デキャンタとは|移し替えが届出になる場合とならない場合

デキャンタとは|移し替えが届出になる場合とならない場合

デキャンタとは、ボトルに入っている酒をいったん別のガラス器へ移し替えるための器です。赤ワインの澱を底に残す、閉じた香りを空気に触れさせて開かせる、卓上での見栄えを整える。どの目的で使うにしても、やっていることは「中身を移す」という一動作しかありません。

この記事は、その一動作を味ではなく文書の側から読みます。同じように瓶からガラス器へ酒を移していても、家庭の食卓と、飲食店のテーブルと、酒販店の作業台では、法律上の扱いがまったく別物になります。家庭と飲食店では酒税法上の手続きが一つもかからないのに対し、酒販店の作業台では税務署への届出と容器への表示と帳簿への記載が伴います。飲食店の側は営業でありながら手続きが一つもかからないという点が、この記事の主題です。器そのものの選び方や容量の目安、クリスタルの鉛の基準はカラフェとデキャンタの違いデカンタージュの手順と時間で扱っているので、この記事は移し替えという行為の側だけを引き受けます。

デキャンタとは|同じ移し替えでも、誰の手かで別の行為になる

デキャンタとは|同じ移し替えでも、誰の手かで別の行為になる
ワインセラーに並ぶデキャンタとグラス

先に結論を三つ置きます。第一に、この記事が引く酒税法と組合法のどこにも、酒を別の容器に移すこと自体を禁じる条文はありません。食品衛生法が規制しているのは移す動作ではなく、移す先の器の材質のほうです。効いてくるのは「誰が」「どこから何を出すために」移したかという条件のほうです。第二に、酒税法が詰め替えについて届出を求めているのは酒類製造者と酒類販売業者に限られていて、客に飲ませることを業とする酒場や料理店はそもそもその名宛人に入っていません。第三に、詰め替えた酒に容器への表示が要るのは、詰め替えたうえでその酒を販売場から搬出するときで、二つの条件が揃って初めて効きます。同じ条文は輸入した酒を保税地域から引き取る場合にも別途の表示を課していますが、そちらはこの記事の場面には関わりません。この三つを条文で確かめていくと、飲食店の卓上に置かれたデキャンタが手続きの外側にある理由がはっきりします。

なぜこんな読み方をするのかというと、デキャンタを説明した文章のほとんどが器の形と使い方で終わっていて、「移し替えという行為が制度からどう見えているか」に触れていないからです。当店にも「デキャンタに移して保存していいのか」「店で使うのに届出が要るのか」という質問が届きます。これらは味の話ではなく手続きの話なので、答えは条文にしかありません。

まず、酒類の販売業には免許が要ります。酒税法第9条第1項は、販売場ごとにその所在地の所轄税務署長の免許を受けなければならないと定めています。ただし書はここから二つの業を外していて、一つ目が酒類製造者がその製造免許を受けた製造場においてする酒類の販売業で、これには括弧書きで「その製造場について製造免許を受けた酒類と同一の品目の酒類」等という限定が付いています。二つ目がこれから見る飲食店の業です。

酒場、料理店その他酒類をもつぱら自己の営業場において飲用に供する業については、この限りでない。

酒税法第9条第1項ただし書

「もつぱら自己の営業場において飲用に供する業」というのが、レストランやバーの営業です。ここで区別されているのは、酒を渡して所有を移すのか、その場で飲ませるのか、という点です。ボトルを開けてデキャンタに移してグラスへ注ぐという一連の動作は、後者の中で完結しています。だからこの業には販売業免許が要らず、そして後で見るとおり、詰替えの届出も容器の表示もかかりません。

同じ動作が四つの場面でどう分かれるか

先に全体像を表にしておきます。四つの場面はいずれも「瓶から別の容器へ酒を移す」という点で同じですが、かかる手続きは同じではありません。上の二つは何も要らず、三つ目は免許と帳簿、四つ目で全部が揃います。

表1 瓶から別の容器へ酒を移す四つの場面と、かかる手続き
場面 販売業免許 詰替えの届出 容器への表示 帳簿への記載
家庭で自分の飲む分をデキャンタに移す 不要 不要 不要 不要
飲食店が自分の営業場で客に出すためデキャンタに移す 不要 不要 不要 不要
酒販店が客の持参した容器へ量り売りする 必要 不要 不要 必要
酒販店が仕入れた酒を小分けして販売する 必要 必要 必要 必要

