五苓散は二日酔いに効く? 日本薬局方が定める5つの処方から読む

五苓散は二日酔いに効く? 日本薬局方が定める5つの処方から読む

二日酔いの棚で「五苓散」という名前を見かけます。箱の裏の効能・効果に「二日酔」の語が入っているからです。ところが2つの製品の成分・分量の欄を読み比べると、書いてある数字がそろっていません。同じ処方名なのに、1日に飲む生薬の量が2倍前後ちがうことがあります。

効能・効果の文面のほうは、国が処方ごとに定めた文にそろえて書かれます。実際に2製品を国の文面と1文字ずつ突き合わせてみると、片方は1文字だけ、もう片方は記号1つだけの違いでした。言葉のほうは記号や1文字の水準でしか動かないのに、量のほうは2倍前後動くという非対称です。この記事は、その量がどの文書のどの規定で決まっているのかを追いかけます。

二日酔いに使われる漢方を6処方の枠で見比べる話は二日酔いに使われる6処方の承認基準で、ツボと法律・エビデンスの話は二日酔いのツボと法律・エビデンスで扱っているので、ここでは繰り返しません。

五苓散という名前が制度の上で指しているもの

五苓散の成分・分量を読む
五苓散の箱に印刷される成分・分量欄を読み解く

「五苓散」という語は、薬の名前であると同時に、いくつもの公的な文書に登場する固有名詞でもあります。量の話に入る前に、どの文書が何を決めているかを分けておきます。

規格を決める文書と、書ける言葉を決める文書

まず日本薬局方です。根拠は薬機法第41条第1項で、厚生労働大臣は、医薬品の性状及び品質の適正を図るため、薬事審議会の意見を聴いて、日本薬局方を定め、これを公示する。と定めています。ここでいう日本薬局方は医薬品の規格基準書で、現行版は第十九改正、令和8年4月10日厚生労働省告示第193号です。その医薬品各条(生薬等)に「五苓散エキス」という項目があり、何をどれだけ使って作り、できたものの何をどう測るかが書かれています。

もう一つが一般用漢方製剤製造販売承認基準です。平成29年3月28日の薬生発0328第1号という通知の別添として厚生労働省医薬・生活衛生局が示したもので、通知本文は本基準は、平成29 年4月1日以降に製造販売承認申請される品目に適用します。としています。こちらには処方ごとに〔成分・分量〕〔用法・用量〕〔効能・効果〕の三つの欄があり、五苓散は処方番号65に置かれています。

表1 五苓散に関わる二つの文書の役割
文書 根拠・出どころ この記事で使う部分
第十九改正日本薬局方 医薬品各条 五苓散エキス 薬機法第41条第1項/令和8年4月10日厚生労働省告示第193号 製法欄の処方5通り、定量法、乾燥減量
一般用漢方製剤製造販売承認基準 処方番号65 平成29年3月28日 薬生発0328第1号 別添 〔成分・分量〕の範囲、〔用法・用量〕、〔効能・効果〕の文面
平成19年厚生労働省告示第69号 薬機法第36条の7第1項第1号及び第2号 第二類医薬品としての指定(別表第二)

第十九改正は五苓散のところを1文字も変えていない

第十九改正日本薬局方の施行通知(医薬発0410第1号)は第十九改正日本薬局方(以下「薬局方」という。)が本日告示され、同日から施行されることとなりましたと書いており、告示の日と施行の日が同じ令和8年4月10日です。既存の承認品目については第十九改正に伴い令和9年9月30 日までに承認事項一部変更承認申請等の必要な措置を行うという経過措置が置かれています。

ただし「改正された」ことと「五苓散の規定が変わった」ことは別です。今回、第十八改正(令和3年6月7日厚生労働省告示第220号)と第十九改正の五苓散エキスの各条を、ページの柱・ノンブル・欄外の注記を取り除いたうえで空白をすべて除いた文字列として突き合わせたところ、どちらも3,557字で完全に一致しました。製法欄の処方も、定量法の数値も、乾燥減量の値も動いていません。版が新しくなったからといって、その項目の中身が変わったとは限らないということです。

