 第二条第一項

政府は、麦の需給及び価格の安定を図るため、麦の需給の適確な見通しを策定し、これに基づき、麦の供給が不足する事態に備えた備蓄の円滑な運営を図るとともに、麦の適切な輸入及び売渡しを行うものとする。

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 第二条第三項

米は買入れ、輸入及び売渡しの三つですが、麦は輸入及び売渡しの二つで、買入れが落ちています。生産調整という語も、流通の確保という語も、麦の項には現れません。備蓄の運営も、米は機動的、麦は円滑と書き分けられています。

この差は条文の実体にも現れています。米には、政府が国内産の米を買い入れて売り渡す第二十九条があります。麦には、それに対応する条がありません。第四十二条と第四十三条の買入れは、いずれも輸入に結び付いた買入れです。これら以外の買入れは第四十六条第一項が残していますが、そちらは主要食糧の適正かつ円滑な供給を図るため特に必要があると認めるときという条件付きで、しかも麦専用ではありません。麦の買入れは、例外の位置にだけ置かれています。

麦の章が置いている六つ

第三章の六か条は、次のように並んでいます。

条 見出し 中身
第四十一条 麦の需給見通し 毎年、種類別の需要数量、生産数量と輸入数量、備蓄の目標数量などを定める
第四十二条 麦等の輸入を目的とする買入れ及び当該麦の売渡し 政府が輸入のために買い入れ、随意契約で売り渡す
第四十三条 輸入に係る麦等の特別な方式による買入れ及び売渡し 輸入者と買受人の連名による申込みに応じて政府が買い、そのまま売り渡す
第四十四条 準用 輸出目的の売渡し(第三十二条)と、売渡しの附帯条件・違約金(第三十三条)を準用(読替えは第三十三条第一項のみ)
第四十五条 麦等の輸入 民間で輸入する者は、告示の額に数量を掛けた額を政府に納付する
第四十六条 米穀以外の主要食糧の買入れ及び売渡し 米穀以外の主要食糧について、第三十条・第三十一条・第四十二条・第四十三条によるほか買入れと売渡しができる

六つのうち三つが輸入をめぐる条で、一つが準用、一つが年一回の見通し、残る一つが米穀以外の主要食糧全般の買入れと売渡しです。章の名前が「麦その他主要食糧」となっているのは、最後の第四十六条が麦だけでなく米穀以外の主要食糧全般を受けているためで、麦専用の章というわけではありません。

罰則八か条のうち、麦に届くのは一つ

第五章の八か条を対象で分けると、第五十五条は米穀の生産者への売渡命令に背いた場合で三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金、第五十六条は第七条の三第二項と第三十八条の命令、第五十七条は米穀価格形成センターの役職員の秘密保持義務、第五十九条は第四十七条第一項の届出です。第六十一条は第四十条第一項にもとづく政令に五年以下の拘禁刑もしくは五百万円以下の罰金を置けるという規定で、その第四十条も米穀の条文です。第六十二条の二十万円以下の過料も、受けているのは米穀の輸出入数量や届出事業者の届出と帳簿です。第六十条は両罰規定なので、それ自体の対象を持ちません。

残るのが第五十八条です。

第五十二条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、若しくは質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした者は、六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 第五十八条

この第五十二条第一項の名宛人が、麦にも届きます。同項は農林水産大臣に、この法律の施行に必要な限度において、機構若しくはセンターその他業として主要食糧の出荷、販売、輸入、加工若しくは製造を行う者への報告徴収と、その事務所、営業所、販売所、事業所、倉庫若しくは工場への立入検査を認めています。物ではなく主要食糧を扱う者に線が引かれているので、蒸した大麦を仕込む蔵は、大麦を加工している者として名宛人になりうる位置にいます。第六十条第二号が第五十八条を両罰の対象に含めているため、違反があれば行為者のほか、法人にも罰金刑が科されます。もっともこれは麦を狙った条文ではなく、主要食糧を広く受けた雑則が及んでいるだけです。麦に固有の罰則は、この法律に一つもありません。

