ヴェスパーとは|作り方と度数、マティーニとの違いと十ルクスの席

ヴェスパーは、バーで生まれた一杯ではありません。小説の中で、カジノの卓を離れた男が、バーテンダーに配合を口で指定して生まれた一杯です。だからこの飲みものの正体は、材料でも技法でもなく「どこで頼まれたか」にあります。では、その場所を日本の法律で作るとどうなるのか。カジノを解禁した法律を全文で検索すると、十三万四千字のどこにも「酒」の字がありません。そのかわり、あなたのグラスが置かれる面の明るさが、数字で決められています。この記事では、作り方と度数とマティーニとの違いを整理したうえで、この一杯が置かれる場所の決まりを条文から読んでいきます。

ヴェスパーとは|小説の中で生まれ、カジノの卓で頼まれた一杯

ヴェスパーとは|小説の中で生まれ、カジノの卓で頼まれた一杯
開いた本とグラスを並べた参考画像

先に答え|三つの材料と、ひとつの場所

ヴェスパーは、ジンとウォッカを同じグラスに入れ、ベルモットの代わりにリレ・ブランで香りを付けて、シェイクで仕上げる辛口のショートカクテルです。マティーニの派生と紹介されますが、ベースが二本ある点、割り材が違う点、混ぜ方が違う点で三つとも外れています。決まりごとを三つとも踏み外した一杯、と言ったほうが近い。

もうひとつ、この一杯には他のカクテルに無い特徴があります。生まれた場所が書かれていることです。イアン・フレミングが一九五三年に発表した小説『カジノ・ロワイヤル』で、主人公はバカラの卓を離れたあと、バーテンダーに配合を口で指定します。ジンを三、ウォッカを一、キナ・リレを二分の一。氷のように冷えるまでよく振り、大きく薄いレモンピールを添える。名前は同じ物語のヴェスパー・リンドから取られました。

つまりこの飲みものは、バーで生まれてカジノに運ばれたのではなく、カジノで生まれてバーに広がりました。順番が逆です。だとすれば、その卓とそのカウンターが制度の上でどう扱われるのかを見たほうが早い。

名前は、夕方を指す言葉でもある

ヴェスパー(Vesper)はラテン語で夕方、あるいは宵の明星を指す語です。小説では人の名前ですが、語そのものは時刻の言葉でもあります。夕方に始まり夜のあいだ続く場所で頼まれる一杯に、時刻の名前が付いた。偶然ですが、後半で扱う制度の側も時刻の話を書き込んでいます。

ちなみに、キナ・リレは今のリレ・ブランとは別ものです。製造元は一九八五年に経営が代わり、翌一九八六年に配合を見直した製品を「リレ・ブラン」の名で出し直したと伝えられます。「キナ」の語はこのとき外れ、キニーネ由来の苦味と甘さが減ったとも言われます。原作どおりの味を再現できないと言われるのは、この経緯によります。キニーネそのものはジントニックとウォッカトニックで扱いました。

この記事が扱う範囲と、扱わない範囲

扱うのは二つです。ひとつは作り方・度数・マティーニとの違いという実用面。もうひとつは、カジノという場所を日本の制度がどう作っているかという面です。後者では、特定複合観光施設区域整備法(平成三十年法律第八十号。以下「法」)、同施行令、カジノ管理委員会関係特定複合観光施設区域整備法施行規則(令和三年カジノ管理委員会規則第一号。以下「規則」)、ギャンブル等依存症対策基本法、刑法の五つを、e-Govの条文で読みます。

扱わないのは、賭けの是非そのものと、施設の誘致をめぐる議論です。数え方は、附則と別表と様式まで含めた全文から空白を除いた文字列に対して行いました。

作り方と分量|ジン三・ウォッカ一・リレ・ブラン二分の一

作り方と分量|ジン三・ウォッカ一・リレ・ブラン二分の一
カクテルづくりの道具を並べた参考画像

一杯分の分量表と手順

小説の指定は「三・一・二分の一」という比率だけで、一メジャーが何ミリリットルかは書かれていません。一メジャーを三十ミリリットルとして置くと、次のようになります。

材料 比率 分量(1メジャー30mLとした場合) 度数の目安
ドライジン 3 90mL 47%
ウォッカ 1 30mL 40%
リレ・ブラン 0.5 15mL 17%
合計 4.5 135mL 後述

手順は四つです。グラスと材料をよく冷やす。三つをシェイカーに入れ、氷とともに強く振る。冷えたカクテルグラスに注ぐ。大きく薄く切ったレモンピールを絞りかけ、そのまま添える。ステアではなくシェイクである点が、他のマティーニ系と決定的に違います。

合計から度数を試算する

純アルコールの量は、九十掛ける〇・四七で四十二・三ミリリットル、三十掛ける〇・四で十二ミリリットル、十五掛ける〇・一七で二・五五ミリリットル。合わせて五十六・八五ミリリットルです。加水前の百三十五ミリリットルで割ると四十二・一パーセントになります。ここにシェイクの加水が入ります。