日本薬局方は五苓散エキスの処方を5通り定めている

日本薬局方の五苓散エキス各条
局方の製法欄には処方が並記されている

ここがこの記事のいちばんの要点です。局方の五苓散エキスの各条には、製法として5通りの処方が表の形で並記されていて、その末尾に1) ~ 5)の処方に従い生薬をとり,エキス剤の製法により乾燥エキス又は軟エキスとする.と書かれています。「五苓散エキス」という一つの名前の下に、生薬の量が違う5つの組み合わせが同居している構造です。

5つの処方を並べる

表2 第十九改正日本薬局方 五苓散エキス 製法欄の処方(単位はg)
処方 タクシャ チョレイ ブクリョウ ビャクジュツ ソウジュツ ケイヒ 生薬合計
1) 5 3 3 3 2 16
2) 6 4.5 4.5 4.5 2.5 22
3) 6 4.5 4.5 4.5 3 22.5
4) 4 3 3 3 1.5 14.5
5) 6 4.5 4.5 4.5 3 22.5

縦に読むと、まずジュツの扱いが分かれます。ビャクジュツを使う処方が3つ、ソウジュツを使う処方が2つで、両方を同時に使う処方はありません。処方3)と処方5)は5つの数字がすべて同じで、ジュツがビャクジュツかソウジュツかだけが違います。

量の開きも小さくありません。生薬の合計は処方4)の14.5gが最も少なく、処方3)と処方5)の22.5gが最も多く、その比は約1.55倍です。ケイヒだけを見ると1.5gから3.0gで、こちらは2.0倍の開きがあります。

「そのうちの一つを選択する」と書かれている場面

複数の処方が並んでいるとき、作る側はどうするのか。これについて明文があるのは、都道府県知事が承認する漢方製剤についての通知(平成29年3月31日 薬生薬審発0331第21号)の別紙です。そこには日本薬局方医薬品各条の製法欄に複数の処方が規定されている場合は、そのうちの一つを選択するものであること。とあり、さらに承認申請書の備考欄に漢方処方エキスの日本薬局方医薬品各条におけるエキスの製法の処方番号を記載することまで求めています。

ただしこの通知の射程には注意が必要です。この通知が漢方製剤について扱う有効成分は、昭和45年厚生省告示第366号の「漢方製剤」の項が指す別表第十九に掲げられたものに限られ、その一覧は28件です(同じ告示は解熱鎮痛薬や生薬製剤など他の種類についても別の別表を置いています)。今回この別表第十九を全件走査したところ、「五苓散エキス」の行はありませんでした。一方で、五苓散と小柴胡湯を合わせた「柴苓湯エキス」は掲げられています。つまり「一つを選択する」という書きぶりは、五苓散そのものに向けて書かれた条文ではありません。

同じ別紙は、承認申請書の効能又は効果の欄について効能又は効果は、「一般用漢方製剤製造販売承認基準について」(平成29年3月28日薬生発0328第1号厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)別添「一般用漢方製剤製造販売承認基準」(以下「漢方製剤承認基準」という。)に定められたとおりに記載すること。とも指示しています。成分・分量は局方の製法欄から、効能・効果は承認基準の別添から取る、という二枚看板の作りです。これも次に述べる28処方についての取扱いです。

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相場は2026年8月時点の参考値です。ノンアル飲料は缶・ペットボトルのケース販売が中心で、1本あたりの単価は購入本数によって変わります。並べ替えや価格での絞り込みのボタンはこの表には出ません。アルコール0.00%表記でも商品によってはごく微量を含む場合があるため、運転前や妊娠中などは各商品の表示を必ず確認してください。なお二日酔いを防ぐ基本は飲み過ぎないことで、五苓散などの医薬品については添付文書を読んだうえで薬剤師または登録販売者にご相談ください。