四行目だけがすべて「必要」に揃います。ここが酒税法にいう「詰め替え」です。三行目の量り売りは、免許は要るものの届出も表示も要りません。一行目と二行目は、酒税法の手続きの条文がそもそも名宛人にしていない場面です。表の四つの列がなぜこう分かれるのかを、以下でそれぞれの条文から確かめます。

なお「帳簿への記載」の列は、その場面で移し替えを記録する義務があるかどうかではなく、酒類販売業者という立場に一般的にかかる記帳義務のことです。根拠は行為ではなく身分の側にあるので、量り売りの店も小分けをしない店も等しく対象になります。

食品衛生法はデキャンタを「器具」と呼び、売る瓶を「容器包装」と呼ぶ

食品衛生法はデキャンタを「器具」と呼び、売る瓶を「容器包装」と呼ぶ
デキャンタへ赤ワインを注ぐところ

酒税法の話に入る前に、器そのものの法律上の呼び名を確かめておきます。食品衛生法は第4条で言葉の定義を並べていて、そこに「器具」と「容器包装」という二つの言葉が出てきます。デキャンタはどちらでしょうか。

飲食器、割ぽう具その他食品又は添加物の採取、製造、加工、調理、貯蔵、運搬、陳列、授受又は摂取の用に供され、かつ、食品又は添加物に直接接触する機械、器具その他の物

食品衛生法第4条(器具の定義)

「飲食器」が最初に挙がっているとおり、テーブルの上でワインを受けているデキャンタは器具です。一方、容器包装の定義はこうなっています。

食品又は添加物を入れ、又は包んでいる物で、食品又は添加物を授受する場合そのままで引き渡すもの

食品衛生法第4条(容器包装の定義)

分かれ目は授受する場合そのままで引き渡すかどうかです。飲食店のデキャンタは客に渡りません。中身を注いだら店に戻り、洗われて次の客に使われます。だから器具のままです。ところが同じ形のガラス瓶でも、酒を入れて封をして買い手に持ち帰らせるなら、それは中身と一緒に引き渡されるので容器包装になります。物としては同じでも、引き渡すかどうかで呼び名が入れ替わるという構造です。

表2 同じガラス器が器具になるか容器包装になるか
場面 食品衛生法上の呼び名 分かれ目
飲食店の卓上に置くデキャンタ 器具 客に引き渡さず、店の側に残る
小分けして売る瓶 容器包装 中身とともにそのまま買い手へ渡る
家庭で使うデキャンタ 器具 定義は営業かどうかを問わない

この区別が効いてくるのは規格のかかり方です。食品衛生法第18条第1項は、販売の用に供し、若しくは営業上使用する器具若しくは容器包装若しくはこれらの原材料につき規格を定め、又はこれらの製造方法につき基準を定めることができる。と定めていて、規格と製造方法の基準という二本立てになっています。どちらの側にも器具と容器包装の両方が対象として入っています。つまりガラス器としての材質の規格は、飲食店の卓上に置くデキャンタにも、小分けして売る瓶にもかかります。その規格が鉛やカドミウムの溶出について何を定めているかはカラフェとデキャンタの違いで数値まで扱っているので、ここでは「器具か容器包装かにかかわらず材質の規格からは逃れられない」という点だけを押さえておきます。

もう一点、定義の書き方で気づいておきたいことがあります。器具の定義には営業という条件が付いていません。採取、製造、加工、調理、貯蔵、運搬、陳列、授受又は摂取の用に供されという用途と、食品又は添加物に直接接触するという接触の二つだけが要件です。だから家庭で使うデキャンタも、定義の上では器具に当たります。一方、第18条第2項が禁じているのはその規格に合わない器具若しくは容器包装を販売し、販売の用に供するために製造し、若しくは輸入し、若しくは営業上使用したりすることなので、禁止のほうは営業の場面に向けられています。定義の広さと禁止の射程が同じだと思い込まないほうが安全です。

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デキャンタと赤ワインとぶどうの静物

デキャンタージュを試したくなる赤ワインを、当店の在庫から並べています。カードから商品ページへ進むと、生産者、ヴィンテージ、容量、付属品の有無、価格、在庫の状況が確認できます。