加水率(仮定) 仕上がり量 仕上がりの度数
0%(加水なし) 135mL 42.1%
25% 168.75mL 33.7%
30% 175.5mL 32.4%
40% 189mL 30.1%

加水率は氷の状態と振り方で変わるので、この表は仮定の置き方を見せるためのものです。それでも三十パーセント台に着地することは動きません。一杯で日本酒二合前後の純アルコールを含む計算になります。見た目の涼しさと中身が一致していない飲みものだということは、先に知っておいたほうがいい。体の側の話はアルコールの分解で扱っています。

リレ・ブランが手に入らないとき

リレ・ブランは柑橘の香りを持つアペリティフワインです。手に入らない場合は、性格の近いアロマタイズドワインで代えられます。ベルモットのドライタイプを使うと、それはもうヴェスパーというよりウォッカを足したマティーニに近づきますが、飲みものとしては成立します。原作の苦味に寄せたいときは、苦味のあるリキュールをごく少量足す作り方も知られています。

ベースの選び方は、ジンの香りをどこまで前に出すかで決まります。ジュニパーの太い銘柄なら比率どおりでよく、柑橘寄りなら仕上げのレモンピールを控えめにする。ジンとウォッカの性格は別記事に、二つの違いはジンとウォッカの違いにまとめました。

ヴェスパーとあわせて選びたい関連商品ラインナップ
棚に並ぶスピリッツの参考画像

ベースが二本必要なので、最初の一本を選ぶ順番が悩みどころです。まずジンを決め、次にウォッカを合わせるのが作りやすい。その他スピリッツの棚から、香りの方向が違う二本を選ぶと比較が楽になります。

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ここではテキーラ・メスカル(その他スピリッツ)の在庫から一部を掲載しています。価格・在庫・箱の有無は各商品ページでご確認いただけます。

ベースに使うジン・ウォッカ三十銘柄を比較

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各種スピリッツのボトルを並べた参考イラスト

下の表は、ベースに使えるジン十五銘柄とウォッカ十五銘柄です。度数と容量は銘柄ごとに違うので、前章の試算はそのまま当てはまりません。四十度台後半のジンを選ぶと、仕上がりは表の数字より一段上がります。

ヴェスパーのベースに使いたいジン・ウォッカ30銘柄 比較表|ロンドンドライ・プレミアムウォッカを飲み比べ
ヴェスパーはジンとウォッカを併用する珍しいマティーニの派生で、味の方向性はベースに選ぶ二つのスピリッツでほぼ決まる。この比較表では、ヴェスパーの土台に向くジン15銘柄(ロンドンドライの定番タンカレー・ビーフィーター・ボンベイサファイア、個性派ヘンドリックス・モンキー47・ザ・ボタニスト、和ジンの季の美・ROKU六)と、ウォッカ15銘柄(クリア系の定番スミノフ・アブソルート・ストリチナヤ・ティトス、プレミアムのグレイグース・ベルヴェデール・ケテルワン・シロック、個性派ズブロッカ)を横断比較する。度数・味わいタイプ・楽天/Amazonの購入先を一覧でき、表上部のタブで『おすすめ順』『価格順』に並べ替えできる。ジン・ウォッカの多くはオープン価格のため定価は非掲載とし、市場相場の目安のみを表示している(2026年6月時点)。
画像 銘柄・スコア 定価
市場相場
特徴 リンクサス酒販
本命
Amazon 楽天 買取
季の美 京都ドライジン 700ml 45%1位 季の美 京都ドライジン 700ml 45%
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桜花・煎茶・山椒など6種の和素材。47度の立体的な香味が持ち味。

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タンカレー ロンドンドライジン 750ml 47.3%3位 タンカレー ロンドンドライジン 750ml 47.3%
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バーの定番ロンドンドライ。キレのあるジュニパーが輪郭をつくる。

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黒い森の47種ボタニカル。圧倒的な複雑さを持つプレミアム。

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ロンドンのクラフト復興を牽引した小規模蒸留。端正で正統な味わい。

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ジン マーレ 700ml 42.7%14位 ジン マーレ 700ml 42.7%
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オリーブ・ローズマリー・バジルが香る地中海ジン。塩気とハーブが個性。

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No.3 ロンドンドライジン 700ml 46%15位 No.3 ロンドンドライジン 700ml 46%
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ロンドンの老舗酒商が手がける王道。ジュニパー主体の直球。

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スミノフ レッド No.21 750ml16位定番 スミノフ レッド No.21 750ml
市場相場1,000〜1,500円台(750ml・実勢・2026年6月時点)

クセのない世界標準。ウォッカカクテル全般の定番ベース。

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アブソルート ウォッカ 750ml17位定番 アブソルート ウォッカ 750ml
市場相場1,400〜1,900円台(750ml・実勢・2026年6月時点)