麦の備蓄の定義にだけ「輸入の途絶」と書いてある

麦の備蓄の定義にだけ「輸入の途絶」と書いてある
収穫期の麦畑を写した一例

第三条は、第一項で主要食糧を定義したあと、第二項と第三項で備蓄という言葉を米と麦に分けて定義します。二つを並べると、一句だけ違います。

この法律において「米穀の備蓄」とは、米穀の供給が不足する事態に備え、必要な数量の米穀を在庫として保有することをいう。

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 第三条第二項

この法律において「麦の備蓄」とは、麦の輸入の途絶等によりその供給が不足する事態に備え、必要な数量の麦を在庫として保有することをいう。

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 第三条第三項

米の定義は原因を書きません。ただ供給が不足する事態、とだけあります。麦の定義には輸入の途絶等によりという原因が書き込まれています。何のために積むのかという理由の部分に、輸入という言葉が入っているわけです。

定義規定に原因を書くのは、条文の書き方としては珍しい部類です。米の備蓄は不作でも需要増でも動きますが、麦の備蓄は輸入が止まる事態を第一に想定して置かれている。法律の書き手が、麦は外から来るものだという前提を、定義文の中で認めていることになります。

政府が買って売り渡す麦と、連名で申し込む麦

政府が買って売り渡す麦と、連名で申し込む麦
酒販店の店頭を写した一例

麦の章の中心が第四十二条です。

政府は、麦等(麦その他政令で定めるもの及びこれらを加工し、又は調製したものであって政令で定めるものをいう。第五項及び次条から第四十五条までにおいて同じ。)の輸入を目的とする買入れを行うことができる。

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 第四十二条第一項

ここでいう「麦等」の外側は食糧法施行令第十二条が画します。その他政令で定めるものはメスリンとライ小麦の二つ。加工品として並ぶのは、小麦粉・大麦粉・はだか麦粉、ひき割りしたものとミール、小麦でん粉、そして農林水産大臣が指定するものの四つです。麦焼酎の原料は粒のままの大麦ですから、加工品の枝ではなく、括弧の先頭にある「麦」そのものとして扱われます。

売り渡し方は、原則が随意契約

買い入れた麦をどう売るかも条文が決めています。

政府は、前項の輸入を目的とする買入れに係る麦を、随意契約により売り渡すものとする。ただし、農林水産大臣が随意契約によることを不適当と認める場合には、入札の方法による一般競争契約又は指名競争契約のうち農林水産大臣が選択する競争契約により売り渡すものとする。

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 第四十二条第二項

原則が随意契約で、大臣が不適当と認めたときだけ競争契約に移ります。国が売り手として振る舞う仕組みが、平時の原則として置かれているわけです。値段には天井があります。

第一項の輸入を目的とする買入れに係る麦を前項の規定により売り渡す場合の価格は、国際約束に従って農林水産大臣が定めて告示する額を、当該麦の買入れの価格に加えて得た額を超えてはならない。

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 第四十二条第三項

買った値段に、告示された額を上乗せしたところが上限です。この上乗せ分が、いわゆるマークアップにあたります。額そのものは条文にはなく、国際約束に従って農林水産大臣が告示で定めます。買入れと売渡しは、第四項により需給見通しに即して行うこととされ、第五項は第三十条第二項を準用して、買入れを他に委託することを認めています。

もう一つの道は、輸入者と買受人の連名

第四十三条は、政府が間に入る形はそのままに、相手をあらかじめ決めておく方式です。

政府は、麦等の輸入を行おうとする者及び当該輸入に係る麦等の買受けを行おうとする者の連名による申込みに応じて、当該輸入に係る麦等を買い入れることができる。

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 第四十三条第一項

買いたい者と輸入する者が連名で申し込み、政府はそれに応じて買い入れ、第二項で申込みをした者にそのまま売り渡します。価格の上限は第三項が第四十二条第三項と同じ形で置きます。買う側が先に決まっているので、実質的には民間どうしの取引を政府が通す形になります。