規格が数字で測っているのはケイヒ由来の成分ひとつ

五苓散エキスの定量法
定量法が指標にしているのは1成分だけ

処方が5通りあるということは、できあがったエキスの中身も一通りではないということです。では局方はできたものの何を測っているのか。各条の冒頭にこう書かれています。

本品は定量するとき,製法の項に規定した分量で製したエキス当たり,(E )-ケイ皮酸0.3 ~ 1.2 mg (ケイヒ1.5 gの処方),0.4 ~ 1.6 mg (ケイヒ2 gの処方),0.5 ~ 2.0 mg (ケイヒ2.5 gの処方),0.6 ~ 2.4 mg (ケイヒ3 gの処方)を含む.

第十九改正日本薬局方 医薬品各条 五苓散エキス

同じ処方の中で上限が下限の4倍ある

表3 ケイヒの量ごとに定められた(E)-ケイ皮酸の規格
ケイヒの量 該当する処方 下限 上限 上限÷下限
1.5g 4) 0.3mg 1.2mg 4.0倍
2g 1) 0.4mg 1.6mg 4.0倍
2.5g 2) 0.5mg 2.0mg 4.0倍
3g 3)/5) 0.6mg 2.4mg 4.0倍

区分は4つで、処方が5つあるのに区分が4つなのは、処方3)と処方5)のケイヒがどちらも3.0gで同じ区分に入るからです。

注目したいのは幅のほうです。どの区分でも上限は下限のちょうど4.0倍で、規格に適合していても含まれる量は4倍のあいだで動きます。区分をまたいで見れば、下限がいちばん小さい0.3mgから上限がいちばん大きい2.4mgまで8.0倍の開きがあります。規格に適合しているというのは、ある一点の値に合っているという意味ではありません。

なお乾燥エキスの乾燥減量は乾燥エキス 10.0%以下(1 g,105℃,5時間).と定められており、軟エキスにはこれとは別の値が置かれています。

確認試験のほうは処方によって枝分かれする

定量法は1本ですが、その手前にある確認試験は4項に分かれています。しかもそのうち2項には、どの処方を使ったかによる条件が付いています。

表4 五苓散エキスの確認試験の構成
確認する生薬 適用される処方 方法
(1) タクシャ 全処方共通 薄層クロマトグラフィー(標準はアリソールA)
(2) ビャクジュツ ビャクジュツ配合処方 薄層クロマトグラフィー(標準はアトラクチレノリドⅢ)
(3) ソウジュツ ソウジュツ配合処方 薄層クロマトグラフィー(紫外線と噴霧用4-ジメチルアミノベンズアルデヒド試液)
(4) ケイヒ 全処方共通 ⅰ)またはⅱ)の薄層クロマトグラフィー

(2)は「ビャクジュツ配合処方」、(3)は「ソウジュツ配合処方」と括弧書きで限定されています。製法欄で処方が分かれている以上、できたエキスに何が入っているかも分かれるので、試験の側もそれに合わせて枝分かれしている、という作りです。

もう一つ気づくのは、確認試験が置かれている生薬がタクシャ・ビャクジュツ・ソウジュツ・ケイヒの4つで、チョレイとブクリョウには確認試験が置かれていないことです。この2つは製法欄に名前と分量が書かれるだけで、できあがったエキスの側から確かめる手順は各条にありません。