なめらかでクリーン。香りを邪魔しない万能ベース。

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ストリチナヤ プレミアム 750ml18位定番 ストリチナヤ プレミアム 750ml
市場相場1,500〜2,100円台(750ml・実勢・2026年6月時点)

伝統的なロシア系の定番。穀物の旨みがのる辛口。

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ティトス ハンドメイド 750ml19位定番 ティトス ハンドメイド 750ml
市場相場2,200〜3,000円台(750ml・実勢・2026年6月時点)

コーン原料のクラフト人気。やわらかな甘み。

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20位定番 ヴィボロワ 700ml
市場相場1,300〜1,800円台(700ml・実勢・2026年6月時点)

ポーランドのライ麦ウォッカ。キレのある辛口。

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グレイグース 700ml21位限定 グレイグース 700ml
市場相場4,500〜6,000円台(700ml・実勢・2026年6月時点)

フランス産小麦の上質ウォッカ。なめらかで華やか。

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ベルヴェデール 700ml22位限定 ベルヴェデール 700ml
市場相場4,500〜6,000円台(700ml・実勢・2026年6月時点)

ポーランドの高級ライ麦ウォッカ。豊かなコク。

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ケテル ワン 700ml23位限定 ケテル ワン 700ml
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オランダ老舗の小麦ウォッカ。すっきり上質。

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シロック 750ml24位限定 シロック 750ml
市場相場4,500〜6,000円台(750ml・実勢・2026年6月時点)

ブドウ原料の珍しいウォッカ。フルーティで華やか。

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フィンランディア 700ml25位定番 フィンランディア 700ml
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氷河水仕込みの北欧ウォッカ。澄んだ味わい。

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アブソルート シトロン 750ml26位定番 アブソルート シトロン 750ml
市場相場1,600〜2,200円台(750ml・実勢・2026年6月時点)

レモン風味。柑橘の香りを重ねたい一杯に。

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27位定番 スミノフ ライム 750ml
市場相場1,200〜1,700円台(750ml・実勢・2026年6月時点)

ライム風味。割るだけで本格的な香り。

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ズブロッカ バイソングラス 700ml28位定番 ズブロッカ バイソングラス 700ml
市場相場1,500〜2,100円台(700ml・実勢・2026年6月時点)

桜餅のような香りの個性派。変わり種の一杯に。

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スカイ ウォッカ 750ml29位定番 スカイ ウォッカ 750ml
市場相場1,500〜2,100円台(750ml・実勢・2026年6月時点)

青ボトルのアメリカンウォッカ。クリーンで軽快。

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30位定番 ロシアン スタンダード オリジナル 700ml
市場相場1,600〜2,200円台(700ml・実勢・2026年6月時点)

本場ロシアの定番。バランスのよい辛口。

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ジン・ウォッカの多くはメーカー希望小売価格を公表しない「オープン価格」のため、定価(list_price)は掲載せず市場相場の目安のみを記載しています(2026年6月時点の実勢)。プレミアムウォッカ(グレイグース・ベルヴェデール・シロック)やクラフトジン(モンキー47・季の美)は価格変動があります。楽天/Amazon価格は各モールの実勢で、同一銘柄・容量が見つからない場合は空欄となります。ヴェスパーはジンを主体にウォッカを少量加える配合のため、まずは香りの土台となるジンを基準に選ぶとまとまりやすくなります。アルコール度数はメーカー公表値・ラベル表記に基づきますが、製造ロットにより前後する場合があります。

マティーニとの違いは三つある

マティーニとの違いは三つある
バースプーンで混ぜる手元の参考画像

一つめ|ベースが二本あること

マティーニのベースはジン一本です。ヴェスパーはジンとウォッカを同時に使います。これは味の話であると同時に分類の話でもあり、ジンベースの棚にもウォッカベースの棚にも置けてしまう。カクテルの種類の整理でも座りが悪い一杯です。

量の上ではジンが主役ですが、ウォッカが四分の一近く入るとジュニパーの角が丸くなります。ウォッカは味を足すのではなく、ジンの輪郭を削るために入っていると考えるとわかりやすい。

二つめ|ベルモットではないこと

マティーニの割り材はドライベルモットで、ヴェスパーはリレ・ブランです。どちらもワインをベースにした香味付きの酒ですが、ベルモットがニガヨモギ系の苦味を軸にするのに対し、リレは柑橘の皮の香りが前に出ます。足している方向が違う。

しかもリレは二分の一メジャー入ります。ドライマティーニのベルモットが十分の一以下になることもあるのを思えば、ワインの側の材料をかなり多めに入れる配合です。辛口に見えて、割り材の存在感がある。

三つめ|ステアではなくシェイクであること

マティーニはステアが基本です。ヴェスパーは原作が「氷のように冷えるまでよく振れ」と指定します。シェイクすると空気を含んで口当たりが変わり、氷の角が削れて加水が増えます。ギムレットのようにシェイクが標準のカクテルもあるので技法自体は珍しくありません。珍しいのは、ジンベースのショートカクテルでこれをやることです。