第四十四条は、第三十二条(輸出を目的とする売渡し)を麦等の売渡しについて、第三十三条(売渡しの附帯条件と違約金)を麦の売渡しについて、それぞれ準用します。対象語が「麦等」と「麦」で書き分けられている点に注意してください。読替えが置かれているのは第三十三条第一項だけで、第二十九条から前条までが前条、第四十二条及び第四十三条になります。ここでいう前条は第三十二条を指します。

省令が名指しした免除の用途は、ホテルひとつだけ

省令が名指しした免除の用途は、ホテルひとつだけ
倉庫に積まれた在庫の一例

政府を通さず、自分で麦を輸入する道もあります。ただし手ぶらでは通れません。

麦等の輸入を行おうとする者は、国際約束に従って農林水産大臣が定めて告示する額に、当該輸入に係る麦等の数量を乗じて得た額を、政府に納付しなければならない。

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 第四十五条第一項

告示された単価に数量を掛けた額を、政府に納めます。同じ文言で書かれた告示額が、政府経由なら第四十二条第三項の超えてはならないという売渡価格の天井として、自前で入れるなら納めるべき額そのものとして現れます。上限と義務という違いはありますが、上乗せは原則としてどちらの道にも掛かります。納付を要しない場合は次に見ます。

ただし書の三つ

第四十五条第一項にはただし書があり、納付を要しない場合が三つ挙がっています。第一号は第四十二条第五項において準用する第三十条第二項により政府の委託を受けて輸入する場合、第二号は第四十三条の連名による申込みに応じて行う政府の買入れと売渡しに係る麦等を輸入する場合。この二つは、すでに政府の仕組みの中にいる輸入です。問題は第三号で、こう書かれています。

国内の需給及び価格の安定に悪影響を及ぼすおそれのないものとして政令で定める麦等を輸入する場合

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 第四十五条第一項第三号

受けているのは食糧法施行令第十三条で、四つの号が並びます。第一号と第二号は関税定率法や日米地位協定関係の法律で関税が免除・軽減される麦等、第四号は関税暫定措置法第九条の二第一項により譲許の便益の適用を受ける麦。残る第三号が、用途で切る号です。

輸出貨物の製造に使用される原材料その他農林水産省令で定める用途に供するため特に輸入の必要が認められる麦等であって、関税暫定措置法施行令第二条第一項の証明書の発給を受けたもの

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律施行令 第十三条第三号

前段が輸出貨物の原材料、後段がその他農林水産省令で定める用途です。しかも用途に当たるだけでは足りず、特に輸入の必要が認められることと、関税暫定措置法施行令第二条第一項の証明書の発給を受けていることの二つが重ねて要求されます。

省令が書いた用途は、一行しかない

では農林水産省令は、どんな用途を名指ししたのか。食糧法施行規則第二十五条の全文が答えです。

令第十三条第三号の農林水産省令で定める用途は、国際観光ホテル整備法(昭和二十四年法律第二百七十九号)第三条の登録を受けたホテル業を営む者によるその登録に係るホテルにおける使用とする。

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律施行規則 第二十五条

登録ホテルでの使用。それだけです。味噌でも麦茶でも飼料でもなく、まして焼酎でもありません。国内向けに麦焼酎を仕込むために大麦を自分で輸入するなら、この一行には掛からず、納付金の対象になります。

米の側には同じ形の条文が別にあります。食糧法施行規則第二十条は、令第七条第三号の用途を繊維製品染色糊又は特定朝食シリアルの製造に使用される原材料と定めています。染色用の糊と、特定の朝食シリアル。こちらも用途は二つだけで、酒は入っていません。