並んでいるのは当店のワインのコレクションで、登録は387点あります。実際に先頭へ出るのはオーパスワンやペンフォールズ グランジのような蒐集向けの一本で、日常の食卓でデキャンタに移すワインとは価格帯が違います。ただし、この記事が扱っている手続きの話から見ると、一本七万円のワインも千円のハウスワインも、移し替える行為としてはまったく同じ扱いになります。免許も届出も表示も、中身の値段では何一つ変わりません。

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ここではワインの在庫から一部を掲載しています。価格・在庫・箱の有無は各商品ページでご確認いただけます。

気になる一本が品切れのときは、近いタイプの銘柄をカードからたどれます。飲まずに置いている一本の相場が気になる場合は、ワインの買取ページから状態を伝えていただければ確認します。

デキャンタ13本の比較|形の区分と容量で並べる

デキャンタ13本の比較|形の区分と容量で並べる
スタンド付きデキャンタとグラス

デキャンタを13本並べた比較表です。ブランドはリーデル、ザルト、バカラ、シュピゲラウ、木村硝子店、アイシュ、RCR、ヴィノドンの8社です。

表に列として出るのは、画像/銘柄・スコア/定価市場相場/特徴/リンクサス酒販本命/Amazon/楽天/買取 の8つです。形の区分と容量は列にならないので、下の二つの表で補います。価格は各モールの実勢の参考値で、最安値を保証する一覧ではありません。

表3 13本に付いている形の区分
形の区分 本数 表に入っている例
ボルドー型 6 リーデル アンプル/ザルト ノー1/バカラ シャトーバカラ/シュピゲラウ スタイル/木村硝子店 ボルドー/アイシュ センシスプラス
ブルゴーニュ型 2 シュピゲラウ オーセンティス/RCR フュージョン
アートピース 3 リーデル コルネット/ザルト ミスティーク/ヴィノドン スネークデキャンタ
装飾型 1 バカラ マッセナ
カラフェ 1 木村硝子店 カラフェ 1000ml

この区分は当店が作ったものではなく、比較表の各行に登録されているラベルをそのまま数えたものです。最後の行に注目してください。デキャンタの比較表なのに、木村硝子店の一本だけ区分が「カラフェ」になっています。これは登録の誤りではなく、作っている側が二つの語を厳密に呼び分けていないことの現れです。この一本は円筒形で、ハウスワインの取り分けにも日本酒にも使えます。呼び名の重なりについてはカラフェとデキャンタの違いで辞書とメーカー表記から詳しく追っています。

表4 13本の容量の内訳
容量 本数
750ml 1
1000ml 4
1500ml 8

1500mlが8本で最も多く、ボトル1本分の750mlは1本だけです。デキャンタは中身を空気に触れさせる器なので、ボトルの容量よりひとまわり大きい設計が主流だということが数の上でも見て取れます。

下の表では、13本すべてについて特徴とAmazon・楽天のリンクが出ます。当店の在庫と結び付いている行はいまのところ無いので、リンクサス酒販の列には在庫の有無も価格も出ず、当店の全商品の一覧へ進むリンクが並びます。

デキャンタ13本の比較表
リーデル、ザルト、バカラ、シュピゲラウ、木村硝子店、アイシュ、RCRのデキャンタを13本並べています。表に列として出るのは 画像/銘柄・スコア/定価・市場相場/特徴/リンクサス酒販/Amazon/楽天/買取 の8つで、容量と形の違いは特徴の欄と本文の表に書いています。価格は各モールの実勢の参考値で、最安値を保証する一覧ではありません。
価格は 2026/08/12 更新
画像 銘柄・スコア 定価
市場相場
特徴 リンクサス酒販
本命
Amazon 楽天 買取
1 リーデル アンプル デキャンタ 1000ml
★★★★★5/ J.S.A.認定ソムリエスコア
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リーデルの定番デキャンタ。骨格のある若いボルドーに。

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とぐろを巻く曲線。エアレーション最大化のアートピース。

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3 ザルト デンクアート ノー1 デキャンタ
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ハンドメイド薄手のデキャンタ。古酒の繊細な香りを守る。

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6 バカラ シャトーバカラ デキャンタ
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7 シュピゲラウ スタイル デキャンタ
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無鉛クリスタルのコスパ良好デキャンタ。

