サイドカーとは|公式レシピの黄金比と度数の出どころ

サイドカーとは|公式レシピの黄金比と度数の出どころ

サイドカーは、ブランデーとオレンジのリキュールとレモン果汁を振り合わせたショートカクテルです。国際バーテンダー協会(IBA)の公式レシピを開くと、三つの材料のうち一つ目が「Cognac」という地名、二つ目が「Triple Sec」という一般名で書かれています。どちらも銘柄名ではありません。

この二つの語は、瓶のラベルの上で違う扱いを受けていました。そして「サイドカー」という名前そのものも、中身が蒸留酒かワインかで、銘柄名に刷れるかどうかが変わります。公式の分量と度数の計算から始めて、その名前の規則を原典の逐語で確かめます。

サイドカーとは|三つの材料のうち二つが酒である一杯

サイドカーとは|三つの材料のうち二つが酒である一杯
ブランデーとレモンで作るショートカクテル

ブランデーとオレンジのリキュールとレモン果汁を振り合わせ、氷を入れないグラスに漉して出すショートカクテルです。三つの材料のうち二つが酒で、甘味はリキュールが兼ねます。砂糖やシロップを別に足しません。

公式の分量は五十対二十対二十

国際バーテンダー協会(IBA)が公開している材料は三つだけです。50 ml Cognac20 ml Triple Sec20 ml Fresh Lemon Juice。分類欄はThe unforgettables、飾りの欄は「N/A」で何も置きません。

合計は九十ミリリットル、十で割ると五対二対二です。日本の教本や国産メーカーのレシピは二対一対一(三十・十五・十五など)が多く、公式より酸味と甘味の比率が高くなります。同じ名前で二つの流儀が並んでいます。

表1 IBA公式レシピの材料と分量
原文の表記 分量 合計に占める比率
ベース Cognac 50ml 55.6%
甘味と香り Triple Sec 20ml 22.2%
酸味 Fresh Lemon Juice 20ml 22.2%
合計 90ml 100%

材料から出る度数はおよそ三十一パーセント

コニャックは後で見るとおり四十パーセント以上でしか瓶詰めされません。トリプルセックの代表格であるコアントローも公式FAQがCointreau l'Unique contains 40% of alcohol per volume.と書き、グラン マルニエもGrand Marnier is US 80 proof. 40% alc./vol.と書いています。どちらも四十パーセントです。

四十パーセントを二つとも当てはめると、酒は五十+二十で七十ミリリットル、純アルコールは七十×〇・四〇で二十八ミリリットル。九十で割って三十一・一パーセントです。氷が溶けた分は入っていません。純アルコール量なら比重〇・八で二十二・四グラム。小さなグラス一杯でこの重さです。

作り方|公式の手順と、日本で広く使われる二対一対一

作り方|公式の手順と、日本で広く使われる二対一対一
氷はシェーカーの中だけで使う

IBAが書いている手順は一文だけです。Pour all ingredients into cocktail shaker, shake well with ice, strain into chilled cocktail glass.。氷はシェーカーの中だけで使い、グラスには入れません。冷やすこと(chilled)も原文にあります。

  1. カクテルグラスを冷蔵庫か氷水で冷やしておく
  2. シェーカーにブランデー50ml、トリプルセック20ml、レモン果汁20mlを入れる
  3. 氷を加えてよく振る
  4. 漉して、冷えたグラスに注ぐ

日本式の二対一対一はブランデー30ml・トリプルセック15ml・レモン果汁15mlで合計60ml。酒は45mlなので同じ四十パーセントで計算すると三十パーセント、公式の三十一・一パーセントとほぼ変わりません。比率を変えても度数はほとんど動かず、動くのは一杯の量です

グラスの縁に砂糖をつけるスノースタイルは、公式の手順にも飾りの欄にもありません。日本の店で広く行われている作法で、IBAの記載としては存在しません。

下のグリッドには当店が扱う商品が並びます。掲載しているのは在庫の一部です。

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度数と相場を横に並べて見る

この30本について当店が保有する製品データを集計すると、度数の欄がちょうど「40%」なのは23本。残る7本は「40%前後」が3本、「40〜48%」「38〜50%」「38〜40%」「55.7%」が1本ずつです。三十本のうち二十三本が四十という一つの数字に集まっています。この四十の出どころは後の章で条文にたどりつきます。