食糧法施行規則の本則は七千六十六字です。この範囲で「米穀」は四十一回出てくるのに対し、「麦」はわずか三回。第二十五条の見出しに一度と、第二十六条の読替規定に二度だけで、ホテルを名指しした第二十五条の本文そのものには麦の字がありません。その第二十六条は、米穀について定めた第二十一条の納付手続を麦にも使い回すもので、米で使う別記様式第二号・第三号・第四号を、麦では第七号・第八号・第九号に読み替えます。読替えは様式番号だけではなく、特別特恵受益国を原産地とする麦等を輸入する者には当該麦等の原産地を証明した書類の添付が加わります。省令の段階では、麦はほぼ米の手続を借りて動いています。

壱岐と大分|生産基準だけが「大麦」と書く

壱岐と大分|生産基準だけが「大麦」と書く
蔵の内部を写した一例

酒税法が「穀類」としか書かないと最初に述べました。ところが蒸留酒の地理的表示の生産基準には、大麦という語を正面から使っている文書があります。地理的表示「壱岐」の生産基準です。地理的表示は国税庁長官が指定するもので、「壱岐」は平成七年六月三十日に、産地の範囲を長崎県壱岐市、酒類区分を蒸留酒として指定されました。

イ 穀類に大麦のみを用いたものであること。
ロ こうじに米から製造された米こうじのみを用いたものであること。
ハ もろみに用いるこうじと穀類の重量比が概ね1:2となっていること。
ニ 水に長崎県壱岐市内で採水した水のみを用いたものであること。

地理的表示「壱岐」生産基準 2(1)原料

穀類は大麦のみ、こうじは米こうじのみ、その重量比はおよそ一対二。原料の四条件がここまで具体的に書かれます。酒税法の第三条第十号イが穀類又は芋類、これらのこうじ及び水としか言わなかったのに対して、産地の側の文書は原料を粒の種類まで指定しているわけです。

壱岐と、それ以外の麦焼酎

同じ生産基準は、壱岐の造りが他と違う点も明記しています。

他地方で製造される麦焼酎が、大麦こうじと大麦から製造されるのに対し、「壱岐」は伝統的に米こうじと大麦から製造され、その原料は1:2の比率で用いられており、この伝統的な製法が「壱岐」の特性を確立させている1つの要因となっている。

地理的表示「壱岐」生産基準 1(2)ロ 人的要因

大分をはじめとする多くの産地は麦こうじと大麦で仕込み、壱岐は米こうじと大麦で仕込む。同じ文書は歴史の記録の上で、麦を原料とした焼酎は、長崎県壱岐市のものが最も古く、日本における「麦焼酎発祥の地」とされている。とも書いています。味の説明も国税庁の文書の中にあり、麦由来のさわやかな香りと米こうじの甘く厚みのある味わいと、原料の水に由来するキレの良い飲み口が挙げられています。

製法の側の条件も四つあります。原料の発酵と蒸留、貯蔵する場合の貯蔵、消費者に引き渡す容器への詰め口が、いずれも長崎県壱岐市内で行われること。残る一つは場所ではなく造り方で、米こうじ及び水を原料として発酵させた一次もろみに、蒸した穀類及び水を加えて更に発酵させた二次もろみを、単式蒸留機をもって蒸留したものであること。を求めます。満たしているかどうかは壱岐焼酎管理委員会という管理機関が確認します。

蒸留酒の地理的表示は五つ

国税庁が公表している酒類の地理的表示一覧を蒸留酒に絞ると、壱岐、球磨、琉球、薩摩、東京島酒の五つが並びます。前の三つは同じ平成七年六月三十日の指定、薩摩は平成十七年十二月二十二日、東京島酒は令和六年三月十三日です。五つのうち麦焼酎を含むのは壱岐と東京島酒の二つですが、東京島酒の生産基準に「大麦」の二文字は一度も出てきません。球磨は米焼酎の選び方とおすすめ銘柄|球磨焼酎の特徴と飲み方、琉球は泡盛とは?焼酎との違い・度数・人気銘柄と飲み方で扱っています。