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広い底面のブルゴーニュ型。香りを最大限に開かせる。

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9 木村硝子店 ボルドー デキャンタ 1000ml
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国産老舗の業務用デキャンタ。耐久性に優れる。

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10 アイシュ センシスプラス デキャンタ
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特殊加工で熟成感を演出。若いワインを一気に開く。

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イタリアRCRの無鉛クリスタル。コスパに優れる。

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12 ヴィノドン スネークデキャンタ 1500ml
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うねるような曲線。エアレーション面積を極大化。

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13 木村硝子店 カラフェ 1000ml シンプル円筒型
★★★☆☆3/ J.S.A.認定ソムリエスコア
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シンプル円筒型のカラフェ兼用。日本酒・白にも。

LINXASで探すコレクション 価格を見るAmazon 楽天で探す 商品名検索 査定 買取

13本ともオープン価格のためメーカー定価は掲載していません。楽天・Amazonの価格は同一品が見つからない場合は空欄になります。この表には並べ替えのボタンと価格帯の絞り込みが描画されていないため、価格順に見たいときは各リンク先でご確認ください。

量り売りと詰め替えを、国税庁は別の行為として分けている

量り売りと詰め替えを、国税庁は別の行為として分けている
並べられたガラスのデキャンタと洋酒瓶

ここから酒税法の側に入ります。国税庁は「お酒に関するQ&A」の【詰め替え】という項目で、量り売りと詰め替えを別の行為として説明しています。まず量り売りのほうです。

「量り売り」とは、酒類の購入者があらかじめ用意した容器に、購入者の希望する酒類を、希望する量だけ酒類販売業者が販売する行為をいい、販売する酒類の販売業免許を有していれば、手続き等は必要ありません。

国税庁 お酒に関するQ&A【詰め替え】

ポイントは購入者があらかじめ用意した容器という条件です。容器を持ってくるのは客の側で、店は中身だけを売っています。この形なら販売業免許さえあれば、それ以上の手続きは不要だと明記されています。ウイスキーの量り売りの店が客に空き瓶を持参させるのはこのためで、実際の店舗の運用はウイスキーの量り売りで扱っています。ここで「不要」とされているのは詰替えの届出と容器への表示のことで、販売業免許そのものは前提として必要です。無免許で量り売りができるという意味ではありません。

一方、詰め替えの定義はこうです。

「詰め替え」とは、酒類販売業者等が仕入れた酒類をあらかじめ別の容器に小分け等して販売する行為をいいます。

国税庁 お酒に関するQ&A【詰め替え】

こちらは店の側が容器を用意し、あらかじめ小分けしておいて、それを商品として並べます。同じ「別の容器に移す」でも、容器を誰が持ち込むかがまず違います。国税庁はこの二つを並べたうえで、詰め替えのほうにだけ届出と表示を求めています。

表5 国税庁のQ&Aから読み取れる量り売りと詰め替えの違い
項目 量り売り 詰め替え
容器を用意するのは 購入者 販売業者
販売業免許 必要 必要
税務署への届出 不要 行為の2日前まで
容器への表示 不要 必要

この線引きを飲食店にあてはめると、どちらにも当たらないことが分かります。飲食店は容器を用意しますが、その容器を客に渡しません。中身を売っているのではなく、その場で飲ませているからです。量り売りでも詰め替えでもない第三の場面が、卓上のデキャンタということになります。

この二つの定義は国税庁が自分のQ&Aで並べて書いているもので、条文の中に「量り売り」という語があるわけではありません。酒税法第50条の2が使っているのは「詰め替える」という語だけです。量り売りは、その語に当たらない売り方として説明の側で切り出された呼び名だと読むのが正確です。

詰め替えは行為の二日前までに届け出る

詰め替えは行為の二日前までに届け出る
デキャンタとワインボトルの参考画像

詰め替えに届出が要る根拠は、酒税法第50条の2です。この条は届出義務という見出しを持ち、第1項第1号でこう書いています。

酒類製造者又は酒類販売業者が、酒類の製造場又は保税地域以外の場所で酒類を詰め替える行為

酒税法第50条の2第1項第1号

三つの要素が並んでいます。主体が酒類製造者又は酒類販売業者であること(同じ条の第2項は酒類製造者又は酒母等の製造者は別の届出を定めていますが、詰め替えは第1項の話です)、場所が酒類の製造場又は保税地域以外の場所であること、行為が詰め替えであることです。三つが揃ったときにだけ届出義務が生じます。逆に言えば、主体に当たらない者が同じことをしても、この条文は動きません。