ベースを増やし、割り材を替え、混ぜ方を変える。三つのうち一つでも戻せばマティーニに近づきます。マンハッタンのようにベースを替えただけで別の名前が付いた例と比べると、変え方が欲張りです。

カジノを作る法律に「酒」の字は一度も出てこない

カジノを作る法律に「酒」の字は一度も出てこない
書きかけの紙とグラスを並べた参考画像

十三万四千字と、〇回

日本でカジノを解禁したのは、特定複合観光施設区域整備法です。二〇一八年に成立し、本則だけで二百五十一条。附則と別表と様式まで含めた全文から空白を除くと十三万四千六十字です。この中に「酒」という字は一度も出てきません。施行令も同じで、二万四百二十四字に「酒」は〇回です。

法令 全文字数(空白除く) 「酒」 「アルコール」 「賭博」 「カジノ」
特定複合観光施設区域整備法 134,060 0 1 0 1,651
同施行令 20,424 0 0 0 62
カジノ管理委員会規則 323,046 8 1 0 1,521
ギャンブル等依存症対策基本法 7,264 0 4 0 0
刑法 51,119 0 1 4(※) 0

飲むことに近い語を探しても、法の中で「飲食」が出るのはただ一か所、第二条第十一項第一号です。カジノ行為区画の中で認められる業務を並べた条文の、その第一号にあります。

設備を設けて飲食物の提供をする業務であって、次のイ又はロのいずれにも該当しないもの

特定複合観光施設区域整備法 第二条第十一項第一号

定義されているのは「カジノ行為区画内関連業務」です。柱書は顧客の利便性の向上を図るためカジノ行為区画において顧客に対して行う次に掲げる業務及びこれらに附帯する業務と書きます。バーもレストランも、この法律の中では賭けの場に付随する利便性の話として置かれている。名前は「飲食物の提供」であって、酒ではありません。

「アルコール」が出てくるのは、飲む側ではない

法の中に「アルコール」は一度だけ現れます。ただしそれは客の話ではありません。第四十一条第二項第二号、カジノ事業の免許を与えてはならない場合を並べた条の、役員の欠格事由の中にあります。

アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者

特定複合観光施設区域整備法 第四十一条第二項第二号イ(7)

並んでいるのは麻薬と大麻とあへんと覚醒剤です。ここでのアルコールは、飲みものとしてではなく依存の対象として名指しされている。しかも向けられている相手は、カジノに来る人ではなく営む側です。法第百二十一条第一項第二号は同じ(7)を引いて、カウンターに立つ従業者にも同じ線を引きます。一方、入場規制の法第六十九条第二号が同じ一覧から引くのは(8)の暴力団員だけで、(7)は引きません。飲む側については、法は最後まで何も言いません。

規則の八回は、同じ一文の繰り返し

降りた先の規則には、「酒」が八回出てきます。ところがこれは八つの規定ではありません。四か所に置かれた同じ一文の中に、「酒類」という語が二回ずつ入っているだけです。

ロ 酒類を提供する場合にあっては、酒類の提供の方針及びその周知方法

カジノ管理委員会関係特定複合観光施設区域整備法施行規則 第八条第二項第四号ロ/同項第六号ロ/第九十一条第一項第四号ロ/同項第六号ロ

第八条は免許の申請、第九十一条は業務の承認の条で、どちらも申請書の記載事項を列挙しています。直前のイは、第四号が提供する飲食物の種類及びその提供の方法、第六号が給付する物品の種類です。酒は、飲食物の一種としてと、配る物品の一種として、二度ずつ拾われている。

そしてロで求められているのは「方針及びその周知方法」だけです。一人あたりの上限も、度数の上限も、提供できる量の目安も、法と施行令と規則を合わせた四十七万七千字のどこにも書かれていません。書いて出し、それを客に知らせること。申請書が「酒類」の名で求めているのは、それだけです。

ひとつ手前の号と比べると、この軽さがはっきりします。同じ第四号のハは客に遊興をさせる場合にあっては、その内容及び時間帯を書かせ、第五号は興行について興行の内容、態様及び時間帯を書かせます。遊興と興行には時間帯を申告させるのに、酒には時間帯を聞いていない。制度が時間で管理しようとしているのは、酒のほうではありません。

「賭博」の二字も、そこには無い

「賭博」の二字も、そこには無い
トランプとグラスを並べた参考画像

第二条第七項が書いたのは「偶然の事情により金銭の得喪を争う行為」

「酒」が無いだけではありません。カジノを解禁した法律の全文に、「賭博」の二字も出てきません。「博」の字そのものが〇回です。「賭」は二回だけ現れますが、どちらも賭金額という語の一部で、書類の記載事項としてしか登場しません。