サイドカーのベースに選びたいブランデー30本 比較表
サイドカーの主役はベースのブランデーです。ヘネシーやレミーマルタン、マーテルといったコニャックの定番から、農家造りのポールジロー、力強いアルマニャック、りんごのカルヴァドス(派生のアップル・カー用)、ニッカ・竹鶴・サントリーの国産勢、さらにグラッパやピスコまで、シェークして個性が出る30本を度数・タイプ・特徴で横断的に並べました。価格は楽天・Amazonの実勢を参考値として掲載し、最安値を案内する一覧ではありません(2026年6月時点)。
価格は 2026/09/01 更新
画像 銘柄・スコア 定価
市場相場
特徴 リンクサス酒販
本命
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18 アルマニャック(バ・アルマニャック等)700ml 40-48%
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20 カルヴァドス(りんごのブランデー)700ml 40%
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フランス・ノルマンディーのりんごから造る琥珀色のブランデー。

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創業者の蒸留哲学を受け継ぐ純国産ブランデーの最高峰XO。

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サントリー ブランデー エクストラ(楽器ボトル)500ml 40%23 サントリー ブランデー エクストラ(楽器ボトル)500ml 40%
★★★★☆4/ リンクサス専属ソムリエスコア
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陶器の楽器型ボトルが映える、まろやかな国産ブランデー。

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24 キルシュ(さくらんぼのブランデー)40%前後
★★★☆☆3/ リンクサス専属ソムリエスコア
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★★★☆☆3/ リンクサス専属ソムリエスコア
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木イチゴの華やかな香りを蒸留した無色のオー・ド・ヴィー。

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26 グラッパ(ブドウの搾りかすの蒸留酒)38-50%
★★★★☆4/ リンクサス専属ソムリエスコア
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ワインの搾りかすから造るイタリアの蒸留酒。広義のブランデーの仲間。

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27 ピスコ(ブドウのブランデー)40%前後
★★★☆☆3/ リンクサス専属ソムリエスコア
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ペルー・チリのブドウから造る蒸留酒。ピスコサワーで有名。

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28 メタクサ(ギリシャのブランデー系リキュール)38-40%
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在庫切れリンクサス入荷通知 価格を見るAmazon 楽天で探す 商品名検索 査定 買取
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フランス語で「金の腕」を意味する終売の希少コニャック。

¥13,200リンクサス最安 価格を見るAmazon 楽天で探す 商品名検索 査定 買取

価格は各モールの実勢(2026年6月時点)で、ブランデーはいずれもオープン価格のためメーカー定価は掲載していません。楽天/Amazon価格は同一品が見つからない場合は空欄になります。在庫・価格は変動するため、最新情報は各リンク先でご確認ください。最安値を保証する一覧ではありません。

瓶に詰めると「サイドカー」は空想的名称になる

瓶に詰めると「サイドカー」は空想的名称になる
ラベルの上での名前の置き場所

ここからが本題です。「サイドカー」という名前そのものが、ラベルの上でどう扱われるかを見ます。既製のカクテルが瓶や缶で売られている以上、机上の話ではありません。米国の連邦規則集第27編は酒類のラベルを部ごとに分け、蒸留酒は第5部です。

「カクテルの名前でもよい」と条文に書いてある

第5.156条は「蒸留酒の特殊製品」という受け皿を用意しています。柱書はDistilled spirits that do not meet one of the other standards of identity specified in this subpart are distilled spirits specialty productsと始まり、そうした製品はmust be designated in accordance with trade and consumer understanding, or, if no such understanding exists, with a distinctive or fanciful nameと続きます。取引上の理解が第一順位で、空想的名称はその次善です。

distinctive or fanciful name (which may be the name of a cocktail) appearing in the same field of vision as a statement of composition

27 CFR 5.156(a)(蒸留酒の特殊製品)

括弧の中が要点です。連邦規則そのものが、空想的名称としてカクテルの名前を使ってよいと明記している。第5部の全文で「cocktail」が現れるのは三か所、一つがこの括弧です。