国税庁の手続案内も、対象者を同じ言葉で書いています。酒類の製造場又は保税地域以外の場所で酒類を詰替えしようとする酒類製造者又は酒類販売業者が手続対象者で、提出時期は詰替えをしようとする2日前までとされています。この2日前という期限は案内が独自に決めたものではなく、政令に書かれています。

法第五十条の二第一項の規定による届出は、同項の行為をしようとする日の二日前までに、次に掲げる事項を記載した書面により行うものとする。

酒税法施行令第56条の2第1項

届出書に書く四つの事項

同じ項の各号が、書面に記載する事項を四つ挙げています。

表6 詰替え届出書の記載事項(酒税法施行令第56条の2第1項各号)
記載する事項
届出者の住所及び氏名又は名称並びに法人にあつては、法人番号
当該行為をしようとする日並びに場所の所在地及び名称
当該行為の内容
その他参考となるべき事項

提出先は詰替えをしようとする場所の所在地を所轄する税務署で、手数料はかかりません。書面のほか、e-Taxソフトで作成して提出することもできます。注意したいのは、届出が求められるのが行為の前だという点です。小分けを済ませてから報告するのではなく、その2日前までに出しておく必要があります。

表示の義務は「販売場から搬出する」ところで始まる

表示の義務は「販売場から搬出する」ところで始まる
カラフェとデキャンタの参考画像

詰め替えたあとの容器には表示が要ります。ここが、この記事でいちばん見落とされやすいところです。詰め替えただけでは足りません。条文が置いている条件は二つで、その両方が揃って初めて表示の義務が生じます。

根拠は酒税法ではなく、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律です。同法第86条の5は、酒類製造業者または酒類販売業者に対し、酒類の品目その他の政令で定める事項を、容易に識別することができる方法で容器や包装の見やすい所に表示せよと定めています。そして具体的な事項と場面は、同法施行令第8条の3が書き分けています。第2項がこうです。

酒類を保税地域から引き取る酒類販売業者又は酒類を詰め替えて販売場から搬出する酒類販売業者は、その引き取り、又は搬出する酒類の容器の見やすい箇所に、当該酒類の引取り又は搬出の時までに、その住所及び氏名又は名称、その引取先又は詰替の場所の所在地並びに前項各号に掲げる事項を、容易に識別することができる方法で表示しなければならない。

酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律施行令第8条の3第2項

条件節に注目してください。義務がかかるのは酒類を詰め替えて販売場から搬出する酒類販売業者です。「詰め替えて」と「販売場から搬出する」が並んでいて、どちらか一方では足りません。量り売りに表示が要らないのは、搬出が無いからではなく、国税庁が量り売りを詰め替えに当たらない売り方として切り出しているからです。そして表示するのは、住所と氏名または名称、詰替の場所の所在地、それに第1項各号の事項です。

表7 詰め替えた容器に表示する事項(組合法施行令第8条の3第1項各号)
表示する事項 備考
内容量 粉末酒は重量で書く
当該酒類の品目 清酒・果実酒・ウイスキーなど酒税法第3条第7号から第23号までの区分
当該酒類のアルコール分 粉末酒は除かれる
税率の適用区分を表す事項 雑酒に限ってかかる
発泡性を有する旨を表す事項 その他の発泡性酒類に限ってかかる

第四号と第五号には限定が付いています。税率の適用区分は雑酒だけ、発泡性を有する旨はその他の発泡性酒類だけです。発泡性のない果実酒を小分けする場合なら、実際に書くのは内容量と品目と度数、それに住所氏名と詰替場所です。アルコール分11度未満の発泡性のワインは酒税法第3条第3号ハの「その他の発泡性酒類」に当たるので、第五号も加わります。国税庁のQ&Aも同じ内容を平易な言い方で示しています。

詰め替え容器の見やすい個所に、その販売業者の住所・氏名又は名称、詰め替え場所の所在地、容器の容量,詰替え酒類の種類等を容易に認識できる方法で表示することになります。