では、その法律は何をしていることにしているのか。第二条第七項の定義がこう書きます。

この法律において「カジノ行為」とは、カジノ事業者と顧客との間又は顧客相互間で、同一の施設において、その場所に設置された機器又は用具を用いて、偶然の事情により金銭の得喪を争う行為であって、海外において行われているこれに相当する行為の実施の状況を勘案して、カジノ事業の健全な運営に対する国民の信頼を確保し、及びその理解を得る観点から我が国においても行われることが社会通念上相当と認められるものとしてその種類及び方法をカジノ管理委員会規則で定めるものをいう。

特定複合観光施設区域整備法 第二条第七項

「偶然の事情により金銭の得喪を争う行為」。賭博という語を使わずに、賭博の中身だけを書いた一文です。しかも末尾で、種類と方法は規則で定めると投げている。規則の別表には、バカラもポーカーも、配り方から支払いの端数処理まで書かれています。

刑法の側には「偶然」が無い

面白いのは、対になる刑法の側です。刑法には「賭博」も「賭」も「博」もありますが、「偶然」という語は全文で〇回です。第百八十五条はこう書くだけです。

賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

刑法 第百八十五条

何が賭博なのかは書いていません。書かずに、罰だけを書いている。第百八十六条第二項は賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。と続きますが、ここでも定義は出てきません。

結果として、二つの法律は同じ行為を、互いの語を一度も使わずに書いています。刑法は「賭博」と呼びながら中身を書かず、整備法は中身を書きながら「賭博」と呼ばない。カジノの卓で頼まれた一杯を語るとき、その卓の上で行われていることの名前が、法律によって二通りに分かれているわけです。

「賭」は二回、どちらも書類の話

二回の「賭」を実際に開くとこうなります。第五十三条は業務方法書の記載事項を並べた条で、カジノ行為の種類及び方法に関する事項(賭金額、払戻率その他のカジノ行為に関する事項を含む。)と書きます。第五十四条のカジノ施設利用約款にも、同じ括弧書きが繰り返されます。

賭ける行為そのものを語る場面ではなく、いくら賭けられるのかを紙に書いて出せという場面にだけ、この字が現れる。ここまでが卓の話です。ここから先は、その隣のカウンターの話になります。

窓は塞げ、時計は見せろ

窓は塞げ、時計は見せろ
バックバーとカウンターの参考画像

第十条第二号|内部が外部から容易に見通せないこと

カジノには時計も窓もない、という話を聞いたことがある人は多いと思います。客に時間を忘れさせるためだ、と説明される定番の話です。ところが日本の規則を開くと、この二つは同じ扱いを受けていません。

規則第十条は、カジノ施設の構造と設備の技術上の基準を九つの号で並べた条です。その第二号がこうです。

内部が外部から容易に見通すことができないものであること。

カジノ管理委員会関係特定複合観光施設区域整備法施行規則 第十条第二号

外から中が見えてはいけない。第七号イでも、カジノ行為区画についてまったく同じ一文が繰り返されます。窓が無いのは、客を閉じ込めるためではなく、外から中が見えないようにするためだ、という書き方です。

第十条第七号ホ・第八号ホ|正確な時計を明確に視認できるよう

時計のほうは、逆です。同じ第十条が、二度にわたって同じ一文を置きます。

正確な時計又は時刻を表示する設備を顧客が明確に視認できるよう配置すること。

カジノ管理委員会関係特定複合観光施設区域整備法施行規則 第十条第七号ホ(カジノ行為区画)/第八号ホ(本人確認区画)

「正確な」と「明確に視認できるよう」が重なっています。置けとだけ書いたのではなく、狂っていないことと、客の側から見えることまで求めている。俗説の片方は制度に取り込まれ、もう片方はひっくり返されている形です。

この条が置かれているのは免許の基準の側です。法第四十一条第一項第八号が技術上の基準を規則に委ね、規則第十条が受けています。法第六十六条第一項は免許後もこの基準に適合するよう維持せよと書くので、開業のときに時計を置いて終わりではありません。

二十四時間で区切られる入場料

時計の一文が効いてくる場面は、別の条を読むとわかります。法第百七十六条第一項は、国が入場者に三千円の入場料を賦課すると定めます。第百七十七条第一項は、認定都道府県等がさらに三千円を賦課します。合わせて六千円です。そしてこの入場料は、時間で区切られています。

条文 内容 金額・回数
法 第百七十六条第一項 国が賦課する入場料 3,000円
法 第百七十七条第一項 認定都道府県等入場料 3,000円
法 第百七十六条第二項〜第六項 再賦課・再々賦課の区切り 24時間ごと
法 第六十九条第四号 過去7日間の入場回数の上限 3回
法 第六十九条第五号 過去28日間の入場回数の上限 10回

第百七十六条第二項は、入場料を納めた人がその後初めてカジノ行為区画に入場した時から二十四時間を経過する時までは追加で取らないと定め、第三項はその時点でまだ滞在していれば再び賦課すると定めます。第五項でもう一度同じことが起きる。何時に入ったのかを知らなければ、いくら払うかも分かりません。