残る二か所は第5.166条です(一つは(b)の見出し語)。同条(b)は組成表示についてwill be deemed a sufficient statement of composition in the case of highballs, cocktailsと定め、when the designation adequately indicates to the consumer the general character of the productという条件を付けます。名前の隣に使った蒸留酒の区分を書き、それで製品の性格が伝われば足りる、という設計です。

「同じ視野の中」という条件と、名前の四つの区分

第5.156条は空想的名称を組成表示と「同じ視野の中(same field of vision)」に置けと求めます。この語を定義するのは第5.63条(a)で、a single side of a container (for a cylindrical container, a side is 40 percent of the circumference)。名前だけ大きく、組成は裏面に小さく、という置き方は通りません。

ラベルの上の名前は四つに分かれます。銘柄名、区分と種類の表示、組成表示、そして空想的名称。第5.1条の定義がその四つ目についてこう書いています。

It does not include a brand name, class or type designation, or statement of composition.

27 CFR 5.1「Distinctive or fanciful name」の定義

「サイドカー」は第四の名前として置かれる。ただし歯止めはあります。同じ第5.156条はA product may not bear a designation which indicates it contains a class or type of distilled spirits unless the distilled spirits therein conform…とも書き、コニャック入りと読める表示なら中身も本当にコニャックでなければなりません。銘柄名の側には第5.64条(b)があり、any erroneous impression or inference as to the age, origin, identity, or other characteristics of the distilled spiritsを与える名前は使えません。

中身がワインなら、同じ名前が銘柄名から締め出される

中身がワインなら、同じ名前が銘柄名から締め出される
ワインの部と蒸留酒の部の境目

ここで対になるのが第4部です。第4部はワインのラベルを規律します。適用範囲は第4.6条に一行で置かれていて、The regulations in this part apply to wine containing not less than 7 percent and not more than 24 percent alcohol by volume.

マンハッタン、マティーニ、ダイキリ

その第4.39条(a)はラベルに置いてはならない事項を並べた条文です。第9号はAny word in the brand name or class and type designation which is the name of a distilled spirits productany product customarily made with a distilled spirits baseを思わせる語を禁じ、例を三つの群に分けて挙げます。引用は第一群です。

Examples of such words are: “Manhattan,” “Martini,” and “Daquiri” in a class and type designation or brand name of a wine cocktail

27 CFR 4.39(a)(9)(ワインの禁止表示)

このあと「Cuba Libre」「Zombie」「Collins」の群、「creme」「cream」「de」「of」の群が続きます。第4部の全文で「cocktail」が出てくるのはこの一か所だけです。同じ第27編、同じ財務省アルコール・タバコ税貿易管理局(TTB)の規則が、蒸留酒の部ではカクテル名を明文で許し、ワインの部では銘柄名と区分表示から名前を挙げて締め出している。禁じる理由も条文に書いてあります。蒸留酒を使った製品だという印象を与えるから、です。

ただし禁じられているのは銘柄名と区分・種類の表示に使うことです。ワインの側にも空想的名称の枠はあり、第4.34条(a)はthere may be stated a distinctive or fanciful nameと書きます。網が掛かるのは名前を置く場所です。ただし同条(a)は九号あり、第1号の包括禁止(誤認を生む表示)は場所を問わず残ります。

分かれ目になる四つの数字

では、瓶に詰めたサイドカーはどちらの部に落ちるのか。分岐は第5.1条の「distilled spirits」の定義です。除外は二つあり、一つ目がこれ。

does not include mixtures containing wine, bottled at 48 degrees of proof (24 percent alcohol by volume) or less, if the mixture contains more than 50 percent wine on a proof gallon basis

27 CFR 5.1「Distilled spirits」の定義

働く条件は二つで、両方満たしたときだけ第5部から外れます。(1)二十四パーセント以下で瓶詰め、(2)プルーフガロン換算でワインが五十パーセント超。二つ目の除外は独立していて、also does not include products containing less than one degree of proof (0.5 percent alcohol by volume)