このうち壱岐・球磨・琉球・薩摩の四つは、平成十七年四月一日に発効した日本国とメキシコ合衆国との経済連携協定により、メキシコで保護されています。日本側は同じ協定でテキーラ、メスカル、ソトール、バカノラ、チャランダの五つを保護しています。この四つは、平成二十四年三月一日発効の日本国とペルー共和国との協定、平成三十一年二月一日発効の日本国と欧州連合との協定、令和三年一月一日発効の日本国と英国との協定でも同じように保護されています。麦焼酎の名前が国境を越えて守られる仕組みは、原料の麦が国境を越えて入ってくる仕組みとは、まったく別の制度です。

麦焼酎の飲み方と選び方

麦焼酎の飲み方と選び方
焼酎の種類を並べた一例

ここからは条文を離れます。麦焼酎は原料の香りが穏やかなぶん、割り方で表情が大きく変わります。

お湯割りは、お湯を先に

お湯割りは焼酎六に対してお湯四が定番の比率です。お湯を先にグラスへ注ぎ、そのあとで焼酎を静かに加えると対流でひとりでに混ざります。手順と比率ごとの印象の差は焼酎のお湯割り|お湯が先の作り方・6:4の黄金比と合う銘柄30選にまとめました。水割りは五対五から六対四のあたりが扱いやすく、ソーダ割りは炭酸が香りを持ち上げるので、麦こうじ仕込みの香ばしさを立てたいときに選びます。

選び方の三つの手がかり

  • こうじ:米こうじか麦こうじか。壱岐の生産基準が書くとおり米こうじは甘く厚みのある味わいに寄り、麦こうじ仕込みでは麦の香ばしさが前に出るとされます。
  • 蒸留:減圧蒸留は軽くすっきりと、常圧蒸留は香りが濃く出ます。ラベルに書かれていない銘柄もあるので、蔵の公式情報で確かめてください。
  • 度数:二十度と二十五度が並ぶ理由には制度の事情があります。詳しくは焼酎のアルコール度数は何度か 20度と25度が並ぶ理由を法令と公式価格で読むをご覧ください。

甲類と乙類の分かれ方や、その表示の決まりは焼酎は甲類と乙類どっちが体にいい?条文で読む表示のきまりで扱っています。銘柄ごとの違いを具体的に見たい方は吉四六と二階堂の違いは?壺と瓶の味の違い・価格・飲み方を鑑定士が解説もあわせてどうぞ。

飲まない焼酎の査定・買取はリンクサスへ

飲まない焼酎の査定・買取はリンクサスへ
査定の様子を写した一例

いただき物の麦焼酎が棚に残ったままになっている、蔵元限定の一本を開ける機会がない。そうしたご相談を日々お受けしています。焼酎の買取では、銘柄と度数、容量、化粧箱の有無を伺ったうえで査定額をお伝えします。リンクサス酒販 鑑定チームがひとつずつ確認しますので、産地や仕込みの違いも査定に反映されます。

お売りいただいた一本は、リンクサス酒販の品揃えとして次の方へ渡ります。当日十四時までのご注文で当日発送しています。日本酒の買取やウイスキーの買取もあわせて承ります。

よくある質問

よくある質問
よくある質問のイメージ
麦焼酎の原料の大麦は、法律ではどう扱われますか。

蔵に入るまでは主要食糧です。食糧法第三条第一項が主要食糧を米穀、麦(小麦、大麦及びはだか麦をいう。以下同じ。)その他政令で定める食糧と定義していて、この括弧に用途の限定はありません。焼酎用でも飼料用でも同じ「麦」です。ただし焼酎になると事情が変わります。加工品として主要食糧に含まれるものは食糧法施行令第一条第二項が並べており、粉、ひき割りとミール、小麦でん粉、餅の類、加熱調理した粒状の米穀という第一号から第五号までに蒸留酒はありません。第六号が農林水産大臣の指定に開かれた受け皿になっているので絶対に入らないとは言えませんが、少なくとも一号から五号までに麦焼酎の居場所はありません。