国税庁 お酒に関するQ&A【詰め替え】

さらに、酒税の側の表示だけでは終わりません。同じQ&Aは続けてこう書いています。

詰め替えを行った者が,食品衛生法上からも、製造場所(詰め替え場所),製造者(詰め替えた酒類販売業者等の氏名又は名称)等の表示義務が必要となります。

国税庁 お酒に関するQ&A【詰め替え】

詰め替えた者に製造場所と製造者の表示が要るというのは、国税庁がこのQ&Aで説明している内容です。ただし食品の表示基準そのものを書いているのは、いまは食品衛生法ではありません。食品衛生法第19条第3項が販売の用に供する食品及び添加物に関する表示の基準については、食品表示法(平成二十五年法律第七十号)で定めるところによる。と定めて、基準の中身を食品表示法へ送っているからです。前の節で見たとおり、売る瓶は容器包装です。容器包装に表示を載せる義務は、器具のままである飲食店のデキャンタには生じません。

国税庁のQ&Aは、この項目の末尾に根拠法令として酒税法第50条の2、同法施行令第56条の2、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律第86条の5、同法施行令第8条の3の四つを挙げています。届出が酒税法の側、表示が組合法の側という二本立てになっていることが、この四つの並びからも読み取れます。一つの行為に二つの法律がそれぞれ別の理由で反応している、という構造です。

飲食店の卓上デキャンタに免許も届出も表示もかからない

飲食店の卓上デキャンタに免許も届出も表示もかからない
レストランの卓上に置かれたデキャンタとグラス

ここまでの条文を飲食店にあてはめます。結論から言えば、客に出すためにボトルからデキャンタへ移す行為には、販売業免許も詰替えの届出も容器の表示もかかりません。理由は三つとも別々のところにあります。

免許が要らない理由

酒税法第9条第1項ただし書が酒場、料理店その他酒類をもつぱら自己の営業場において飲用に供する業を免許の対象から外しているからです。ここでもつぱらという語が効いています。同じ店が持ち帰り用の未開栓のボトルも売るのであれば、その部分は販売業なので免許が必要になり、その店は酒類販売業者としての立場も併せ持つことになります。ただし書が外しているのは、あくまで自分の営業場で飲ませる業のほうです。

届出が要らない理由

第50条の2第1項の名宛人が酒類製造者又は酒類販売業者だからです。もっぱら飲用に供する業だけを営む店はどちらにも当たりません。名宛人でない者には、そもそもこの条の義務が発生しません。

表示が要らない理由

組合法施行令第8条の3第2項の条件が詰め替えて販売場から搬出することだからです。卓上のデキャンタは店の中にとどまり、販売場から出ていきません。中身は客の口に入りますが、容器は店に残ります。条件が満たされないので表示の義務も生じません。

表8 飲食店の卓上デキャンタに義務がかからない三つの理由
義務 根拠条文 当てはまらない理由
販売業免許 酒税法第9条第1項ただし書 もっぱら自己の営業場で飲用に供する業として除かれている
詰替えの届出 酒税法第50条の2第1項 名宛人が酒類製造者と酒類販売業者に限られている
容器への表示 組合法施行令第8条の3第2項 販売場からの搬出という条件を満たさない

三つとも理由が違うことが大事です。「飲食店だから全部免除される」という一本の理屈があるのではなく、免許は業の性質で外れ、届出は名宛人で外れ、表示は場面の条件で外れています。だからこの店が持ち帰り販売を始めれば、外れ方も一つずつ変わります。持ち帰り用に自店でワインを小分けして瓶詰めするなら、その部分は間違いなく詰め替えに当たり、届出も表示も必要になります。

移し替えは酒税法の「製造」にも当たらない

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デキャンタとグラスのイラスト

もう一つ、確かめておきたい条文があります。酒税法第43条のみなし製造です。酒に何かを混ぜると新しく酒を造ったことにされる、という規定で、免許のない者がこれに触れると重い話になります。デキャンタへの移し替えはこれに当たるでしょうか。第1項の本文はこうです。

酒類に水以外の物品(当該酒類と同一の品目の酒類を除く。)を混和した場合において、混和後のものが酒類であるときは、新たに酒類を製造したものとみなす。

酒税法第43条第1項本文

要件は水以外の物品混和したことです。移し替えは、中身に何も加えずに容器だけを替える行為なので、混和という要件を満たしません。空気に触れることでワインが変化するのは事実ですが、それは条文が言う物品の混和とは別のことです。