公式配合のサイドカーは三十一・一パーセントでワインは入りません。どの除外にも当たらないので第5部の側です。同じ名前でワインをベースに軽く仕立て、二十四パーセント以下でワイン五十パーセント超に作れば、第4部へ移り第4.39条(a)(9)の網に入ります。銘柄名に刷れるかどうかが、度数とワインの割合という二つの数字で反転する

表2 同じ「サイドカー」という語の扱いが分かれる境目
中身 適用される部 銘柄名・区分表示への使用 根拠
蒸留酒ベース(公式配合=31.1%・ワイン0) 第5部 空想的名称として使える 第5.156条(a)
24%以下かつワインが50%超 第4部(7〜24%) 使えない(空想的名称の枠は別にある) 第5.1条/第4.6条/第4.39条(a)(9)/第4.34条(a)
24%以下だがワインは50%以下 第5部 空想的名称として使える 第5.1条(一つ目の除外は両方を満たすときのみ)
0.5%未満 どちらでもない 規定が及ばない 第5.1条(二つ目の除外)
7%未満のワイン(蒸留酒を含まない) どちらでもない 規定が及ばない 第4.6条

「コニャック」は第5部の三つの条にだけ出てくる

「コニャック」は第5部の三つの条にだけ出てくる
地名がラベルで受ける三通りの扱い

IBAの公式レシピは、ベースを「ブランデー」ではなく「Cognac」と書いています。地名です。この語が米国の蒸留酒ラベル規則にどう現れるかを数えると、第5部の全文で十五回、出てくる条は三つだけ。第5.30条に十一回、第5.145条に三回、第5.155条に一回です。

定義そのものはフランスの法令に委ねられている

第5.145条はブランデーの種類を第(c)(1)号から第(c)(13)号まで十三に分けています。第2号がコニャックで、標準の欄はこれだけです。

Grape brandy distilled exclusively in the Cognac region of France, which is entitled to be so designated by the laws and regulations of the French government.

27 CFR 5.145(c)(2) Cognac の欄

一文です。品種も蒸留の回数も熟成年数も樽の材質も書かれていません。ただしこれはコニャックに限った書き方ではありません。第3号アルマニャックはGrape brandy distilled exclusively in France in accordance with the laws and regulations of France…、第4号はスペイン、第5号カルヴァドスはフランス、第6号ピスコはペルーかチリ、第7号シンガニはボリビア。第(c)(2)号から第(c)(7)号までの六つが、どれも「その国の法令に従って」の一文で済ませた委任型です。当店の比較表にもアルマニャック、カルヴァドス、ピスコが並びます。委任そのものはコニャックの特徴ではありません。

通関にはフランス政府の証明書が要る

違いは残る二条です。第5.30条(b)はBrandy (other than fruit brandies of a type not customarily stored in oak containers) or Cognacについてcertifying that the age of the youngest brandy or Cognac in the container is not less than 2 years…(またはラベル表示の年数を下回らないこと)を証明する書面を求めたうえで、コニャックだけを名指しで書き足します。

Cognac, imported in bottles, is not eligible for release from customs custody ... unless the person so removing the Cognac possesses a certificate issued by an official duly authorized by the French Government, certifying that the product is grape brandy distilled in the Cognac region of France

27 CFR 5.30(b)(ブランデー及びコニャック)

フランス政府の役人が発行した証明書が無ければ税関から出せない。同条(f)もDistilled spirits (other than Scotch, Irish, and Canadian whiskies, and Cognac) imported in containersと書いてコニャックを一般規定から外します。委任型の六つで、名前を挙げた証明書の規定を持つのはコニャックだけです(テキーラには同条(d)が別にあります)。

足してよいのはカラメルとオークチップと砂糖だけ

三つ目の第5.155条は、何を足せば区分と種類の表示が変わるかを決めます。原則は(b)(2)で、do not total more than 2.5 percent by volume of the finished product。例外を並べた(c)は六号あり、第2号がこれです。

Any material, other than caramel, infusion of oak chips, and sugar, added to Cognac brandy