酒税法に「大麦」と書かれていないのはなぜですか。

条文が原料を品目のくくりで書いているためです。酒税法第三条第十号イは穀類又は芋類、これらのこうじ及び水としか書きません。実際に本則三万二千九百四十六字を数えると「大麦」「はだか麦」「小麦」はいずれも零回で、「麦」が一語として立つのは三回だけ、しかもビールの副原料と発泡酒の定義です。粒の種類を書き分けているのは、地理的表示「壱岐」の生産基準のように、産地ごとの文書のほうになります。

麦を輸入するのに、なぜ政府にお金を納めるのですか。

食糧法第四十五条第一項が国際約束に従って農林水産大臣が定めて告示する額に、当該輸入に係る麦等の数量を乗じて得た額を、政府に納付しなければならないと定めているためです。政府を通して買う場合は、同法第四十二条第三項が売渡価格の上限を告示する額を、当該麦の買入れの価格に加えて得た額と定めます。こちらは上限であって支払義務そのものではありませんが、同じ文言の告示額が上乗せとして働く形は変わりません。

納付金が要らない用途はありますか。

食糧法第四十五条第一項のただし書に三つの場合が挙がっています。第一号と第二号は政府の委託や連名申込みなど、すでに政府の仕組みの中にいる輸入です。用途で切るのは第三号を受けた食糧法施行令第十三条第三号で、条文は輸出貨物の製造に使用される原材料その他農林水産省令で定める用途に供するため特に輸入の必要が認められる麦等であって、関税暫定措置法施行令第二条第一項の証明書の発給を受けたものです。この省令にあたる食糧法施行規則第二十五条が挙げているのは、国際観光ホテル整備法第三条の登録を受けたホテルでの使用ひとつだけです。国内向けの焼酎の原料は、この一行には掛かりません。前段の輸出貨物の原材料であれば、特に輸入の必要が認められることと証明書の発給を受けることを満たす限り納付金は要りませんが、この証明書は税表の号ごとに対象が定まるため、個別の確認が要ります。

壱岐焼酎と大分の麦焼酎は何が違いますか。

こうじが違います。国税庁が公表する地理的表示「壱岐」生産基準は他地方で製造される麦焼酎が、大麦こうじと大麦から製造されるのに対し、「壱岐」は伝統的に米こうじと大麦から製造され、その原料は1:2の比率で用いられておりと書いています。「壱岐」を名乗るには、穀類は大麦のみ、こうじは米こうじのみ、重量比はおよそ一対二、水は壱岐市内で採水したもののみという原料の四条件に加え、一次もろみに蒸した穀類と水を加えた二次もろみを単式蒸留機で蒸留すること、発酵と蒸留、詰め口、貯蔵するならその貯蔵も壱岐市内で行うことが要ります。確認は壱岐焼酎管理委員会が行います。

麦焼酎の蔵に農林水産省の立入検査が来ることはありますか。

条文の上では名宛人になりうる位置にいます。食糧法第五十二条第一項が報告徴収と立入検査の相手を業として主要食糧の出荷、販売、輸入、加工若しくは製造を行う者としていて、線が物ではなく人に引かれているためです。蒸した大麦を仕込む蔵は、主要食糧を加工している者にあたりえます。これを拒んだ場合の罰則が同法第五十八条の六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金で、第六十条第二号により法人にも罰金刑が科されます。同法の罰則八か条のうち、麦に届きうるのはこの第五十八条だけで、第六十条は両罰としてそれを受けます。ほかはすべて米穀に関する条文が対象です。

麦焼酎と芋焼酎・米焼酎の違いは何ですか。

主原料の違いです。酒税法の条文では、麦も米も穀類、さつまいもは芋類という語で受けられていて、いずれも第三条第十号の単式蒸留焼酎に入ります。味わいの傾向としては、麦焼酎は香ばしさとすっきりした後口、芋焼酎は原料由来の甘い香り、米焼酎は穏やかな甘みが特徴とされます。原料ごとの制度の違いは芋焼酎とは|原料・製法と、さつまいもが動ける範囲や日本酒とは|清酒の定義と、原料の米を追う三つの法律で扱っています。

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