規則は時計の目的を書きません。書いてあるのは義務のほうです。規則第五十四条第一項第八号は、入場回数の制限に掛かることになる日時を記したものを客に交付するなどして当該入場者が当該日時を常時確認できるようにすることと定めます。時刻を客に知らせることは、この制度では明文の義務です。

十ルクスと、隠れられない席

十ルクスと、隠れられない席
ろうそくの灯りとグラスの参考画像

第三十八条第二項が定める二つの数値

法第六十六条第三項は、こう書きます。

カジノ事業者は、カジノ管理委員会規則で定めるところにより計ったカジノ施設内の照度を、カジノ管理委員会規則で定める数値以下としてその業務を行ってはならない。

特定複合観光施設区域整備法 第六十六条第三項

「数値以下としてはならない」ですから、規則の数字は下限です。暗くしすぎてはいけない、という規定になっています。その数字が規則第三十八条第二項にあります。

区分 照度の下限
専らカジノ行為の用に供される部分、ケージ及びバウチャー払戻機を設ける部分 150ルクス
前号に掲げる部分以外の部分(飲食物の提供をする客席、通路、便所ほか) 10ルクス

賭けの卓は百五十ルクス、それ以外は十ルクス。十五倍の差があります。ヴェスパーが出てくるカウンターは下の十ルクスの側です。飲食物の提供をする部分が、規則第九条第六号で「専らカジノ行為の用に供される部分」から外されているためです。

測るのは、グラスが置かれる面

数字より驚くのは、どこで測るかを書いた第三十八条第一項のほうです。飲食物の提供をする部分については、こう指定されています。

客席に食卓その他の飲食物を置く設備がある場合にあっては、当該設備の上面及び当該上面の高さにおける顧客の通常利用する部分

カジノ管理委員会関係特定複合観光施設区域整備法施行規則 第三十八条第一項の表

食卓の上面。つまり、グラスが置かれている面です。椅子だけで卓が無い客席なら椅子の座面、椅子も無ければ床面と、続けて書かれています。カジノ行為の卓のほうも同じ考え方で、椅子があるテーブルならテーブルの上面と椅子の座面の両方が測る位置になります。

十ルクスは、ろうそく一本の食卓がだいたいその前後です。第六十六条第三項は「以下としてはならない」なので、十ルクスちょうども許されません。暗いバーはこれを割ることがありますが、カジノの中ではできない。この一杯が置かれる面の明るさが、規則の表に数字で入っています。

見通しを妨げる設備を設けない、施錠できる設備を設けない

明るさだけではありません。規則第十条第七号ヘの表は、「専らカジノ行為区画内関連業務の用に供される部分」について、客席を設ける場合の条件を二つ挙げます。

イ 当該客席を設ける部分の内部に見通しを妨げる設備を設けないこと。
ロ 当該客席を設ける部分の出入口に施錠できる設備を設けないこと。

カジノ管理委員会関係特定複合観光施設区域整備法施行規則 第十条第七号ヘの表

衝立で仕切れない。鍵のかかる個室にできない。同じ表の一には監視設備を設けることにより上欄に掲げる部分の状況を適切に監視できることとあるので、見えることと見張れることが揃って求められています。外からは見えないようにしろと言った同じ条が、中では見通せるようにしろと言っている。

五平方メートルと、接待は、そもそも外れる

さらに手前で切られているものもあります。法第二条第十一項第一号は、飲食物の提供をする業務のうち、次の二つを関連業務から除いています。

イ 顧客の接待(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律…第二条第三項に規定する接待をいう。)を伴うもの
ロ 他から見通すことが困難であって、その広さが五平方メートル以下である客席を設けて行うもの

特定複合観光施設区域整備法 第二条第十一項第一号

見通しが困難で、かつ五平方メートル以下の客席。この二つが重なった席は、そもそもカジノ行為区画の中では認められません。狭いだけなら外れず、見通しにくいだけなら外れず、「他から見通すことが困難」と「五平方メートル以下」が両方そろったときに外れる書き方です。

そして法第九十一条第九項は、承認を受けたこの業務について風俗営業適正化法の規定は、適用しないと定めます。風営法の側から抜き、そのかわりにカジノ管理委員会へ「酒類の提供の方針」を出させる。監督の宛先を丸ごと付け替えているわけです。

酔いは数字ではなく、状態と言動で見られる

酔いは数字ではなく、状態と言動で見られる
夜のバーで乾杯する場面の参考画像

規則第五十六条|規則だけが、客に向かって一度アルコールと言う

四十七万字を通して、酒の量を測る規定はひとつもありません。では、飲みすぎた客はどこで拾われるのか。二本あります。一本目は、規則の中でただ一度「アルコール」の語が客に向けられる条です。