27 CFR 5.155(c)(2)(区分及び種類の変更を要する場合)

カラメルとオークチップと砂糖の三つ以外を足したら表示を変えなければならない。ブランデーの十三の型のうち名指しされているのはコニャックだけです。ただし二・五パーセントの余地を失うのはコニャックに限らず、(c)(3)はAny material whatsoever added to neutral spirits or straight whisky…と書き、中性スピリッツとストレートウイスキーからはもっと厳しく取り上げています(ウォッカには砂糖二グラム毎リットルなどの例外つき)。

表3 第5部で「Cognac」の語が出てくる三つの条
出現数 何を決めているか
第5.30条(輸入品の年齢・原産地証明) 11回 フランス政府の証明書がなければ通関から出せない/一般規定からは名指しで除外
第5.145条(ブランデーの同一性の基準) 3回 種類の一つとして掲げるが、内容はフランスの法令に委任
第5.155条(区分と種類の変更) 1回 カラメル・オークチップ・砂糖以外を足したら表示を変える(十三の型で名指しはこれだけ)

なお地名が一般名詞になったと認められれば話は別です。第5.154条(a)(2)はその例としてExamples are London dry gin, Geneva (Hollands) gin.を挙げますが、コニャックは挙がっていません。

「トリプルセックに法的な定義は無い」はどこまで本当か

「トリプルセックに法的な定義は無い」はどこまで本当か
オレンジリキュールの一般名をめぐって

IBAは二番目の材料を「Triple Sec」という一般名で書いています。その一般名に中身の決まりはあるのか。作り手の側は「無い」と言います。

二つのブランドが揃って「一般名だ」と言う

グラン マルニエの公式FAQは「グラン マルニエはトリプルセックですか」にこう答えます。

No. Triple sec is the generic name for any orange liqueur.

Grand Marnier 公式FAQ「Is Grand Marnier triple sec?」

コアントローの公式ページもtriple sec is a generic term for any orange-flavored spirit without any regulations around quality or production methodと書き、there is no worldwide official legal definitionとも書きます。自社についてはCointreau is more than a triple secという立場で、一八八五年に登録した商標名もa term abandoned over timeと説明しています。

名前で受けている法令は、米国の規則だけ

そこで三つの法域の条文を全文で検索しました。日本の酒税法に「トリプルセック」も「キュラソー」も零件。EUの蒸留酒規則(規則(EU)2019/787)官報版でも零件で、受け皿は附属書Iの区分33「リキュール」だけ。区分33は最低度数をThe minimum alcoholic strength by volume of liqueur shall be 15 %.と定め、糖分の下限を100 grams per litre in all other casesとします。

ところが米国の第5.150条には、名前で受けた行があります。同条(b)はコーディアルとリキュールの任意の型を十二並べ、その第10号の型名がTriple Sec and Curacao、規則の欄がこれです。

Orange flavored liqueurs/cordials. Curacao may be preceded by the color of the liqueur/cordial (for example, Blue Curacao).

27 CFR 5.150(b)(10) Triple Sec and Curacao の欄

(b)(10)の欄に書かれた決まりは「オレンジ風味であること」だけで、度数の下限もありません(同じ表の(b)(2)と(b)(4)は三十パーセント、(b)(3)は二十四パーセントの下限を持ちます。クラス共通の砂糖二・五パーセント以上は別に掛かります)。それでもこの語を条文に書いて受けているのは、調べたかぎり米国の規則だけでした。

コアントロー自身もそれを知っています。「世界共通の法的定義は無い」の一文には注記番号が振られ、中身はExcept in the USA where it is considered as an orange liqueur.公式が自ら米国を例外として断っている。その例外の正体が第5.150条(b)(10)です。

もう一語「キュラソー」は日本の官庁文書には名前で出ます。税関の関税率表解説は第22.08項でリキュールの例を並べ、そこにキュラソー(苦味オレンジの皮から得られるもの)と書いています。名前で受けていないのは酒税法の側です。

砂糖の下限は法域ごとにまるで違う

第5.150条(a)はコーディアルとリキュールの一般条件として砂糖をnot less than 2.5 percent by weight of the finished productと求め、さらにThe designation of a cordial or liqueur may include the word “dry” if sugar is less than 10 percent by weight of the finished product.とも書いています。「ドライ」と名乗れるのは十パーセント未満のときだけです。