6つの生薬の各条には定量法の項がない

局方は規格の区分をケイヒの量で切っているので、(E)-ケイ皮酸はケイヒ由来の成分として扱われていると読めます。ではケイヒそのものの各条では何を測っているのか。今回、五苓散に使われる生薬すべてについて、第十九改正日本薬局方の各条を1件ずつ切り出して調べました。タクシャ・チョレイ・ブクリョウ・ソウジュツ・ビャクジュツ・ケイヒのいずれにも、「定量法」という項は置かれていませんでした。各条に置かれているのは、生薬の性状、確認試験、純度試験、灰分、貯法などで、生薬によって酸不溶性灰分・精油含量・乾燥減量が加わります。確認試験の方法もそろっておらず、タクシャ・ソウジュツ・ビャクジュツ・ケイヒは薄層クロマトグラフィーですが、チョレイとブクリョウは試薬を加えて色の変化を見る呈色反応です。乾燥減量の項があるのはケイヒだけで、酸不溶性灰分の項はブクリョウとケイヒには置かれていません。

生薬の段階にも精油含量や灰分といった数値の規格はありますが、特定の成分を取り出して量を測る「定量法」の項は、五苓散エキスという製剤の段階になってはじめて現れます。しかもその指標は1成分だけです。

承認基準のほうは分量を範囲で書いている

一般用漢方製剤製造販売承認基準の五苓散
承認基準は分量を範囲で示している

局方が処方を並記するのに対し、一般用漢方製剤製造販売承認基準は同じ五苓散の〔成分・分量〕を1行の範囲指定で書いています。処方番号65の欄は次のとおりです。

沢瀉4-6、猪苓3-4.5、茯苓3-4.5、蒼朮3-4.5(白朮も可)、桂皮2-3

一般用漢方製剤製造販売承認基準 処方番号65 五苓散〔成分・分量〕

〔用法・用量〕は(1)散:1 回1-2g 1 日3 回と「(2)湯」の二本立てです。生薬名の書き方も局方とは違い、こちらは漢字(沢瀉・猪苓・茯苓・蒼朮・桂皮)です。また蒼朮については「(白朮も可)」という括弧書きが付いていて、局方のようにビャクジュツの処方とソウジュツの処方を別立てにする書き方はとっていません。

二つの文書が同じ生薬に別の幅を書いている

表5 承認基準の範囲と、局方5処方に実際に現れる値
生薬 承認基準〔成分・分量〕 局方の5処方に現れる値(g)
沢瀉(タクシャ) 4-6 4/5/6
猪苓(チョレイ) 3-4.5 3/4.5
茯苓(ブクリョウ) 3-4.5 3/4.5
蒼朮(ソウジュツ) 3-4.5(白朮も可) 3/4.5
桂皮(ケイヒ) 2-3 1.5/2/2.5/3

多くの生薬では、局方に現れる値が承認基準の範囲の中に収まります。ただしケイヒだけは違います。承認基準が「桂皮2-3」と書いているのに対し、局方の処方4)のケイヒは1.5gで、承認基準の下限を下回ります。

これはどちらかが誤っているという話ではありません。承認基準は一般用漢方製剤の製造販売承認を審査するための基準で、局方は医薬品の規格基準書です。目的が違う二つの文書が、同じ生薬について別の幅を書いている、というのが実際のところです。読む側としては、「五苓散の桂皮は何グラムか」という問いに一つの数字で答えられる文書はないと受け取るのが正確です。

満量と係数という考え方はどこにあるか

市販品の箱には「1/2量」「2/3量」といった表記が現れることがあります。この考え方が条文の形で置かれている一つが、昭和45年厚生省告示第366号の漢方製剤の項です。そこでは各構成生薬の一日最大分量は、漢方処方ごとに日本薬局方医薬品各条の製法の項に規定される量を「満量」と呼び、配合できる量を満量の二分の一以上一以下を乗じた量とする。としています。さらに前掲の薬生薬審発0331第21号の別紙は、全ての構成生薬(コウイを含む。)に同一の数値を乗じること。(構成生薬ごとに異なる数値を乗じることは認められない。)と念を押しています。生薬ごとにばらばらの係数を掛けることはできない、という趣旨です。

ここでも射程は別表第十九の28処方です。ただし「満量に係数を掛ける」「掛けた係数を表示に書く」という作法自体は、次の節で見るように五苓散の市販品の表示にも現れます。