三 次に掲げる顧客にカジノ行為を行わせないこと。
…ロ アルコール又は薬物の影響によりカジノ行為に関して正常な行為ができないおそれのある状態にある顧客

カジノ管理委員会関係特定複合観光施設区域整備法施行規則 第五十六条第一項第三号ロ

量ではなく状態で切っています。しかも「促す」ではなく、行わせるなという禁止です。この条の根拠は法第七十三条第三項ですが、法の側はそこで「アルコール」と言いません。法が酒に触れるのは営む側と働く側の資格の話だけで、客に向かって一度だけ言うのは規則のほうです。同じ項の第四号はカジノ行為を長時間連続して行っていることその他の言動を勘案し、一時的にカジノ行為を行わないよう促せとも書きます。

規則第四十五条|退場を促す措置又は休憩を促す措置

二本目は、依存の側から拾う条です。規則第四十五条第一項がそれにあたります。

カジノ事業者は、法第六十八条第一項第二号に掲げる措置として、カジノ施設における顧客の言動や顧客のカジノ施設の利用状況に照らし、カジノ行為に対する依存による悪影響を防止する観点からカジノ施設を利用させることが不適切であると認められる者の発見に努め、その者の状況に応じ、カジノ施設からの退場を促す措置又は休憩を促す措置を講ずるものとする。

カジノ管理委員会関係特定複合観光施設区域整備法施行規則 第四十五条第一項

手がかりは二つです。顧客の言動と顧客のカジノ施設の利用状況。第一項で打てる手も二つ、退場を促す措置か休憩を促す措置。第二項はさらに、本人からの申出と相談を勧奨する措置を足します。どれも「促す」「勧奨する」で、強制ではありません。

この条は酒の条ではなく依存の条で、酒の名前は出てきません。卓の側では一度だけ名前を呼び、席の側では呼ばない。どちらも見ているのは量ではなく、状態と言動です。

自分から止める、家族から止める

法第六十八条第一項第一号を受けた規則第四十四条第一項は、四つの措置を並べます。本人の申出による入場禁止と一月あたりの回数制限、そして家族その他の関係者の申出を受けて事業者が必要と認めた場合の入場禁止と回数制限です。第二項第三号は、本人の申出による措置について実施期間は、一年以上の期間であって、当該措置の申出をする入場者の意向に沿った期間とすることと定めます。

依存の法律のほうは、一条を割いて酒に触れている

隣の法律を開くと風景が変わります。ギャンブル等依存症対策基本法は、附則まで含めて七千二百六十四字しかない短い法律です。この中に「カジノ」の語は一度も出てきません。第二条は「ギャンブル等」を法律の定めるところにより行われる公営競技、ぱちんこ屋に係る遊技その他の射幸行為と括弧書きで定義し、名指しするのは公営競技とぱちんこですが、法律で解禁されたカジノ行為も「その他の射幸行為」に入ります。

ところが、この短い法律は一条をまるごと使って酒に触れています。第四条です。

(アルコール、薬物等に対する依存に関する施策との有機的な連携への配慮)
ギャンブル等依存症対策を講ずるに当たっては、アルコール、薬物等に対する依存に関する施策との有機的な連携が図られるよう、必要な配慮がなされるものとする。

ギャンブル等依存症対策基本法 第四条

見出しにも本文にもアルコールが入っています。第十三条第二項は、都道府県の計画が都道府県アルコール健康障害対策推進計画その他の計画と調和が保たれたものでなければならないとも書きます。全文で「アルコール」は四回。文字数あたりで見れば、十三万四千字に一回の整備法とは桁が違います。

カジノを建てる法律は客の酒に何も言わず、依存を扱う法律だけが酒に手を伸ばしている。場所を作る側と、その場所で起きることを引き受ける側とで、酒の扱われ方が真っ二つに分かれています。

本記事が確認できたことと、できなかったこと

確認できたのは、条文に書いてあることだけです。字数と語の回数はe-Govの現行条文の全文から数えました。金額と数値は、法第百七十六条・第百七十七条・第六十九条・第二条第十一項、規則第三十八条によります。

確認できていないことも書いておきます。日本にはまだ開業したカジノ施設がないため、この記事に出てくる十ルクスや時計の条文が、実際の現場でどう運用されるのかは分かりません。「酒類の提供の方針」として各社が何を書くのかも、まだ世に出ていません。施行令第三十九条は、法第百七十四条第二項が委員会職員らに課すカジノ行為の禁止についてカジノ管理委員会の事務局の職員がカジノ管理委員会の所掌事務の遂行に必要な調査としてカジノ行為を行う場合を例外に置いていますが、これが使われた例も確認できていません。

それから、この記事は賭けを勧めるものではありません。読み取ったのは、ひとつのカクテルが生まれた場所を制度の言葉で作るとどうなるか、それだけです。同じやり方で「作り方と名前は誰のものか」を読んだ記事としてマイタイがあります。飲み終えたあとの帰り道については食後酒で扱いました。