EUの区分33は一リットルあたり百グラム。日本の酒税法はエキス分二度以上で、これは糖に限らない不揮発性成分の量です(百立方センチメートル中二グラム)。米国だけが重量パーセントなので、並べるには比重が要ります。コアントローの公表値は三十ミリリットルあたり炭水化物六・八グラムで、一リットルなら二百二十七グラム前後。EUの百グラムは大きく超えますが、米国の重量基準との厳密な比較は比重が公表されていないためできません。

表4 「トリプルセック」を三つの法域で探した結果
法域 「トリプルセック」の語 受け皿の区分 糖分・エキス分の下限
日本(酒税法) 0件 リキュール エキス分2度以上(糖に限らない)
EU(規則2019/787) 0件 附属書I 区分33 リキュール 1リットルあたり100グラム(原則)
米国(27 CFR 5.150) (b)(10)に型名として記載 コーディアル及びリキュール 完成品の重量で2.5パーセント以上

ブランデーと名乗る二つの数字|四十と九十五

ブランデーと名乗る二つの数字|四十と九十五
下限と上限の両方から挟む書き方

比較表の三十本のうち二十三本が「40%」ちょうどでした。出どころは第5.145条(a)です。

distilled at less than 95 percent alcohol by volume (190° proof) ... and bottled at not less than 40 percent alcohol by volume (80° proof)

27 CFR 5.145(a)(ブランデーの区分)

数字が二つあります。蒸留するときは九十五パーセント未満、瓶詰めするときは四十パーセント以上。上下の両方から挟む書き方です。二十三本が四十に集まるのは、下限がそのまま実勢になっているからだと読めます。

逆に、比較表で「38〜50%」「38〜40%」と幅で書かれた二本には、この下限を割る個体がありえます。三十八パーセントで瓶詰めされたものは(a)の区分に当たらないので「brandy」と名乗れません。甘味の量によっては第5.150条のコーディアル及びリキュールに、どれにも当たらなければ第5.156条の特殊製品になります。第5.145条(b)のmust be designated on the label as “brandy” followed immediately by a truthful and adequate statement of compositionという定めが受けるのは、度数は満たすが十三の型のどれにも当てはまらないブランデーです。

この四十は米国の規則の線です。EUの蒸留酒規則は同じブランデーに別の数字を置き、附属書I区分5はThe minimum alcoholic strength by volume of brandy or Weinbrand shall be 36 %.と定めます。同じ「ブランデー」でも、下限の数字は法域ごとに違います。

プルーフという単位と、±〇・三ポイントの許容差

条文が「(80° proof)」と併記しているとおり、米国にはプルーフという単位が併走します。第5.1条の定義はThe ethyl alcohol content of a liquid at 60 degrees Fahrenheit, stated as twice the percentage of ethyl alcohol by volume.。摂氏に直すと十五・五六度、数値は容量パーセントのちょうど二倍です。グラン マルニエのFAQが二つ並べるのも、この定義に沿った書き方です。

表示された度数と実際の度数の食い違いも織り込まれています。第5.65条(c)です。

A tolerance of plus or minus 0.3 percentage points is allowed

27 CFR 5.65(c)(許容差)

四十パーセントと書いてあれば三十九・七から四十・三までは許される。ラベルの度数は測定値そのものではなく、幅を持った申告値です。カクテルの度数を小数第一位まで出しても、材料側にこの幅が残ります。

レモン果汁だけが、第5部に居場所を持たない

レモン果汁だけが、第5部に居場所を持たない
混ぜた時点で区分が変わる

コニャックには三つの条、トリプルセックには一行の型名がありました。三つ目のレモン果汁はどうか。第5部は蒸留酒のラベルの規則なので、果汁そのものの規格はここになく、関わるのは「足したときにどうなるか」だけです。

第5.155条(b)(2)の二・五パーセントの枠は、香味料などを足しても区分が変わらない範囲です。サイドカーはレモン果汁が全体の二十二・二パーセントを占めるので収まりません。混ぜた時点でブランデーではなくなります。甘味の量次第で第5.150条のリキュールに、どれにも当たらなければ第5.156条の特殊製品。後者の帰結が「空想的名称+組成表示」です。組成表示に求められるのはthe statement must be truthful and adequateという水準ですが、強制記載事項なので第5.52条の可読性と第5.53条の最小文字高(二百ミリリットルを超える容器で二ミリ)が掛かります。