逆に言えば、デキャンタの中で何かを足すと話が変わります。ワインに別の品目の酒を注ぎ足す、果汁やスピリッツを加えるといった行為は、混和後のものが酒類である限り第43条第1項の要件に入ります。ただし同項には第一号から第六号までのただし書があり、さらに第10項と第11項が消費の直前の混和と消費者が自ら消費するための混和を適用除外にしています。第11項のほうは施行令第50条第14項第1号が当該混和前の酒類は、アルコール分が二十度以上のものと限定しているので、家庭で焼酎に梅を漬ける話がここに入ります。果実酒はアルコール分20度未満なので、この枠には乗りません。そして第12項は前項の規定の適用を受けた酒類は、販売してはならない。と釘を刺しています。

この記事が扱っているのは、あくまで何も加えない移し替えです。混ぜる行為の詳しい扱いは別の主題なので、ここでは「移し替えだけならみなし製造の要件に入らない」という一点を確認しておきます。

ついでに触れておくと、第43条第5項は水との混和を別扱いにしていて、酒類の製造場以外の場所で酒と水を混ぜたときは、政令で定める場合を除いて新たに酒類を製造したものとみなすと定めています。水は第1項本文の要件から外れているのに、第5項でわざわざ拾い直されているという構造です。ただし第10項と第11項はどちらも前各項の規定はという書き出しなので、適用除外は第5項にも及びます。しかも第10項が指す政令は、施行令第50条第13項で酒場、料理店その他酒類を専ら自己の営業場において飲用に供することを業とする者がその営業場において消費者の求めに応じ、又は酒類の消費者が自ら消費するため、当該混和をするときとする。と場面を名指ししています。卓上で水や氷を足す場面は、想定しにくいのではなく政令が明文で外しているということです。なおここでの表記は専らで、第9条ただし書のもつぱらとは字が違います。別の法令なので書き分けられています。

詰め替えは帳簿にも残る|記帳義務の条文

詰め替えは帳簿にも残る|記帳義務の条文
カウンターに置かれたデキャンタとグラス

届出と表示の次にくるのが帳簿です。酒税法第46条は記帳義務を定めていて、酒類の販売業者を含む者に対し、政令で定めるところにより製造、貯蔵、販売(販売の代理又は媒介を含む。以下同じ。)又は保税地域からの引取りに関する事実を帳簿に記載しなければならない。としています。この義務は行為ごとではなく、酒類販売業者という立場そのものにかかります。

では詰め替えは帳簿のどこに現れるのか。第46条は具体的な項目を政令へ送り、酒税法施行令第52条第2項が酒類の販売業者について四つの号を並べています。その第四号が前三号に掲げるものを除くほか、酒類の貯蔵又は販売に関し財務省令で定める事項として、さらに財務省令へ委ねます。これを受けた酒税法施行規則第14条第2項の第一号が、こう書いています。

酒類を詰め替えたときは、その詰替えに関する事項

酒税法施行規則第14条第2項第1号

短い一行ですが、届出とは別に記録が残るという意味です。同じ条の第1項第五号は製造場の側について酒類を販売するための容器に詰めたとき又は詰め替えたときは、これらに関する事項を挙げていて、製造場でも販売場でも詰め替えは帳簿に載ります。

つまり詰め替えという行為には、事前の届出、容器への表示、事後の記帳という三つの記録が伴います。一方、飲食店が卓上でデキャンタに移す行為は、そのどれにも現れません。同じ動作でありながら、片方は三重に記録され、片方はどこにも残らない。これが冒頭に置いた「誰の手かで別の行為になる」ということの実際の中身です。

三つの記録は、それぞれ時点も宛先も違います。届出は行為の前に税務署へ、表示は搬出の時までに容器へ、記帳は行為のあとに自分の帳簿へ。同じ詰め替えという行為を、前と最中と後ろの三方向から押さえている形です。この三点セットが揃っているのは、酒が課税物件であり、容器が移ると数量と品目の追跡が切れてしまうからだと考えると筋が通ります。

表9 詰め替えに伴う三つの記録
記録 時点 宛先 根拠
届出 行為の2日前まで 所轄税務署長 酒税法第50条の2・施行令第56条の2
容器への表示 搬出の時まで 容器を受け取る側 組合法第86条の5・同施行令第8条の3
帳簿への記載 行為のあと 自分の帳簿 酒税法第46条・施行令第52条・施行規則第14条