飲まないお酒の査定・買取はリンクサスへ

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ボトルを確認する場面の参考画像

ヴェスパーのようにベースを二本使う一杯は、片方だけが減って片方が残りがちです。開けていない一本が眠っているなら、状態のよいうちに査定に出すという選択があります。リンクサス酒販では品揃えの拡充にあわせて買取のご相談を承っており、当日十四時までのご注文で当日発送にも対応しています。

リレ・ブランのようなワインベースの一本は開栓後の劣化が早く、未開栓かどうかで扱いが変わります。強い蒸留酒でも、直射日光と温度差はラベルと液面に効いてきます。スピリッツの基礎と取扱商品の一覧もあわせてご覧ください。

よくある質問

よくある質問
カクテルグラスを並べた参考イラスト
ヴェスパーとはどんなカクテルですか。

ジンとウォッカを同じグラスに入れ、ベルモットの代わりにリレ・ブランで香りを付けて、シェイクで仕上げる辛口のショートカクテルです。イアン・フレミングが一九五三年に発表した小説『カジノ・ロワイヤル』の中で、主人公がバカラの卓を離れたあとにバーテンダーへ配合を指定して生まれました。名前は同じ物語に登場するヴェスパー・リンドから取られています。

ヴェスパーの度数はどのくらいですか。

一メジャーを三十ミリリットルとして、ジン九十ミリリットル・ウォッカ三十ミリリットル・リレ・ブラン十五ミリリットルで計算すると、純アルコールは五十六・八五ミリリットル、加水前の度数は四十二・一パーセントになります。シェイクの加水を二十五から四十パーセントと置くと、仕上がりは三十から三十四パーセント前後です。銘柄の度数で上下しますが、見た目より強い一杯であることは変わりません。

マティーニとの違いは何ですか。

三つあります。第一にベースがジン一本ではなくジンとウォッカの二本であること。第二に割り材がドライベルモットではなくリレ・ブランであること。第三にステアではなくシェイクで作ることです。三つのうちどれか一つを戻せばマティーニに近づくので、派生というより決まりごとを三つとも踏み外した一杯だと言えます。

リレ・ブランが手に入らないときはどうしますか。

柑橘の香りを持つアペリティフワインなので、性格の近いアロマタイズドワインで代えられます。ドライベルモットを使うとウォッカ入りのマティーニに近づきますが、飲みものとしては成立します。原作のキナ・リレは一九八六年に名前と配合が変わってリレ・ブランになったと伝えられており、当時の苦味に寄せたいときは、苦味のあるリキュールをごく少量足す作り方も知られています。

なぜシェイクで作るのですか。

原作が「氷のように冷えるまでよく振れ」と指定しているためで、これがこのカクテルの目印になっています。振ると空気を含んで口当たりが変わり、氷の角が削れて加水が増えるので、強いスピリッツの当たりがやわらぎます。液体はわずかに白く濁りますが、それも仕上がりの一部として受け入れられています。

日本のカジノの法律に、お酒の規制はありますか。

特定複合観光施設区域整備法の全文十三万四千六十字に「酒」の字は一度も出てきません。施行令にも出てきません。カジノ管理委員会規則には「酒」が八回ありますが、これは四か所に置かれた同じ一文の中の二回ずつで、内容は「酒類を提供する場合にあっては、酒類の提供の方針及びその周知方法」を申請書に書くという求めです。提供の上限や度数の上限を定めた規定は、三つを合わせた四十七万七千字のどこにもありません。ただし規則第五十六条第一項第三号ロは、アルコール又は薬物の影響でカジノ行為に関して正常な行為ができないおそれのある状態の客に、カジノ行為を行わせてはならないと定めています。

カジノに時計や窓が無いというのは本当ですか。

日本の規則では、この二つの扱いが分かれています。規則第十条第二号は「内部が外部から容易に見通すことができないものであること」と定めていて、外から中が見えない造りを求めます。一方、同じ条の第七号ホと第八号ホは「正確な時計又は時刻を表示する設備を顧客が明確に視認できるよう配置すること」と定めていて、時計はむしろ見せる義務になっています。

カジノの中のバーは、どのくらいの明るさが必要ですか。

規則第三十八条第二項が二つの数値を置いています。専らカジノ行為の用に供される部分とケージなどは百五十ルクス、それ以外の部分は十ルクスで、飲食物の提供をする客席は十ルクスの側です。法第六十六条第三項が「規則で定める数値以下としてその業務を行ってはならない」と書いているので、これは下限です。測る位置は、客席に食卓がある場合は「当該設備の上面」、つまりグラスが置かれる面と指定されています。

カジノの入場料はいくらですか。

法第百七十六条第一項で国が三千円、第百七十七条第一項で認定都道府県等が三千円を賦課するので、合わせて六千円です。入場した時から二十四時間を経過してもまだ滞在している場合は再び賦課され、さらに二十四時間で再々賦課されます。入場回数にも上限があり、法第六十九条第四号と第五号で、過去七日間に三回、過去二十八日間に十回までとされています(本邦内に住居を有しない外国人を除く)。

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