度数と一杯の重さを、公表値ではなく材料から出す

度数と一杯の重さを、公表値ではなく材料から出す
二つの流儀を同じ式で計算する

カクテルの度数は「材料ごとの(量×度数)を足して完成量で割る」だけで出ます。氷の融解は入りません。

表5 二つの流儀で計算したサイドカーの度数と純アルコール量
流儀 分量 完成量 度数 純アルコール量(比重0.8)
IBA公式 50 / 20 / 20 ml 90ml 31.1% 22.4g
日本で広い二対一対一 30 / 15 / 15 ml 60ml 30.0% 14.4g
30ml 1.1ポイント 8.0g

度数の差は一・一ポイントなのに、一杯で体に入る純アルコールは八グラム違います。度数の大小と一杯の重さの大小は別の話です。厚生労働省のガイドラインは生活習慣病のリスクを高める量を1日当たりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上としており、公式配合の一杯二十二・四グラムは女性の線を超えます。同ガイドラインはこれらの量は個々人の許容量を示したものではありません。とも明記しています。

飲まないブランデー・洋酒の査定・買取はリンクサスへ

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サイドカーのよくある質問

サイドカーのよくある質問
分量と表示についてよく届く質問
サイドカーの公式レシピの分量を教えてください。

国際バーテンダー協会の公式ページでは、コニャック50ミリリットル、トリプルセック20ミリリットル、レモン果汁20ミリリットルです。合計90ミリリットルで、十で割ると5対2対2。手順は「材料をすべてシェーカーに入れ、氷とよく振り、冷やしたカクテルグラスに漉す」の一文で、飾りの欄は「N/A」です。

サイドカーの度数はどのくらいですか。

材料から計算すると31.1パーセントです。コニャックもトリプルセックも40パーセントなので、酒の量70ミリリットル×0.40=28ミリリットルを完成量90ミリリットルで割った値です。振って溶けた氷の分は入っていません。日本式の2対1対1(30・15・15)なら30.0パーセント。

黄金比は5対2対2と2対1対1のどちらが正しいのですか。

どちらか一方が公式ということはありません。国際バーテンダー協会が公開しているのは50・20・20で、十で割ると5対2対2。日本の教本や国産メーカーのレシピは2対1対1を挙げるものが多く、酸味と甘味の比率が高くなります。度数はほぼ同じで、飲みくらべて選べる部分です。

瓶詰めのカクテルに「サイドカー」という名前を付けてよいのですか。

米国の連邦規則第27編第5.156条は、蒸留酒の特殊製品について、取引上・消費者の理解に従って表示するか、その理解が無ければ「空想的名称(カクテルの名前でもよい)を組成表示と同じ視野の中に置く」と定めています。カクテル名を使うこと自体は明文で認められています。ただし同条は、ある区分の蒸留酒を含むと示す表示は中身がその区分に適合していなければならないとも定め、第5.64条(b)は誤認を生む銘柄名を禁じています。

ワインベースのカクテルでも同じ名前を使えますか。

米国では扱いが変わります。第4部(アルコール分7〜24パーセントのワインが対象)の第4.39条(a)(9)は、蒸留酒の製品名にあたる語をワインの銘柄名や区分表示に使うことを禁じ、例として「Manhattan」「Martini」「Daquiri」を挙げます。第4部に落ちるのは、24パーセント以下かつプルーフガロン換算でワインが50パーセント超のときです。なお空想的名称の枠自体はワインにもあります(第4.34条(a))。

トリプルセックとコアントローは同じものですか。

コアントローはブランド名、トリプルセックは一般名です。グラン マルニエの公式FAQは「トリプルセックはあらゆるオレンジリキュールの一般名だ」と説明し、コアントロー公式も同じ立場を取っています。法令の側では、日本の酒税法にもEUの蒸留酒規則にも「トリプルセック」の語はなく、米国の27 CFR 5.150(b)(10)だけが型名として掲げています。

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