効能・効果の文面はほぼ同じでも、1日量は2倍前後ちがう

市販の五苓散製品の成分・分量欄
市販品の1日量を並べて比べる

ここまでが文書の側の話です。実際の製品ではどうなっているかを、各社が公式サイトに掲載している成分・分量の欄から読み取ります。なお株式会社ツムラの製品は、公式サイトが「当製品の製造および出荷は終了いたしました」と告知しており、現在は在庫限りです。表示の読み方を示す例としてそのまま用います。

2製品の成分・分量欄を並べる

表6 2製品の1日量(各社公式サイトの成分・分量欄と用法・用量欄より)
項目 株式会社ツムラ 大杉製薬株式会社 右÷左
タクシャ 3.3g 6g 1.82倍
チョレイ 1.98g 4.5g 2.27倍
ブクリョウ 1.98g 4.5g 2.27倍
ソウジュツ 1.98g 4.5g 2.27倍
ケイヒ 1.32g 3g 2.27倍
生薬の合計 10.56g 22.5g 2.13倍
五苓散エキス 1.4g 2.1g 1.5倍
1日の服用回数 2回 3回

ツムラの製品は本品2包(5.0g)中、下記の割合の五苓散エキス(処方分量集、2/3量)1.4g を含有します。と書いており、用法・用量は成人1回1包を1日2回なので、表の値が1日量になります。大杉製薬の製品は本剤3包(1包1.5g)中に、次の生薬から抽出された五苓散エキス2.1gが含まれています。と書いており、こちらは1回1包を1日3回なので、3包分がそのまま1日量です。

並べると、抽出前の生薬の合計で約2.13倍、エキスの量で1.5倍の差があります。ケイヒでは1.32gと3.0gで約2.27倍です。それでいて、効能・効果の文面のほうはほとんど動きません。承認基準の処方番号65の《備考》は、しぶり腹に付いている注記について「効能・効果欄に記載するのではなく、〈効能・効果に関連する注意〉として記載する」と指示しているので、注記記号を外した形を基準の文として、2製品の効能・効果を1文字ずつ照合しました。

結果は、大杉製薬株式会社が「腹痛、頭痛、むくみ」の箇所を「腹痛、頭重、むくみ」としている1文字違い、株式会社ツムラが「しぶり腹」のうしろに注記記号(※)を欄内に置いている3文字分の違いでした。量が2倍前後動いているのに対し、言葉のずれはこの水準にとどまります。

典拠まで成分・分量欄に書くかどうかは製品による

大杉製薬の製品に書かれている5つの生薬の量を、局方の5処方と機械で突き合わせると、処方5)と完全に一致しました(タクシャ6g・チョレイ4.5g・ブクリョウ4.5g・ソウジュツ4.5g・ケイヒ3g)。これは承認基準の範囲の上端でもあります。

ツムラの製品のほうは、5つの量が局方のどの処方とも一致しません。その代わり成分・分量欄が自ら「処方分量集、2/3量」と、もとにした典拠の名前と掛けた係数を書いています。

一方で大杉製薬株式会社の側は、今回参照した公式サイトの成分・分量欄では生薬名と分量を並べるだけで、典拠も処方番号も書いていません(同じページからは添付文書のPDFにも進めますが、今回はそこまでは見ていません)。処方5)との一致は、こちらが数値を突き合わせて確かめたことであって、製品が名乗っていることではありません。表示から典拠までたどれるかどうかは、製品によって分かれます。