飲まないワインの査定・買取はリンクサスへ

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リンクサス酒販では、ワインとブランデー、ウイスキーの査定と買取を行っています。飲まないまま置いているボトルや、贈答で受け取ったまま開けていない一本があれば、ワインの買取ページから状態をお知らせください。

査定でお伝えしているのは、未開栓であること、ラベルと液面の状態が保たれていること、箱や付属品が揃っていることの三点が金額に効きやすいという点です。この記事で見たとおり、酒の容器に書かれた表示は制度の側から求められているもので、銘柄と品目と内容量を証明する役割を持っています。デキャンタや別容器に移してしまうと、その証明がボトルから切り離されます。買取をお考えの一本は、元の瓶のまま保管しておくのが確実です。

開栓後の保存についてお困りの場合はワインストッパーの記事で、メーカーが公表している保存日数と栓の種類を比べています。飲みきれなかった分をデキャンタに移して置いておくより、元の瓶に戻して空気を抜くほうが状態は保たれます。デキャンタは口が広く液面の面積も大きいので、保存用の器としては向いていません。

買取の可否や金額は銘柄と状態で変わります。写真とラベルの情報をお送りいただければ、当店で扱っている範囲かどうかを含めてお答えします。未開栓のまま長く保管していた一本は、液面の下がり具合とコルクの状態を先に確認していただくと話が早く進みます。

デキャンタと法律のよくある質問

デキャンタと法律のよくある質問
デキャンタに関する質問と回答

デキャンタと法律のあいだで質問の多い七つをまとめました。

デキャンタとは何をするための器ですか?

ボトルの中身をいったん別のガラス器へ移し替えるための器です。赤ワインの澱を底に残す、空気に触れさせて香りを開かせる、卓上での見栄えを整えるといった目的で使われます。食品衛生法の言葉では、客に引き渡さずに店や家庭に残る飲食器なので「器具」に当たります。

家でワインをデキャンタに移すのに、何か手続きは要りますか?

要りません。酒税法が届出を求めている相手は酒類製造者と酒類販売業者で、自分で飲むために移し替える人はその名宛人に入っていません。容器への表示を定めた組合法施行令第8条の3第2項も、販売場から搬出する場合の規定です。

レストランがデキャンタで出すのは「詰め替え」に当たりますか?

当たりません。詰め替えは、酒類販売業者等が仕入れた酒をあらかじめ別の容器に小分けして販売する行為だと国税庁が定義しています。もっぱら自分の営業場で飲用に供する業は酒税法第9条第1項ただし書で販売業免許の対象から外れており、第50条の2の届出義務の名宛人にも入りません。

量り売りと詰め替えは何が違うのですか?

容器を誰が用意するかが違います。量り売りは購入者があらかじめ用意した容器に希望する量を売る行為で、販売業免許があれば手続きは不要です。詰め替えは販売業者の側が別の容器に小分けして並べる行為で、行為の2日前までに税務署へ届け出たうえで、容器に表示をする必要があります。

詰め替え届出はいつまでに出すのですか?

酒税法施行令第56条の2第1項が、行為をしようとする日の2日前までと定めています。提出先は詰替えをしようとする場所の所在地を所轄する税務署で、手数料はかかりません。書面のほかe-Taxソフトでも提出できます。

詰め替えた容器には何を書くのですか?

販売業者の住所と氏名または名称、詰替の場所の所在地に加えて、組合法施行令第8条の3第1項各号の事項を書きます。内容量、品目、アルコール分が基本で、雑酒なら税率の適用区分、その他の発泡性酒類なら発泡性を有する旨が加わります。さらに国税庁のQ&Aは、詰め替えを行った者に製造場所と製造者の表示義務も生じると説明しています。

デキャンタに移すとワインを「製造」したことになりますか?

なりません。酒税法第43条第1項のみなし製造は、酒に水以外の物品を混和した場合の規定です。中身に何も加えずに容器だけを替える移し替えは、混和という要件を満たしません。ただしデキャンタの中で別の酒や果汁を加えると、その混和は第43条の対象になり得ます。

この記事で参照した資料

器そのものの選び方や容量の目安はカラフェとデキャンタの違い、デカンタージュの時間の取り方はデカンタージュの手順と時間、グラス側の素材の違いはワイングラスの素材でそれぞれ扱っています。

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