6つの生薬は局方でどこまで決められているか

五苓散を構成する生薬の各条
生薬ごとに基原と規格が定められている

五苓散に使われる生薬には、それぞれ局方の各条があります。各条の冒頭には「基原」、つまりどの生物のどの部位を指すのかが書かれています。

表7 第十九改正日本薬局方における五苓散関連生薬の基原と主な規格
生薬 基原 各条の主な数値規格
タクシャ(沢瀉) サジオモダカAlisma orientale Juzepczuk (Alismataceae)の塊茎で,通例,周皮を除いたものである 灰分5.0%以下/酸不溶性灰分0.5%以下
チョレイ(猪苓) チョレイマイタケPolyporus umbellatus Fries (Polyporaceae)の菌核である 灰分16.0%以下/酸不溶性灰分4.0%以下
ブクリョウ(茯苓) マツホドWolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson (Poria cocos Wolf) (Polyporaceae)の菌核で,通例,外層をほとんど除いたものである 灰分1.0%以下
ソウジュツ(蒼朮) ホソバオケラAtractylodes lancea De Candolle,シナオケラAtractylodes chinensis Koidzumi又はそれらの種間雑種(Compositae)の根茎である 灰分7.0%以下/酸不溶性灰分1.5%以下/精油含量0.7mL以上
ビャクジュツ(白朮) 1) オケラAtractylodes japonica Koidzumi ex Kitamuraの根茎(和ビャクジュツ)又は2)オオバナオケラAtractylodes macrocephala Koidzumi (Atractylodes ovata De Candolle) (Compositae)の根茎(唐ビャクジュツ)である 灰分7.0%以下/酸不溶性灰分1.0%以下/精油含量0.5mL以上
ケイヒ(桂皮) Cinnamomum cassia J. Presl (Lauraceae)の樹皮又は周皮の一部を除いた樹皮である 乾燥減量15.5%以下/灰分6.0%以下/精油含量0.5mL以上

ソウジュツとビャクジュツは別の各条

承認基準は「蒼朮3-4.5(白朮も可)」と、片方を主にしてもう片方を代替として括弧に入れる書き方をします。局方の扱いは違います。ソウジュツとビャクジュツはそれぞれ独立した各条を持ち、基原の植物も別です。規格の数値も同じではなく、精油含量はソウジュツが0.7mL以上、ビャクジュツが0.5mL以上で(いずれも粉末50.0g当たり)、灰分の酸不溶性の値もソウジュツ1.5%以下、ビャクジュツ1.0%以下と分かれています。

局方の製法欄も両者を混ぜず、ビャクジュツを使う3つの処方とソウジュツを使う2つの処方を別の列として並べています(製法欄は生薬が行、処方が列という並びで、この記事の表2はそれを入れ替えて示しています)。規格が違うから列を分けた、と局方が説明しているわけではありませんが、少なくとも各条は両者を置き換え可能なものとしては扱っていません。

ビャクジュツは基原そのものが2通り

さらに細かい話として、ビャクジュツの各条は基原を一つに絞っていません。

本品は1) オケラAtractylodes japonica Koidzumi ex Kitamuraの根茎(和ビャクジュツ)又は2)オオバナオケラAtractylodes macrocephala Koidzumi (Atractylodes ovata De Candolle) (Compositae)の根茎(唐ビャクジュツ)である.

第十九改正日本薬局方 医薬品各条 ビャクジュツ

和ビャクジュツと唐ビャクジュツという二つの呼び分けが、同じ各条の中に置かれています。「同じ名前の下に複数の中身がある」という構造は、五苓散エキスの処方だけでなく、その材料である生薬の段階にも現れているということです。

ケイヒのほうは基原が一つで、本品はCinnamomum cassia J. Presl (Lauraceae)の樹皮又は周皮の一部を除いた樹皮である.と書かれています。

第2類医薬品という区分は誰がどう決めているか

第2類医薬品という区分
区分は告示の別表で決まっている

市販の五苓散の箱には「第2類医薬品」と印刷されています。この区分がどこで決まっているかも見ておきます。

区分を決めているのは告示の別表

薬機法第36条の7第1項は一般用医薬品を三つに区分しており、第2号はその副作用等により日常生活に支障を来す程度の健康被害が生ずるおそれがある医薬品(第一類医薬品を除く。)であつて厚生労働大臣が指定するものと定めています。指定するのは厚生労働大臣で、その指定が平成19年厚生労働省告示第69号です。同告示の第二号ハは、第二類医薬品として別表第二に掲げる漢方処方に基づく医薬品及びこれを有効成分として含有する製剤(第一類医薬品を除く。)を挙げています。その別表第二を今回全件走査したところ、掲げられている漢方処方は294件で、「五苓散」は第百二号に置かれていました。近い名前では第六号に茵蔯五苓散、第百十六号に柴苓湯、第百六十一号に四苓湯が、それぞれ別の号として掲げられています。名前が似ていても、区分の上では一つずつ別の処方として扱われます。

第2類の中には注意を要するものを別に括った「指定第二類医薬品」という枠もありますが、厚生労働省が公表している指定第二類医薬品の一覧は柱書きで別表第2に掲げる漢方処方製剤は除く。と明記しています。五苓散は別表第二に掲げられた漢方処方製剤なので、この除外に当たります。

生薬の側にも別の一覧がある

同じ告示には、生薬そのものを掲げた別表第三の「生薬及び動植物成分」という項もあります。五苓散に使われる生薬をこの項で引くと、次の5つが一日量の閾値つきで掲げられていました。

表8 平成19年厚生労働省告示第69号 別表第三に掲げられた五苓散関連生薬
生薬 除外される場合
ソウジュツ 第百六号 外用剤、および一日量中2.25g以下を含有するものを除く
タクシャ 第百十三号 外用剤、および一日量中3g以下を含有するものを除く
チョレイ 第百十七号 外用剤、および一日量中2.25g以下を含有するものを除く
ビャクジュツ 第百四十号 外用剤、および一日量中2.25g以下を含有するものを除く
ブクリョウ 第百四十四号 外用剤、および一日量中4g以下を含有するものを除く
ケイヒ 掲げられていない この項にケイヒの号は見当たらない

五苓散はすでに別表第二の漢方処方として指定されているので、区分を決めるのに生薬側の一覧を持ち出す必要はありません。ここで見ておきたいのは並びのほうです。局方の定量法が指標にしている(E)-ケイ皮酸の由来であるケイヒだけが、この一覧には出てきません。規格の側で最も重く扱われている生薬と、区分の側で名前が挙がる生薬が、同じではないということです。

区分が変えるのは売り場の側の義務

表9 一般用医薬品の区分と売り場に課される取扱い
区分 販売できる者(薬機法第36条の9第1項) 情報提供(同法第36条の10)
第一類医薬品 薬剤師 書面等を用いた情報提供が義務
第二類医薬品 薬剤師又は登録販売者 必要な情報を提供させるよう努める(努力義務)
第三類医薬品 薬剤師又は登録販売者 第一類・第二類のような個別の規定は置かれていない

薬機法第36条の9第1項は、第1号で第一類医薬品を薬剤師に、第2号で第二類医薬品と第三類医薬品を薬剤師または登録販売者に販売させなければならないとしています。同法第36条の10第3項は第二類医薬品を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、その薬局又は店舗において医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者に、必要な情報を提供させるよう努めなければならないとしています。第一類が書面等による情報提供を義務としているのに対し、第二類は努力義務です。区分が決めているのは中身の量ではなく、売る側に何を求めるかのほうだ、という点は押さえておきたいところです。

なお局方に収載されている医薬品については、薬機法第56条第1号が販売等を禁じる対象を日本薬局方に収められている医薬品であつて、その性状又は品質が日本薬局方で定める基準に適合せず、かつ、次のイ及びロのいずれにも該当しないものと定めています。「基準に適合しない」ことだけで禁止になるのではなく、イ(性状及び品質が適正なものとして承認を受けたもの)とロ(その承認を受けたものの製造の用に供するもの)のどちらにも当たらないことが重ねて求められる、という書き方です。

制度が答えていないことと、飲む前にできること

制度が答えていないこと
文書が定めている範囲と、そうでない範囲

ここまで見てきた文書が定めているのは、中身の作り方と、測り方と、書ける言葉と、売り方です。そこには含まれていないものがあります。

第一に、量の違う製品どうしを比べた結果は、今回集めた資料のどこにもありません。1日量が2.13倍違う二つの製品のどちらがよいかを、これらの文書は答えていません。

第二に、承認基準の〔効能・効果〕は「その欄に何と書けるか」を定めるもので、効きめの程度を保証するものではありません。「二日酔」の語が欄にあることと、飲めば治ることとは別のことです。

第三に、局方の定量法が測っているのは1成分だけです。その1成分が規格の中に入っていることは、他の成分がそろっていることを意味しません。

よくある質問

五苓散についてよくある質問
五苓散と制度についてよく寄せられる質問
五苓散はどの製品を選んでも中身は同じですか。

処方名が同じでも、1日に飲む生薬の量は製品ごとに違います。この記事で成分・分量欄を読んだ2製品では、1日量のタクシャが3.3gと6.0gで、後者が前者の約1.82倍でした。一方で効能・効果の文面は、承認基準の文と照合したところ、片方が1文字、もう片方が注記記号1つだけの違いでした。

箱に「2/3量」と書いてあるのはどういう意味ですか。

ツムラの製品は成分・分量欄に本品2包(5.0g)中、下記の割合の五苓散エキス(処方分量集、2/3量)1.4g を含有します。と書いています。もとにした処方の分量に2/3を掛けた量で作っている、という意味の表記です。掛けた数値を括弧書きで示す書き方は、漢方製剤の承認申請の実務で用いられています。

日本薬局方は2026年に変わったと聞きました。五苓散のところも変わりましたか。

第十九改正日本薬局方は令和8年4月10日厚生労働省告示第193号で告示され、施行通知は第十九改正日本薬局方(以下「薬局方」という。)が本日告示され、同日から施行されることとなりましたと書いています。ただし五苓散エキスの各条そのものは、第十八改正のものと空白を除いた文字列が完全に一致しました(いずれも3,557字)。改正はされましたが、五苓散エキスの規定内容はこの改正では動いていません。

五苓散は薬剤師がいない店でも買えますか。

五苓散は平成19年厚生労働省告示第69号の別表第二に掲げられており、同告示は第二類医薬品として別表第二に掲げる漢方処方に基づく医薬品及びこれを有効成分として含有する製剤(第一類医薬品を除く。)と定めています。第二類医薬品については、薬機法第36条の9第1項第2号が薬剤師または登録販売者に販売させなければならないとしています。個別の店舗の体制については、その店舗にご確認ください。

承認基準と日本薬局方で桂皮の数字が違うのはなぜですか。

二つは目的の違う文書だからです。承認基準は五苓散の〔成分・分量〕を沢瀉4-6、猪苓3-4.5、茯苓3-4.5、蒼朮3-4.5(白朮も可)、桂皮2-3と範囲で書き、局方の各条は製法欄に5通りの処方を具体的な数値で並べています。局方の5処方のケイヒは1.5gから3.0gまでで、承認基準の「2-3」より下の値を含む処方があります。どちらかが誤っているのではなく、承認基準が一般用漢方製剤の承認審査のための基準であるのに対し、局方は医薬品の規格基準書だという役割の違いによるものです。

「二日酔」に使えると決めたのは誰ですか。

厚生労働省です。一般用漢方製剤製造販売承認基準の処方番号65「五苓散」の〔効能・効果〕に「二日酔」の語が置かれており、市販薬の箱に印刷される効能・効果はこの文面に従って書かれます。ただしこの基準が定めているのは「効能・効果の欄に何と書けるか」であって、どれくらい効くかや、量の違う製品どうしでどちらが優れるかを定めたものではありません。

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